紅茶と木組みのめぐり逢い   作:ムイト

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第24話 律儀な不良ウサギ

 

 

 

 ―ラビットハウス・バータイム―

 

 

 昼間の落ち着いた雰囲気を醸し出すラビットハウス。しかし、夜はそこに大人の色気・・・と言うのだろうか、普段とは異なる雰囲気があった。

 

「む、タカヒロのやつはどこに行った?」

 

「タカヒロさんは上にいます。少しやる事があるみたいで」

 

 ここにいるのはルクとティッピーだけ。タカヒロは別の事の期限が近いらしく、今日は出勤できない可能性があるとのこと。まぁ基本的にここでしか働いていないので、多少ルクの勤務時間が伸びても問題ない。

 

 バータイムのラビットハウスも1人でこなす事も増えてきており、タカヒロの負担を軽減している。信頼されているようでなによりだ。

 

 しかし今日は客が来ない。時間的にもう来ないだろうと考えていると、小さな影が扉に移り、そのまま入店してきた。

 

「いらっしゃ・・・え?シャロ?」

 

「こ、こんばんは・・・・・・」

 

 なんと現れたのはパジャマ姿のシャロだった。しかも震えている。夏は終わったとはいえ、薄着で夜を過ごせるくらいには気温は低くないはず。

 

 カウンターから出たルクはシャロに近づき様子を伺う。体調が悪いという感じではなさそうだ。千夜と喧嘩でもしたか・・・いや、シャロの顔に現れていたのは【恐怖】だ。

 

「どうしたの?」

 

「ちょっと匿ってくれませんか」

 

「えぇ・・・・・・ひとまずチノの部屋に行こっか」

 

 これはルクに解決できそうな問題では無い。とりあえず店の看板をCLOSEにしてから、まだ寝ていないはずのチノの元へシャロを届ける。

 

「チノ、いい?」

 

「どうぞ」

 

 ルクはチノの部屋の扉を開ける。中ではチノとココアが寄り添っていた。

 

「あれ?シャロちゃん!?」

 

「どうかしたのですか?」

 

「なんか匿って欲しいんだって」

 

「「夜逃げ?」」

 

「いや違うだろ・・・違うよな?」

 

 念の為確認をとるルク。

 シャロは小さく頷き、ポツリと事情を説明し始めた。どうやら自宅で怪奇現象が発生しているらしい。不審者じゃなくてよかった。

 天井や床下から物音が、たまに部屋の中に葉っぱが盛られている。物音ならまだしも、置いたはずのない葉っぱが置かれているのはおかしい。

 

 考えられるのはネズミ等の小動物。鳥とかの可能性もある。

 まぁこの街で考えられるのは・・・・・・。

 

「お化けかな」

 

「ウサギかもしません」

 

「どっちも嫌!」

 

「じゃあウサギのお化けだ!」

 

「ッ!」

 

「あ、倒れた」

 

 ウサギのお化け。

 怖いものとウサギが苦手なシャロにとっては最悪の組み合わせだ。あまりの恐怖のに倒れてしまった。

 

 直ぐに意識を取り戻したシャロは、珍しくココアに引っ付いて離れない。まぁ自宅に謎の現象が発生したまま過ごすのは嫌だろう。

 

「ていうか千夜に連絡したのか?」

 

「千夜は・・・夜は反応しないんです。おばあちゃんもいるから固定には電話しにくくて」

 

「夜中にチャイムを鳴らすわけにはいかないですしね」

 

「よし!なら今日はここで寝よう!」

 

 ココアはそう言って部屋を飛び出して自分の布団を持ってきた。敷布団はチノの部屋にあるやつを使うようだ。

 さすがにルクも一緒に寝る訳にはいかないので、シャロを2人に預けた後、ルクは仕事に戻った。

 

 バータイムが終わり、店を閉めて自室に戻る前にチノの部屋の様子を扉の前で伺うが、起きている気配は無い。無事に眠れたようでなにより。

 

