紅茶と木組みのめぐり逢い   作:ムイト

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第3話 抹茶娘登場

 

 

 

 香風家にお世話になることが決まった翌日。チノ達は学校へ行くため制服を着てダイニングにいた。

 ルクがダイニングに入ると、チノが朝食の準備をしている。タカヒロは寝ているのだろうか。彼の部屋からは物音がしない。

 

「おはようチノ」

 

「おはようございます」

 

「今日から学校?」

 

 ルクはチノが持っているフライパンの中を見て後ろのある食器を並べながら話しかける。

 

「はい、新学期ですので。ルクさんはどうするんですか?」

 

「今日はこの街の探索かな。あ、午前の内に買い物も行ってくるよ」

 

「本当ですか!」

 

「何か買うものある?」

 

「朝ごはん食べたらメモを渡します」

 

「わかった」

 

 こんな会話をしながら朝食の準備は終わる。手際の良さは誰に似たのかわからないが、ずいぶんと上手に作れていた。もしかして母親に教わったのだろうか。

 

 しかしチノの母親は見ていない。遠くで働いているのかもしくは・・・・・・と、ここでルクは考えるのを止めた。これ以上は自分から入ってはいけない領域であると感じたからだ。

 キッチンからテーブルに朝食を移動させる2人。しかし肝心のココアが降りてこない。

 

「・・・・・・ココアさんが降りてきませんね」

 

「寝坊かな」

 

「ちょっと見てきます。あ、これ父からです。勤務時間とか店のスケジュール表です」

 

 チノから渡された紙を見るルク。

 確かにそこにはルク達の店でのスケジュールが書いてあった。

 

 ラビットハウスは基本的に火曜日から金曜日、土日祝に営業し、月曜日と祝日の翌日が休みらしい。

 営業時間は平日と土日祝で異なり、平日は喫茶店が16時から18時半、バーが19時から24時。土日祝は喫茶店が10時から休憩を入れて18時だが、バーは変わらない。ただし、喫茶店はチノ達や街のイベントに左右されるため、臨時休業となったり営業時間が変化したりするそうだ。

 

 次は個人のシフト。

 ルクのシフトは、バーは20時から22時で固定。喫茶店は平日はチノ達と同じで、土日祝は13時から。という事はチノ達の土日祝の昼飯はルクとタカヒロが作る事になるのだろう。

 

 なるほどねとルクが見ていると、その文章の下に赤文字でこう書いてあった。

 

 “ただし、朝武君の都合で時間を変更してもよい”

 

 つまり、忙しかった場合は喫茶店の時間をバーに移したり、などといった感じで調整しても良いという事なのだろう。

 

「土日祝はともかく、平日はなんか優しいなぁ。バーは2時間でいいんだなんて」

 

 現在ラビットハウスで働くしかないニート、ルク。ここ以外の選択肢はないため勤務時間に文句は言えない。

 本来ココアだけ受け入れるはずだったのにルクも住まわせてくれた。これにはタカヒロだけでなく、彼の友人、そして兄に感謝しなくてはならないだろう。

 

 この恩に報いるには、一刻も早くこの街の事、自分の事を見極めなければ。

 そうルクは思った。

 

 本日は月曜日。ラビットハウスは休みだが、休みの日でもやることはあるだろう。豆や酒の在庫確認やら調達やら。やれる事は手伝っていきたい。

 

「ココアさん、起きているなら早く降りてきてください」

 

「ごめーん!初登校で舞い上がっちゃって!」

 

 ダイニングに制服を着たココアが入ってくる。

 

「あ、おはようルクお兄ちゃん!」

 

「おはようココア。何やってたんだ?」

 

「鏡の前でポーズをとってました」

 

「わっ!わっ!言わないで!」

 

 顔を真っ赤にしてチノの口を塞ぐココア。どうやら彼女にも恥ずかしいことしたという自覚はあったらしい。

 その後、賑やかに朝食を食べ終わると、皿洗いをルクに任せてチノとココアは元気に家から出ていった。

 

(あ、昼食の事考えてなかった・・・・・・タカヒロさんと要相談だな)

 

 ルクが昼食をどうしようかと悩んでいる頃、ココアはチノと別れ、リゼと合流していた。ただし2人の高校は異なるため途中で別れたのだが、ココアが道に迷ってしまったため何度かリゼはココアと会うことになる。

 

 リゼの案内もあり、ちゃんとした通学路に戻ったココアは、視界の隅に公園を見つけて何を思ったか、そこへ直行してしまった。

 噴水広場の所にたどり着くと、和服を着たココアと同じくらいの歳の少女がうさぎに餌をやっていた。しかしその手に握られているのは何故か栗羊羹だった。

 

「食べないわ~。うちの子は食べてるのに・・・・・・あら?あなた、これ食べる?」

 

 いつの間にかうさぎの中に交じっていたココアに栗羊羹を差し出す少女。ココアはそれを受け取るとベンチに座って食べ始めた。登校途中なのをすっかり忘れている。

 少女はココアの来ている制服に視線を移した。

 

「あら、その制服私と同じね」

 

「え・・・そうなの?」

 

 むぐむぐと栗羊羹を食べるココアだったが、突然ハッとなってベンチから立ち上がった。もちろん食べてる途中の栗羊羹は鞄にしまう。

 

