シャロの働いている店の偵察から少し経ち、千夜はシャロを連れてラビットハウスに今度は客として訪れていた。
あの後、ラビットハウスに是非来てくれとチノが言っていたのだ。
夕方にも関わらず他の客は来ていないので気楽に過ごせている。ちなみにルクは本日休みのため出かけている。
「ねぇチノちゃん、今何時だっけ?」
「まだ17時ですよ。どうかしたんですか?」
「外がやけに暗いような・・・・・・あれ?雨降ってる」
「あら?私達が来た時はまだ晴れていたのに」
ココアは外が暗くなっているのに気が付き、窓際に近づくと雨が降っていた。しかもパラパラ降るのではなく土砂降り。
窓の外に注目していると、店の扉が開いてずぶ濡れとなったルクが帰ってきた。
「た、ただいま」
「ルクお兄ちゃん!?どうしたの!?」
「いきなり降られた。荷物抱えてたし、走るのは無理だった」
少し落ち込んでいる様子。どうやら追加の家具を買いに行った帰りに雨に降られたようだ。抱えていた段ボールもぐっしょり濡れている。
いつの間にかバスタオルを持ってきていたチノは、ルクの上着を脱がせてからタオルを首にかけた。
「とりあえずこれで拭いてください」
「ありがとうチノ」
「ところでルクお兄ちゃん。何を買ってきたの?」
「それってルクの家具を買った店のマークだな」
ココアは乾いた雑巾で段ボールから垂れている雨水をふき取っている。
「折り畳みの椅子とテーブルだよ。この前のココアみたいな来客用」
ルクは段ボールを開けて家具を取り出しながら説明する。一応ビニールに包まれているらしく中身は無事なようだ。
「何しに行ったんですか?」
「わからない問題があって聞きに・・・・・・」
「23時前だったかな。本を読んでなきゃ寝てたよ」
何日前かは忘れたが、ココアが教科書とノートを持ってルクの部屋に来たのだ。
遅い時間だったし、リゼと千夜に電話しなかったのは正解だ。それにタカヒロ以外に聞けるのはルクしかいないため、人選は間違いではない。
「確かにあの時はルクお兄ちゃんのベッドで教えてもらったような?」
「俺の机は自分の物で埋まってたし、付属のロッカーが満杯で机が動かせないからな」
「なるほど。あ、シャロのコーヒーできたぞ。でもコーヒーはダメなんじゃなかったのか?」
「少しなら大丈夫です」
フルール・ド・ラパンからの帰り道、シャロがコーヒーを飲めない事を千夜から聞いた。苦いからだとか、お腹を壊すからだとかではないのだが、カフェイン酔いをしてしまうというのだ。
ルクは荷物を部屋に運び、着替えて再び店内に戻ると、先程とは違った空気となっていた。
「あ!ルクさん!」
パァッと嬉しそうな表情でルクを迎えたシャロ。まさかこれがカフェイン酔いだとでも言うのか。
「な、なぁこれはいったい・・・・・・」
「酔ったらしい。半分も飲んでいないんだけど」
「今日は楽しかったです!また来ます!」
「あ、ああ。いつでもおいで」
これは酔いで性格が変わるというより、元々のシャロが表に出てきているだけかもしれない。よく考えれば、話す時はどこか気を使っている感じがした。(ココアと千夜を除いて)
シャロがコーヒーを飲み干して少し経った頃、ルクは外が光ったような気がした。窓から外を見ると、ゴロゴロと雷の音が聞こえた。
「雷まで・・・2人とも、そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」
「そうですね。あ、でも・・・・・・」
チノの視線の先に目をやると、先程までココアと話していたシャロはうつ伏せになって寝ているのが見えた。
「どうする?うちの車呼ぶか?どのみち私はそのつもりだったし」
リゼは携帯電話をポケットから取り出した。
だが、その手を横から掴んだ人がいた。
「まって。私が背負っていくわ。ルクさん、手伝って」
「え?」
ルクは千夜に言われるがまま、シャロを千夜の背中に乗せた。ちなみにお会計は済ませているらしく、テーブルの上には小銭が置いてあった。
「じゃ、またね」
これから特攻でもするかのような勇ましい表情でラビットハウスを出た千夜。ルク達はその勢いに負けてしまい、それを止めることはできなかった。
千夜はシャロの家がバレるのを防ぎたかったのだが、この天気では結構無理な行動なのは間違いない。
最初に我を取り戻したのはリゼ。
彼女は「いやいやいや!」と言いながら扉を開けた。
「あっ、倒れてる!」
リゼの視界に入り込んできたのは、土砂降りの中、道に倒れている千夜とシャロの姿。
「何!チノ、新しいタオル持ってきて。リゼはシャロを運んでくれ。俺は千夜だ」
「は、はい」
「わかった!」
ルクの指示でテキパキと動く2人。なお、残る1人はあわあわとしている。
「わ、わたしも何かするよ!」
「じゃあ扉を開けといて」
「うん!」
ココアが扉を押さえているのを確認すると、ルクとリゼは倒れている2人を店内に運び入れた。
ちなみにリゼにシャロを任せたのは、シャロが小柄だからである。下心はないが、千夜を運ぶ際にふよんとした感触があったのが嬉しかったわけではない。そう、決して。
