紅茶と木組みのめぐり逢い   作:ムイト

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第5話 新商品開発

 

 

 

 ルクが仕事を初めて数日経った頃。ようやく仕事に慣れてきたルクは、少し余裕がでてきていた。

 

 初出勤の時に聞いてしまったティッピーの真実を翌日チノに説明すると、非常に驚いた表情をした後に更衣室にルクを放り込み、詳しい説明を求められた。

 

 幸いココアはまだ帰ってきていなかったので、いいタイミングだと思ったのだが、まさかここまで過剰な反応をされるとは思わなかった。

 

「たまたまタカヒロさんとティッピーが話しているのを聞いたんだよ」

 

「お願いですからココアさん達には・・・・・・」

 

「わかってる。誰にも話さない。その条件でタカヒロさんから事情を聞いたんだからね」

 

「ありがとうございます。あ、私の母が亡くなったのは・・・・・・」

 

 おずおずとチノは下からルクを見上げる。

 

「それは聞いてないけど、まぁ何かあったとは思ってたよ」

 

「母は私が小学生の時に病気で。もしかするとおじいちゃんは私が心配だったのかもしれません」

 

「なるほど。やっぱりいいおじいちゃんだね」

 

 ルクの言葉を聞いたチノは照れるような表情を浮かべる。普段感情を表に出しにくい彼女を見ていると、結構珍しい印象だ。

 

「ティッピーに憑依するなら言ってくれればよかったんです。私の涙を返して欲しいです」

 

「はは・・・・・・(そんなムチャな)」

 

 2人はそんな会話をしながら更衣室から出て店内に戻る。幸い客は来ておらず、ココアとリゼが店前で合流しているのが見えた。

 この日はココアが休日で、今は自由時間となっている。まぁ暇すぎて結局お客様として店内に居座っていたが。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 ルクのカフェバイトが休日となっていたある日、突然扉を開けて帰ってきたココアは、開口1番にこう言った。

 

「新メニューの開発だよ!」

 

「「はい?」」

 

 むふー!とキラキラした表情でカウンターに向かって歩いてくるココア。一方でチノとリゼは何事かと目を丸くしていた。

 

「だから新メニュー!パンを作るんだよ!」

 

「なんでパンなんですか?」

 

「私の実家がベーカリーをやっているんだよ。パン作りの経験はあるから、新開発したパンを置けばお客さんもきっと来る!」

 

 自信満々に言うココア。ラテアートの種類を増やそうと練習していたリゼは冷静を装いながらも、ついパンの事を考えてしまう。

 

「都合のいいことにうちにはおじいちゃんが買ったオーブンがありますよ」

 

「おお!焼きたてが提供できるね!」

 

 新メニューのパン。

 焼きたて。

 などと、リゼを誘惑するような単語が次々と出てくる。

 

 ついに我慢できなくなったのか、小さく「ぐう」とお腹の音が鳴ってしまった。慌ててお腹を押さえたリゼだったが、ココアの耳にはしっかり聞こえたみたいで、ニヤリとした表情を浮かべていた。

 

「リゼちゃんも賛成みたいだねぇ。じゃあ明日は土曜日だし、新メニューの開発をしよう!」

 

「では明日は臨時休業ということにしましょう」

 

 案外チノも乗り気だ。実は客を増やすことができるかもしれないと考えたココアを少しだけ見直したのだ。

 

 翌日。夕飯の時に新メニューの開発のことを聞いたルクと、ココアが電話で呼んだ千夜を含めた5人がキッチンに集まっていた。

 

「さてと。まさかパン屋の娘だったなんて驚いたけど、指揮はココアに任せてもいいのかな?」

 

「うむ。今日はお前が教官だ」

 

「任せてよルクお兄ちゃん!リゼちゃん!」

 

 ココアはいつものアホの子みたいな雰囲気ではなく、やる気に満ち溢れている。いつもこのくらいしっかりしてくれればいいのに。

 

「パンは少しのミスで完成度が左右されるから気を付けてね。では、各自パンに入れる食材を提出!」

 

 ルク達はそれぞれ持ってきた物を調理台の上に出した。いきなりだったが、買い物に行く時間は少しだけあったのでなんとか用意することが出来た。

 

 ルクはポークビーンズを作るためにひき肉や大豆等々。

 チノは鮭、納豆、昆布。

 ココアはうどん。

 千夜は小豆、梅、海苔。

 リゼはジャム。

 

 材料の量はルクが圧倒的に多いが、チノと千夜は何を作るかまだ決めていないような感じがした。なお、リゼは2人の材料を見て一瞬だけ動きを止めていた。

 

「じゃあまずは材料の計量を始めよう。最初はバターロールでいいよね?」

 

「そうだな」

 

 ココアの指示でルク達は計量を始める。各々が別の材料を図っていく中、チノはカップの中に入れた粒状の材料を不思議そうに見ている。

 

「ココアさん。これは何ですか?」

 

「それはイースト菌だよ。これを入れないとパンがふっくらしないの」

 

「き、菌・・・・・・」

 

 この時、チノの頭の中にはおぞましい細菌のイメージが映し出されていた。

 

「そんな危険なものは入れなくていいです!」

 

 何かを勘違いしているチノだったが、ココアはそれに気が付かず、チノが計量したイースト菌を手早く回収し、代わりにボウルを手渡した。

 

「次は材料を混ぜるよ!」

 

「「「はーい」」」

 

 ルク達は材料をボウルの中に入れてこね始める。なかなかまとまらなかったが、しばらくやっているとベチャベチャした感触は無くなり、材料はまとまった。

 まだベタつきはあるが、ココア曰くこれで大丈夫らしい。

 

「こねまーす」

 