「そうだった!遅刻しちゃうよ!」

 

「あ、ちょ!」

 

 ココアは少女の手を取って走り出すが、100mほど走ると少女は思いっきりココアの腕を引っ張って動きを止めた。

 

「あのっ!学校は明日なの!」

 

「へ?」

 

「入学式は、明日よ?」

 

 自分がとんでもない勘違いをしていた事に気が付くと、ココアは叫び声を上げてしゃがみこんだ。

 そして2人は再び公園に戻りベンチに座り、ココアは気持ちを落ち着かせた。

 

「なんてことを・・・・・・あ、同じ学校なんだよね?私は保登心愛って言います!」

 

「ココアちゃんっていうのね。私は宇治松千夜よ」

 

 互いに自己紹介を忘れていたので改めて向き合う2人。話を聞く限り、千夜という少女は元々この街に住んでいて実家の和菓子屋で働いているらしい。

 

 自己紹介が済むと、千夜は高校にココアを案内し、ついでに覚えやすい通学路も一緒に考えた。

 13時を過ぎると2人は解散し、ココアはラビットハウスの近くでチノと再会。学校の事を聞かれたので、必死に誤魔化しながら自宅へ帰宅した。

 

「あ、おかえり。早いね」

 

 店内ではルクが掃除をしていた。いつもはタカヒロがやっているそうだが、これはルクが担当しなければならない案件だろう。

 

「今日は新学期初日なので午前終わりなんです。ココアさんは違うようでしたが」

 

「サボり?」

 

「違うよ!」

 

 しょぼんと落ち込みながら、学校が明日であることを話したココア。ルクは笑いを隠せず、チノは明らかに呆れていた。

 

 16時にもなるとリゼも店にやってきた。今日は新人2人のためにチノとリゼがいろいろ教えてくれるのだ。

 まずメニューを覚えるのと、接客のやり方を教えてもらう。ココアがメニューを覚えるのに苦戦していたが、なんとか覚えられた。

 

「次はラテアートだ。やったことあるか?」

 

「ない!」

 

「同じく」

 

 自慢げに宣言するココア。何でそんなに得意げなのか。

 

「カフェラテにミルクの泡で絵を描くんだ。見てろよ~」

 

 説明しながらカフェラテに花の絵を描くリゼ。あっという間に絵が完成してしまった。

 

「すごいよリゼちゃん!」

 

「そんなにすごいか?」

 

「ああ。才能だよこれは」

 

「もう1個作って!」

 

「しょうがないなー!」

 

 ルクとココアに褒められたリゼは照れつつも嬉しそうにカフェラテにもう一度絵を描いた。心なしか先ほどより勢いがある気がする。

 

 完成したラテアート。そこには予想外の物が描かれていた。

 

「こんなもんだ。私はそんなうまくないぞ?」

 

「いや人間業じゃないよ!」

 

「なぜにポルシェティーガー?」

 

 カフェラテの表面にはドイツ重戦車VK4501(P)、俗にいうポルシェティーガーがあった。しかも発砲煙付き。父親が軍人で護身用にガスガンを所持している影響か、そもそも器用なだけか・・・・・・。

 

 なお、ためしにルクも撃たせてもらったが、BB弾は中々命中しなかった。弾の込め方から身体の向きなどを教えてもらったが、リゼのそれは明らかにでき過ぎている。もしかすると実銃も撃っているのではと考えてしまう。

 

「知っているのかルク!」

 

「いやほら、兄さん軍人だし。俺もその影響でそれなりの知識をな?」

 

「あ、確かに」

 

「次は2人が挑戦してみてください」

 

 チノに促され、ルクとココアはラテアートに挑戦することに。ルクは花でココアはうさぎだ。

 

 必死にいじくること数十秒。なんとか第1作目が完成した。しかし、大まかな形はできているが、2人共細かい所が出来ていない。

 

「不格好な桜だ・・・・・・」

 

「顔が崩れた・・・・・・」

 

「初めてにしては上出来です」

 

「私もそう思うぞ(うさぎが可愛い!)」

 

 ただし、ココアの描いたうさぎは奇跡的にへにゃっとした顔となり、リゼには好評だった模様。

 

 チノにもラテアートを作ってもらったが、彼女の絵はなんというか・・・こう、芸術的なもので、ルク達の絵とは別の次元として考えた方がいい気がした。

 

 その後もチノやリゼに様々な事を教えてもらい、18時で解散となる。

 なお、ルクはそれからタカヒロにバーでの事を教わり、この日は初めて4人で夕食をとることとなった。

 

 賑やかな夕食の時間を過ごしている一方、天々座家の一室ではリゼがベッドに寝っ転がっていた。

 

「聞いてくれよワイルドギース。昨日来たルクとココアのラテアート練習があったんだけど、カフェラテ全部飲むの大変だったんだよ」

 

 などと言っているが、リゼが話しているのは人間でもペットでもない。枕元に置いてある軍人の格好をしたうさぎのぬいぐるみだ。

 

 つまり今のは独り言。

 普段はぬいぐるみに話しかける事はないため、リゼは自分がどういう感情を持っているのかがわかってしまう。

 

「く・・・・・・寂しくなんか、ないんだからなーー!」

 

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