「ねーねー。2人は進路どうするのー?」
休み時間、唐突にマヤがチノに話しかけてきた。もちろんメグも一緒。
この街にある高校は2つ。ココアと千夜が行っている街の女子校と、リゼとシャロが行っているお嬢様学校だ。
「そうですねぇ。このまま行けばココアさんの通う高校へ行く事になるでしょうね」
「私はリゼさんの学校を勧められてるよ?お母さんにだけど」
「そうなの!?」
なんと。
3人全員がココアの学校と思いきや、メグだけ違う高校に行く可能性が出てきた。
てっきり皆一緒だと思っていたマヤは驚きを隠せない。
「あそこはお嬢様学校だよ!?ご機嫌よう症候群になる!」
「なんですかその病気・・・・・・」
マヤの言った謎の病気に呆れながらも、3人はそれぞれの進路について考え始めるようになった。
自分はどこへ行けば良いのだろう。
もし3人が別れてしまったら?
色んな考えが頭の中を過ぎった。
それからあっという間に下校時刻になり、マヤはチノとメグと別れていつもとは異なる下校ルートで帰宅した。
しばらく歩き、ある場所に近づくと建物の影に隠れる。
そして目的の人物が通り過ぎると、ゆっくりと跡をつけるように建物から出ようとした。
しかし――
「むっ!誰だ!」
「あちゃー!バレちゃったかぁ・・・さすがはリゼだね」
目的の人物とはリゼの事である。
マヤは追跡するはずがあっさり見破られてしまった事に驚きつつも、尾行を初めて直ぐに見破ったリゼに感嘆した。
もっとも、リゼが感じた視線はうさぎのモノであり、マヤの尾行に気がついたわけではない。
本当につけられていたと思っていたなかったリゼは少しだけ恥ずかしかった。
「なんだ私をつけたりして」
「うん、いやまぁね・・・・・・あのさっ、今の高校は楽しい?」
「ウチか?そうだなぁ、お嬢様学校と言っても通っているのは私やココアと変わらない歳の生徒だし、案外他校と変わらないんじゃないかな。私は楽しいと思う」
「そっか・・・・・・」
いつもとは異なり悩むような素振りを見せるマヤに、リゼは真剣な表情を浮かべるが、近くにとある店を見つける。
「あ、ジェラート食べるか?奢るよ」
「やったー!」
マヤの表情は明るくなり、いつもの調子に戻った。少しだけホッとしたリゼは、2つのジェラートを注文する。
2つのジェラートを手に、リゼはマヤに近くのベンチに座るよう促す。
「それで?何があったんだ?」
「・・・・・・友達が別の学校に通う事になったらもう親友じゃいられなくなるのかな」
「ほう」
「本当はチノとかメグと同じ高校がよかったんだよね。でも3人一緒になりそうもなくてさ」
リゼは珍しく真面目に考え事をしているマヤに驚きつつも、頼られたからには答えを出さなくてはと自身の経験を口に出す。
「私も昔からの付き合いがある友人はいるけど今でも連絡はとってるし遊んでるぞ。関係が変わったとは思えないな」
真の友達というのは学校が変わっても連絡を取り合うもの。災害や感染症が原因で年単位で連絡できなかった場合は例外だが、付き合いが自然に続く人間は友人を名乗ってよいのではないだろうか。
人生何が起こるのかはわからないもので、幼稚園で出会った人間と大人になって酒を交わす事もありうるのだ。
だから別の学校に行ったとて「それがどうした」と堂々としていればよいのである。
「・・・・・・そっか。そうだよね」
リゼの言葉に納得したのか、マヤはふんすと意気込み残りのジェラートを平らげた。
すると――
「マヤちゃん!私達はこれからも一緒だよ!」
「まさかそんな事を考えていただなんて!」
前の植え込みからメグとチノが飛び出してきた。まさかとは思うが彼女達も尾行していたのではあるまいな。
植え込みにピッタリくっついていたのか制服には葉っぱが付着し、帽子には小さい枝まで絡まっていた。
マヤが文句を言おうとするが、それより先に2人が抱きついてきたためタイミングが合わなかった。
「チマメ隊は不滅です。例え高校が違っても!」
「そうだよ!私達友達だもん!」
素晴らしいかな。
3人の絆はより一層固くなった。
リゼはこのワンシーンに感動して涙が出そうになる。
マヤの悩みが解決したので、リゼ達は公園から出て再び家に向かおうとした。
公園の出口から出た瞬間、道路の反対側に知った顔が歩いているのを確認した。
「あ、ルクさんですね」
「いや待て、隣の女性は誰だ」
リゼは隣を歩くスーツ姿の女性に気がつく。歳はルクと近そうだが・・・・・・。
2人はこちらに気がつくことなく交差点を曲り、リゼ達に背を向けて歩き出す。付き合っている男女の距離ではなさそうだが、チノ達は年頃の乙女。こういった話にはくいついてしまう。
「彼女さんかなぁ」
「それにしては女性の腰が低すぎます。店員さんとお客さんの関係に見えます」
「聞いてみよう!」
「まてまて」
公園から飛び出そうとするマヤを押さえつけたリゼはチノとメグに木の影に隠れるよう促した。
「・・・よし。尾行するぞ」