 あとはひたすら、こねてこねてこねまくる。この作業には体力を使うため、しばらくこねていると千夜の動きが段々と遅くなっていった。

 

 ルクはこういった作業は初めてではあるが、体力的には問題ないため、「腕が痛いなぁ」くらいしか感じていない。

 女性陣の中ではリゼが余裕な表情を浮かべていたが、あえてルクはそこに突っ込まず、黙々と作業を続けた。さすがにレディにその指摘は失礼だ。

 

「みんないい調子だよ!あ、千夜ちゃんは大丈夫?」

 

「え、ええ。なんとか」

 

 よく見ると汗で髪の毛が額にくっついている。本当に体力がないのだろう。

 

「リゼさんは大丈夫そうですね」

 

「待て。なぜ決めつけた?」

 

 ルクが言わなかった事をチノが言ってしまった。リゼもすかさず突っ込んだが、チノは気にせず作業を戻っている。もしかしたらとは思うが、チノもヤバいと感じたのだろう。

 

 そして無事に生地を作り終え、バターロールの形を形成して後は焼くだけの状態となる。ココアはオーブンの中に生地を入れ、タイマーとスイッチを入れた。

 

 一同は店内に移動し、時間までしばらく休憩とした。しかしココアだけは次のパンの計量を始めており、休憩をしに店内に来たのはなんと全員分の計量を終えてからだった。

 

「ふー、終わった終わった」

 

「ごめんなココア。はいお茶」

 

「ありがとうルクお兄ちゃん!」

 

 ココアはルクから緑茶(千夜が持ってきた)を渡されると、椅子に座って一息つく。

 

「ココアさん、本当に全員分の計量をしたんですか?」

 

「うん。焼き終わってからだと時間がかかるから。でも皆には休んでて欲しかったの」

 

「ココアちゃん!」

 

「見直したぞ!」

 

 千夜とリゼはココアの意図の感激した。出会って一ヶ月も経っていないが、ルク達はココアがどういう人間かわかっていたつもりだった。

 しかし、パンにかける情熱に関しては全く知らなかったため、ギャップがすごかったのだ。

 

 タイマーが鳴ると、一同はキッチンに戻りオーブンからバターロールを取り出した。

 

「うん!いい感じ!」

 

 ココアは一つ一つ確認し、パンの出来具合を確認した。どうやらよかったようだ。

 

 焼きたてのパンを昼食として食べたルク達は、先ほどの経験を活かして各々が作りたいパンをココアからアドバイスを受けながら作った。

 

「チノちゃんは何を作っているのかしら?」

 

「おじいちゃんです。コーヒーをいれる姿は尊敬していました」

 

 チノは人の顔のようなパンを作っていた。祖父をとても尊敬しているようだが、キッチンの入口で除いているティッピーには気が付いていない様子。

 

 そしてティッピーから視線を戻したルクに、面白い形のパンが視界に入った。

 

「リゼ、それは何?」

 

「うさぎパン。焼いたらチョコレートで顔を描くんだ」

 

「へぇ~」

 

 言われてみればうさぎの形をしている。顔が無いのが気になったが、それは焼いた後にやるそうな。

 

 さて、ルクも自分の作業に戻らなくてはならない。とは言ってもリゼのような複雑な形ではないので、そこまで時間はかからなかった。

 

「じゃ、焼きまーす」

 

 ココアは全員のパンをオーブンに入れ、スイッチを押す。

 後は焼き上がるのを待つだけだが、ルクとココアはパンに挟む食品を作らなくてはいけない。2人は手際よく作業を進め、パンに焼き色が付いてきた頃にはフライパンを握っていた。

 

 パンが焼き上がったのは、ポークビーンズと焼きうどんが出来上がって10分を経過した頃だった。

 ルクはココアからミトンを受け取ると、全員分のパンを取り出して台の上に移した。

 

「いい感じに焼けてるんじゃないかな」

 

「じゃあ少し冷ましてから再開しよ!」

 

 焼きたてのパンは熱い。チノと千夜のはもう完成しているのだが、それ以外はまだ作業が残っている。今の状態で取り組むのは危険だ。

 

 手に取れるくらいまで冷ますと、ルク達は作業を再開し、パンを完成させた。ルクのパンは学校給食みたいになってしまったが、これはこれで悪くない。むしろルクはこれが好きだった。

 

「あっ」

 

 突然リゼが声を上げた。

 

「リゼちゃんどうし・・・おお、かぶいてる」

 

「あら本当。歌舞伎兎ね」

 

 リゼのうさぎパンはもう少し冷ます必要があったらしく、チョコレートは溶けて下の方に垂れてしまった。

 しかしココアと千夜の言う通り、どこか歌舞伎のような見た目になっていた。

 

 ともかく、これで全員のパンが完成したので試食会を行った。結果、最有力候補はリゼの歌舞伎兎、もというさぎパンとなる。

 だがココアの焼いたパンはもう1つあり、しばらくすると自信満々にそれをオーブンから取り出した。

 

「じゃーん!ティッピーパン!」

 

「「「おー」」」

 

 それは見事にティッピーの形をしており、1番ティッピーと付き合いのあるチノも目を輝かせていた。

 これにはリゼも素直に負けを認め、ラビットハウスの新メニューはティッピーパンに決定した。後は【本日のパン】というメニュー名で、ココア主導で日替わりパンの2種類を出す事に。

 

 そして翌日から試験的にメニューに載せることになる。窓に大きく張ったポスターのおかげか、意外にもティッピーパンの人気があったため、正式にラビットハウスのメニューとなったのだった。

 

 

 

 

 

 しかし、この裏でコーヒーよりパンの売り上げの方がよかった事で、微妙な表情をしていたうさぎがいたのは内緒。

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