書類というものは何故増え続けるのか。日々疑問に思う。
理由は明らかではある。簡単に言えば、業務以外の部分に割く時間が多過ぎるのだ。
その時間とは、このキヴォトスの各学園名に加え生徒会名、部活名等、連邦生徒会が把握している組織という組織の名前を教え込まれる時間である。私は特定の名前を覚える事を不得手としている。覚える気はあるのだが、どうにも頭から抜け落ちてしまう。
この時間は連邦生徒会所属の生徒が行ってくれるが、キヴォトスに来てある程度経っているにも関わらず、私が辛うじて覚えられたのは『キヴォトス』というこの学園都市の名前に『シャーレ』『連邦生徒会』という私が所属する組織とそれに関わり深い組織、『七神リン』という私がキヴォトスに来た時に初めて出会った少女の名前に加え、各学園の一文字目位のものだった。
最近ではこれ以上はもう諦められているのか、これに割かれる時間は日に日に少なくなっている。私としてはその時間を業務に充てたかった為都合が良い。
因みに、私が名前を覚えられないという事を知っている生徒は連邦生徒会の者以外にも数人いる。その一人が─────
「全く、こんな忙しい時期にどうしてこんなに......」
目の前にいる銀髪の少女である。
「すまない。其方の学園で何やら大きな動きがあるのは理解していたのだが、今日私が手伝いを頼める生徒はキミ以外他にいなかった。もう大分片付いてきたので残りは私だけでも───」
「こんな時間に戻っても意味無いから。はぁ......ここまで来たら、最後まで手伝うよ。......後、いい加減私の名前を覚えろ!」
「すまない。覚えようとはしているのだが、なかなか難しい。キミはなんといったか。ぎん......いや、しろ......?」
「銀・鏡・イ・オ・リ!」
「失礼、し、しろ、み......?」
「どうして直前に聞いた名前を曖昧に口にするんだ......!?」
私の曖昧な呼び掛けに頭を抱える少女。これも最早、彼女との会話の恒例となりつつある。無論、このままにしておくつもりは無い。先程も述べたが、名前を覚える気はある。
「まあこれもいつもの事か......。ちゃんと覚えるまで言い続けるからな。覚悟しろよ、先生」
「ああ、是非そうしてくれ。そうでも無いと覚えられるか分からない」
「っ......はあ......できるだけ早く覚えろよ!その内見捨てるかもしれないからな!」
「見捨てられないようにしなければな」
僅かに頬を赤らめる少女は、私の言葉を聞き溜息を吐く。呆れられたのだろうか。
......そういえば、彼女には質問していなかった。大人とは何なのかを。
「一つ、訊いても良いか?」
「何だ?藪から棒に」
「キミにとって、どういった存在が大人足りうるのかをな」
「はぁ......?......まあ、少なくとも生徒の足を舐めない人ではあると思うぞ!」
「ふむ......確かに、生徒に対してそのような行為をするのは────」
「ちょっ、そんなに真面目にならなくてもいいから!冗談だから!」
「冗談だったか、失礼した」
彼女は再び溜息を吐くと、真面目な顔をして私の質問に答える。
「そうだな、私が思う大人とは、大局を見る事が出来る人だと思う」
「その心は?」
「そこまで聞くか......。えっと、物事を広く見られるということは、それ位余裕があるってことで......私は結構......というかしょっちゅう色々見逃しちゃったりするし......。だから、そういう大人に憧れてる部分は無くは無い、と思う」
「つまり、憧れる事が出来る人物こそが大人足りうると?」
「......まあ、それもあるかも」
「なるほど、返答感謝する」
憧れることが出来る人物か。私は憧れることが出来る人間なのだろうか。唐突に気になった。
「キミにとって、私は憧れる対象になりうるか?」
「......はぁっ!?突然何を言うんだ!?」
「答えられないのであれば答えなくても構わない」
「......まあ、私の足を舐めたり、全然名前を覚えないとか色々言いたいことはあるけど......生徒の為に尽力する姿には、ギリギリ、本当にギリギリ憧れは、する」
「......そうか、それはありがたいな」
「っ!も、もう良いだろ!?さっさと仕事を終わらせるぞ!」
「そうだな」
生徒である彼女が、私を憧れの対象としてくれている事は嬉しく思う。しかし、私には至らぬ点も多い。少なくとも、彼女が憧れる私はそういった点を少なくしていくべきだろう。
その為にも、名前を覚える努力はこれからも続けていかなくてはいけない。......少なくとも、此処に手伝いに来てくれる生徒位は覚えなければ。
そう考えながら、朝に比べると低くなってきた書類の山を捌いていく。
この話を書く中で、生徒が考える『理想の大人とは』という部分を考える時間が一番長いです。「大人らしく〜」的な台詞があれば考え易いんですがね......。
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