椅子に2人を座らせ、チノが持ってきたタオルで体を拭いた。先ほどと同じ光景な気がするとチノは思っていたが、何も言わなかった。
「うう、ありがとう」
「いつの間にか濡れていたわ・・・・・・」
千夜とシャロは意識を取り戻し、びしょぬれとなった制服を脱げる物だけを脱いだ。さすがにルクやタカヒロのいる場所で下着は晒さない。
「チノ。天候の回復は明日になりそうだよ」
するとタカヒロが店内に入ってくる。テレビで天気予報を見て、その情報を教えに来てくれたようだ。
「お父さん」
「バーも営業しないから今日はもう終わりでいい。それより3人はどうするんだい?」
確かに、天気が回復しないのならリゼ達は帰る事ができない。まぁリゼ父に迎えに来てもらえばいいのだが、それがリゼから提案される前に、チノが口を開く。
「じゃ、じゃあうちに泊まっていきませんか!」
その言葉に全員が目を丸くする。
中でも1番驚いていたのはタカヒロではないだろうか。普段こういう事を言わないはずなのに、友人達を家に泊めると即決してしまうとは・・・・・・。
「もちろんリゼさんも」
「え、いいのか?」
「・・・・・・わかった。じゃあ家に連絡しなさい。俺は布団を出すよ。ああ、ルク君も手伝ってくれ」
「はい」
「「「ありがとうございます!」」」
男共が店内から消えると、泊まり組は家に連絡した。シャロは一人暮らしという事もあり、千夜の祖母に一緒に連絡を入れた。
ただ、リゼは少し揉めており、ルクがいる家に泊まり込むのは如何なものか、だという。これは単にリゼ父がルクの事を嫌っているのではなく、あまり歳の変わらない異性の近くで寝るのを心配した親心というものだろう。
約1名に一悶着あったが、結果的には全員が泊まれることになった。事情を聞いたルクは後でリゼ父に何を言われるか気が気でなかったが、まぁよしとしよう。
その後は皆で夕食を食べ終え、少女達が部屋で話している時間で先に風呂に入ったルクが洗面所から出ると、チノの部屋の前に枕を持ったココアが立っていた。
「あれ、ココア?」
「ふふふ、実はね。チノちゃんの部屋で皆で寝ることになったんだよ。だから私の枕も持ってきた!」
「どこで寝るので?」
「私はチノちゃんのベッド。2人で寝れる大きさだもん。それとリゼちゃん達は布団だよ」
哀れチノ。自分のベッドにココアが侵入してくるとは・・・・・・いや、案外チノには必要な経験なのではなかろうか。
今回のお泊まりだって彼女が提案したこと。家族以外の人と触れ合うのはとても大事だ。
チノの部屋に入っていくココアを尻目に、ルクも自室に戻る。
そのまま部屋に放置していた新しい家具を組み立てている中、チノの部屋からリゼの叫び声がしたかと思うと、なぜか彼女はルクの部屋に駆け込んで来た。
「え、リゼ?なにその格好」
リゼは制服を着ていた。
いや学生なので当たり前なのだが、その着ている物がチノがいつも身につけている中学校のそれだったのだ。
なぜ中学校の制服を着ているのか、なぜルクの部屋に駆け込んできたのかはわからないが、高校組の中でも1番大きいリゼには小さすぎた。
スカートはミニと言って良いほど短く、どことは伏せておくがパツパツだった。
「いや違うんだ!」
「あ、ああ(何が違うのだろう・・・・・・)」
「簡単なゲームをしていてだな!負けたから罰ゲームで着させられたんだ!」
「うんうん」
顔を真っ赤にして言い訳を始めたリゼに、ルクは相槌をうって促す。
「それで千夜とシャロが風呂から戻ってきたから・・・・・・」
「恥ずかしさがMAXになって飛び出してきたと」
「ああ」
スカートの裾を押さえて頷くリゼ。しかしこの状況、リゼ父が見たら殺されるかもしれない。
だが罰ゲームと言ったか。先ほどまで部屋にいたのはラビットハウスの3人組なので、ココアが原因なのはなんとなく察せる。リゼは巻き込まれたのだろう。
「おーいリゼちゃーん」
どうやら元凶がリゼを追いかけて来たらしい。
「お風呂空いたから入ってってチノちゃんが」
「わかった!直ぐ入る!」
そうリゼが返事をすると、ココアはチノの部屋に戻っていった。
「じゃ、じゃあ私は風呂に入ってく・・・・・・あ!寝衣を部屋に取りに行く必要があったんだ!」
ドアノブに手をかけたリゼだったが、寝衣を持ってきていない事に気が付き、再び慌て始めた。確かリゼと千夜はココアの物を着るとのこと。
「あ、でもそれは大丈夫かも。千夜が人数分持っていた気がする」
「本当か!ならそのまま行く!」
そう言ってリゼはルクの部屋を出ていく。
確かルクが風呂に入る前に千夜を洗面所で見た時、彼女は明らかに服を多く持っていた感じがしたのだ。
こうして部屋は静かになり、ルクは作業を再開した。レイアウトを考えているうちに時間は経ち、1時間ほどするとチノの部屋からかすかに悲鳴と笑い声が聞こえた。
何を話しているのかはわからないが、そこへ突入する勇気はルクには無い。そのため、楽しそうなら問題なしと判断し、ベッドへ潜り込んだ。
翌朝。
チノに聞くと、昨夜は怪談話をしていたらしい。特に千夜の話が怖くて1人でトイレにはいけなかったとの事だった。