なんてこともない日常。その中、私は陽射しのいい庭園の木の下で惰眠を貪る。
最近は多くの仕事が押し寄せてきていた為こうして休むことは叶わなかった。そもそもこのキヴォトスに来て、シャーレという組織に所属してから毎日のようにデスクワークを続けていた。当然、まともに休める訳も無い。
そんな中、とある学校から物資の支援要請を承けてその学校に出向いたのだが......さて、あの学校はなんという名前だっただろうか。
私は物覚えが悪い。人物や組織の名前については特に。故にこうして自分が赴いた場所ですら忘れてしまった。『ア』から始まる名前ということしか覚えていない。
閑話休題。
デスクワークから解放されはしたが、その先で待っていたのは別の業務だった。学校が多額の借金を背負っており、生徒はたったの五人。そんな学校の手助けだ。私の立場的に助けないという選択肢はもとよりないのだが、まだまだ若い少女等が学校の危機に立ち向かっているという現状に憐憫の情を抱いた。せめて返済の目処が立てられるようになるまではサポートする気だった。不良の襲撃やら何でも屋と傭兵の襲撃やら銀行強盗やら大企業の陰謀やらに巻き込まれつつも自分にやれることはやり切った。
さらに二つほど別の学園からの依頼もあったが、其方も廃墟にいた謎の少女やらメイド特殊部隊との抗争やら学園内でのコンテストやら、成績が低い人達と称して一箇所に集めて動向を監視するやらその生徒たちの退学阻止やら学園の裏切り者探しやらその学園の生徒会との抗争やらあったが、自分ができるところまではどうにかした。
このような出来事が立て続けで起き、それ等を何とかしてきた。こうして何も無くゆっくり出来る時間も滅多になく、更に言えば近々また依頼が来るだろうと見ている。その為、依頼が来るまでの間に少し休みたくなったのだ。
しかし、私が休むことはどうやら許されないらしい。
「先生、やっと見つけましたよ!こんな所でサボってないで業務に戻ってください!」
声を聞いて目を開けてみれば、ドスドスと怒っていることをアピールするように歩いてくる少女が目に映る。彼女についても例外なく名前は忘れている。
「全く......いい歳した大人がこうでは生徒に示しがつきませんよ?」
大人。その言葉が嫌に頭の中で繰り返される。
私はこのキヴォトスの中で、唯一の先生かつ人間の大人だという。どうにも、大人はいても動物やらロボットのような見た目の者しかいないため、生徒から見て姿が近い私のような人物は、唯一の大人として映るのかもしれない。
しかし、私は大人というものが分からない。
概念としては知っているが、何をきっかけとして、どのような要素を持ち合わせて人が大人となるのかが分からない。今私は、そんな自分が大人とされる事に違和感を覚えているのだ。
違和感を解消するきっかけを得る為、一つ問うことにした。
「キミは大人とはどのような人物だと考えている?」
「急に何を......どのような人物と言われても、私の目の前にいる先生みたいな───」
「いやそういう意味ではなく、どのような要素を持ち合わせているのが大人なのか、という意味だ」
「なる、ほど?少し考えてみますね......」
目の前の少女は、先の件で生徒会長が暴走した学園の生徒会に所属しており会計を担当している。故に聡明だ。この少女が出す答えはきっと、私の違和感を解消するきっかけになりうるだろう。
しばらく唸っていた少女は、考えが纏まったのか口を開き問いの答えを発する。
「物事を計画的に進められる人物、でしょうか」
「その心は?」
「衝動的な行動は論外だからです。きちんと計画を練って行動することこそが大人としてあるべき姿だと私は思います」
「ふむ......その定義だと、キミにとって私は大人では無いという結論に至ってしまう」
「ま、まぁ?変な名前のゲームに一回で二万も課金してますし?そういう衝動的なところは直した方が良いと思いますよ?......ちなみに、あのゲームはまだやってるんですか?」
「なるほど、キミはそう思うのか。......あのゲームはキミに課金を指摘されて間もなくサービス終了した」
「そ、そうだったんですね......」
今では名前は『クラブ』の部分しか覚えていないが、あのゲームは楽しかった。他のゲームではもう満足出来ないだろう。唯一の娯楽の代わりは見つからないものだ。
「と、とにかく!早く業務に戻ってください!先生が確認しないといけない書類が山積みになっているんですよ!私も手伝いますので頑張ってください!」
「協力には感謝しよう。しかし、私に休みは訪れないのか?有休どころか通常の休日すらないのだが」
「それは今ある書類の山を八割程捌いてから連邦生徒会に申請してください!」
私の疑問は呆気なく跳ね除けられ、身体を起こされオフィスまで手を引かれることとなった。
大人とは何なのか。計画性のある人物......。確かに必要かもしれない。衝動的に行動を起こすなど、余りにも無責任だ。大人である以上、多かれ少なかれ何かしらの責任を負う必要がある。
しかし、私の違和感を解消する程の答えでは無い。
私は常に考え続ける。大人とは何なのかを。
「......私は先生の事、頼りにしていますよ」
「頼りに、か。それは先生だからか」
「......そうですね。口下手で偏屈で子供っぽい所もありますが、生徒の事を大切に思っているのは感じられますから」
「そうか」
頼りにされている事に悪い気はしない。だが、こんな自分を頼りにさせていいのだろうか。まだまだ私という存在に対して疑念を抱いている者もいる中で、こうして彼女のように私を頼りにしてくれる存在がいる。
このままではいけないだろう。早急に答えを出さなければ。そうすることで、私は初めて自分を大人だと言えるだろう。
この先生は生徒や組織の名前を覚えていないので基本的に人物は『キミ』呼び、もしくは役職名で呼びます。複数人いる時は個人を指定せずに話しだします。
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