少し考えたリゼはチマメ隊とルクの尾行を開始することにした。
制服だとさすがに目立つため、慎重に後をつけなければならない。
ルクと女性がある建物の中に入っていくとリゼ達は偶然を装い建物の前を通り過ぎる。
そして少し先の建物同士の隙間に入り込み、マヤを見張りにつけて他3人は話し合いを始めた。
「ここは空き家だな」
「ですね。やっぱりお店を開くための物件探しでしょう」
「でもあの女の人が不動産屋さんとは限らないよね」
実際のところ、ルクと一緒にいた女性は不動産屋の職員なのだが、普段そういった職業と関わりを持たない彼女達は確信が持てないでいた。
むしろ年頃の女子らしく恋愛話に意識がいってしまう。
あーだこーだと、3人時々マヤが話し合っていると、ルクに動きがあつた。
マヤは慌てて顔を引っ込めてリゼ達をさらに奥へ押し込んだ。
「あ、ヤバいヤバい」
「何っ、隠れろ!」
建物の反対側へ出たリゼ達は、向こう側へルクが通り過ぎるのを待つ。
ルクが横切ったのを確認すると、ゆっくりと路地を進み、再度表に顔を出す。やはりルクには気付かれていないようだ。
以降も同じような動きをルクとリゼ達は繰り返し、気がついたら空が暗くなり始めていた。
「一体何件見るのでしょうか」
「そもそもあの女性は誰だ?」
「やっぱり彼女なんじゃない?」
「不動産屋のお姉さんだよ〜」
ルクの彼女説を推すマヤ。
不動産屋の従業員説を推すメグ。
状況から見れば後者が正しいのだろうが、面白いのは前者だ。
リゼとしては後者を推しているのだが、絶対とは言いきれないのだ。
ルクが探しているのは店舗兼住宅なのは間違いない。ラビットハウスのような、この街では標準的な建物を見て回っている。
実際のところ、普段から店になるような建物を探していると言っているので後者が正解なのだが・・・・・・。
「あ、またどこかに行くみたいだよ」
「追うぞ!」
リゼ達は再度ルクの後を追う。
だがやる事は変わらないので、ルクが建物内にいる間は路地に隠れることに。
2人が建物から出てきたのは20分が経過した頃だった。
建物から出たルクは案内してくれたお姉さんに頭を下げる。
「今日はありがとうございました」
「いえいえ。いくつか候補が見つかっただけでも良い収穫だったのではないでしょうか」
「ただ購入の決定はまだ先になりそうでして・・・・・・先に購入したい方がいましたら優先して下さい」
今日見た建物の中には「これ良いな」と思う物件がいくつかあり、不動産屋に抑えてもらう事になった。無論、先に購入したい方が出た場合はそっちを優先されるが。
改めて抑えておく物件を確認し、今日のところはこれで解散となった。次は折をみ連絡する事になるだろう。
さてラビットハウスに戻ろうかと踵を返した途端、建物同士の隙間で物音がした。
うさぎでも迷い込んだのかと思い覗き込むと、なんとチノが箱に脚を引っ掛けているではないか。
「え、チノ?」
「・・・・・・あっ」
「どうしたんだ?」
「じ、実はうさぎを追っていたらこんな所にきてしまいまして」
チノとしてはリゼ達を庇う気はなかったのだが、これまでの流れからとっさに自分一人と言うことをアピールしてしまった。
なお、他の3人は建物の反対側で逃げ切っている。焦ったリゼ達だったが、誤魔化すチノに手を合わせて感謝をしていた。
「近くにいたのはルクさんだったんですね。聞き覚えある声なので気になっていたんですよ。誰かといたんですか?」
チノはさりげなく先程の女性の事を聞いた。
彼女自身、なぜこんな事をしているのかと思ったが、気にはなっていたのでこれは仕方のない事と割り切った。
ふとルクの後ろに視線を移すと、親指を立てたリゼ他2人がいた。
「不動産屋の人だよ。ほら、住居兼商業施設の物件を探していたんだ」
「そんな事も言ってましたね」
「いい物件もいくつか見つかったよ」
満足そうなルクだったが、そんな彼の顔を見たチノは、ふとある事が脳裏に浮かぶ。
「・・・・・・決まったら出ていってしまうんですよね」
「まぁね。寂しい?」
チノは今の生活が好きだった。
ルクがいて、ココアがいる。さながら兄と姉だった。特にココアがいたおかげで友人もできた。
ルクも良き相談相手になってくれた。父親以外で頼りになる男性がいるだけでチノの心に余裕が生まれたのだ。
動揺しないように話していたつもりだったが、普段聞かないような事を口に出したため、ルクに心の中を見透かされてしまう。
「そ、そんなはず無いじゃないですか!」
慌てて否定するチノ。しかし彼女の顔は真っ赤だ。
「そうかなぁ・・・・・・ま、いいや。ほら、帰ろうか」
「えっと、その・・・はい」
チノは差し出された手に戸惑いつつ、意を決してその手をとった。
そう言えばルクと手を繋ぐのは初めてかもしれない。握った手はタカヒロとは違い少し柔らかいが、しっかりとチノの手を包み込んでくれた。
2人は手を繋いでラビットハウスへ帰宅する。
そんな様子を見ていたリゼとマヤ、メグはニンマリとしながら見送ったのである。