 翌朝、驚いた様子のタカヒロに申し訳なさを感じながらも、朝食を用意するチノとココア。ルクは昨日の事をタカヒロに説明している。

 ちなみに、今日は普通に学校があるが、シャロを一旦家まで送る必要があるため、いつもより早めの朝食だ。

 

「なるほど。事情はわかった。チノ達を頼ってくれてありがとう」

 

「いえ・・・遅くにお邪魔しちゃってすみませんでした」

 

「ルク君、この後はシャロ君を送っていくのだろう?」

 

「えぇ、まぁ」

 

「片付けはいいから朝食を食べたら直ぐに行きなさい」

 

「わかりました」

 

 タカヒロの好意に甘え、ルクとシャロは朝食を食べ終わると直ぐに家を出る。パジャマ姿のシャロをそのまま送るわけにはいかないので、ルクの上着を貸すことに。

 

 幸いシャロの家に到着するまで他の市民に出会う事はほとんど無く、なんとか彼女を送る事ができた。

 帰り道、ルクはこの事をリゼに報告した。同じ学校である彼女にならシャロの事を任せられる。たまたま携帯を見ていたのか、直ぐに返事が来た。「任せろ!」という頼もしい文章に、「By Ghost Busters」の文字が。結構ノリノリである。

 

 リゼの報告によれば、放課後シャロの家に行き、原因究明につとめるとの事。事情を聞いて送り届けたという手前、このまま放置はできない。急遽ルクも参加する事に。

 

 ラビットハウスの清掃を終え、時計を見ると学生達の下校時刻になっている事に気がつく。携帯を見るとリゼからメッセージが入っており、そろそろシャロの家に向かうとの事。ルクはティッピーにこの場を任せて香風家を出た。

 

 シャロの家に到着すると、ちょうどリゼとシャロとばったり合流した。2人が浮かれている様子なのは気の際だろうか。

 

「よう」

 

「あ、ルクさん。昨日はありがとうございました」

 

「本当に災難だったね。とりあえず中に入る?」

 

「はい」

 

 シャロが自宅の鍵を開けていると、甘兎庵の扉が開き、千夜が姿を見せた。会話が聞こえたのか気配を感じたのかはわからないが、まっすぐこちらに近づいてきた。

 

「シャロちゃん!ココアちゃんから聞いたわ!なんで私を呼んでくれないの?」

 

「いやまぁ夜中だったし?というかあんた夜中は電話に出ないでしょ!」

 

 シャロのツッコミに対して千夜が否定しない事から、夜の千夜は寝てしまうと本当に起きないらしい。きっと寝る時間も早いのだろう。健康的で良いことだ。

 千夜に迷惑をかけたくないのも理解できるが、そもそも彼女が反応しない事には相談もできない・・・こんな感じだったのだろう。

 

「・・・・・・お隣がお化け屋敷とか嫌でしょ?」

 

「うーん・・・・・・OK!」

 

「「いいのかよ」」

 

「はぁ・・・入りましょうか」

 

 千夜に呆れるシャロ。自宅の隣がお化け屋敷と化してしまう・・・普通は嫌だろうが、相手は千夜だ。お化け屋敷を甘兎庵成長のための糧にしてもおかしくない。というかやりかねない。

 

 幼馴染のこういった回答にも慣れているのか、シャロは軽く受け流すと自宅の鍵を開けてルク達を中へ入れる。

 家の中に入り中を見渡す。特に変わった所はないようだ。雑誌が落ちている事(・・・・・・・・・)以外には。

 

「お茶にしましょうか。なんのカップにしますか?」

 

「私いつもの〜」

 

「「・・・・・・」」

 

「どうかしましたか?」

 

 千夜は相変わらずだったが、他の反応が無いことを不思議に思い2人の顔を見る。なぜか微妙な反応をしていた。

 

「なぁルク」

 

「ああ。シャロ、あの雑誌・・・動いていないか?」

 

「え?」

 

 ルクが指さした先にある雑誌をよく見ると、不自然に開いたページの下に何かがいるかのように本が揺れていた。玄関や窓は閉めているので風ではないだろう。

 

 シャロは不自然に揺れる雑誌を確認すると、カップを持ったまま固まってしまった。この時、千夜はカップが割られない様に、彼女の手からそれを抜き取りキッチンへ置いた。

 

「ポルターガイストってやつじゃないかしら!」

 

「嬉しそうだな」

 

 こちらを向いてパンッと手を合わせ目を輝かせる千夜。そんな彼女にルクはツッコミつつ、シャロの前に立ち視界を遮る。これで多少楽にはなるはずだ。

 

「こら!隠れたとは言わせないぞ!」

 

 そしてリゼが素早く雑誌を取り上げ、ポルターガイストの正体を掴もうとした。

 

 雑誌の下には一体何が・・・・・・。

 一同は雑誌があった場所を覗き込む。

 

「あれ?ウサギじゃん」

 

 そこには鋭い目に傷を付けたウサギが草を咥えてペタリと座っていた。

 

「ひっ・・・この不良ウサギ知ってる。公園にいたの」

 

「尾行されて家を突き止められたんだな。お前やるな!」

 

「あんことお友達になれるかしら?」

 

 3人の少女の反応はそれぞれだったが、当事者以外はあきらかに本件とは関係のないコメントだ。リゼに至っては感心してしまっている。

 

 どうやらこのウサギはシャロの知り合いの様だ。これにて一件落着・・・と言いたいところだが、本人がウサギに対して苦手意識を持っているので何かしらの解決策を導き出さなくてはならない。

 

 どうしたものかと考えていると、不良ウサギはシャロの前に咥えていた草をそっと置いた。

 

「これ、家賃のつもりね」

 

「律儀だなぁ・・・ん?シャロ?」

 

「先輩、この草ウチで育てているハーブです」

 

「うわぁ・・・・・・」

 

 なんとこのウサギが咥えていたのは自家栽培のハーブ。自分で育てている植物で支払われるのはつらいだろう。

 というかこのウサギはシャロの事をよく見ている。でなければ家賃にハーブを選ばないだろう。結構賢い子なのかもしれない。

 

 震えるシャロからウサギを離すため、ルクはウサギを抱えて家の外へ出る。そっと地面に降ろすと、後ろから着いてきたリゼがウサギの頭を撫でた。

 

「ごめんな。シャロはウサギが苦手なんだよ」

 

「でも視線はシャロちゃんに向けているわ」

 

 ウサギは地面にペタリと座り込む。周囲を警戒しているようだが、視線だけはシャロに向けている。彼女のどこを気に入ったのだろう。

 

「この際仲良くしてみるのはどうだ?」

 

「先輩!?」

 

「ウサギが嫌いなわけではないんだろ?」

 

 そう。

 シャロはウサギが苦手なだけで嫌いではない。

 まとわりつかれたり、齧られたりするのであまり近づきたくないだけなのだ。

 

 彼女自身もそれを理解しているので、決して暴行や暴言をぶつける事はしなかった。

 苦手を克服できればどんなに良いか・・・何度もそう思った。

 

「わかりました。この期に仲良くしてみます」

 

「名前は私がつけよう。ワイルドギースだ!」

 

「先輩ありがとうございます・・・!ほら、あんたはワイルドギースよ」

 

 シャロは屈んで不良ウサギ改めワイルドギースに話しかける。

 どうやらこの名前を気に入ったのか、ワイルドギースはピコピコと耳を動かしその場で回転する。

 

「いい名前みたいだったな」

 

「リゼちゃんやるぅ〜」

 

 パチパチと手を叩くルクと千夜。リゼは照れくさそうに頬をかいた。

 一方でまだ見つめ合う1人と1匹。まるで運命の出会いであるかのようだ。シャロは同居人を、ワイルドギースは居場所を得た。

 これが彼女達の今後にどう影響するのかはまだわからないが、悪い方には転がらないだろう。そう信じたい。

 

 数日後、シャロの家を覗いた千夜が見たのは、ワイルドギースにからまれながらも、なんとかウサギ小屋を作っている家主の姿。

 口では同居人への文句を言っているものの、仲良くしようと努力している彼女の姿に、千夜は少しだけ嬉しくなり、さっそくからかいに行ったのだった。

 

 

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