数人の生徒に協力を頼み、何とか書類を全て捌き切った。そうなると休暇が欲しくなる。その為連邦生徒会に二日程休暇を申請したのだが、何故か一日に減らされていた。二日も休んでいる暇は無いという暗示だろうか。
せっかく取れた休みだが、何をしようかと考える必要は無い。既に予定は埋まっている。その予定というのは───
「......うへ〜、遅かったねー先生」
「失礼、少し迷いかけてな」
「最近来てないからってもう忘れちゃったの?おじさんは悲しいよー」
そう軽い口調で言う桃色の髪の少女、彼女とのデートだ。
「何度来てもこの地域はまるで迷宮のようだと感じる」
「先生も住んでみればー?そしたら物覚えの悪い先生でも覚えられるかもしれないよー?」
「......私が覚えられないのは固有名詞だけだ。土地については名称以外の情報であれば問題なく記憶している」
「でもそれ、シャーレにあった古い地図でしょ?覚え直す必要、あると思うけどなー」
「確かにそうだな。次までに記憶しておく」
「うへ、それよりも名前を覚えて欲しいんだけどねー」
彼女は掴み所が無い。そして、只者では無い雰囲気を纏っている。その理由は黒服とやらが何か言っていた気がするが、そんな事はどうでもいい。彼女も私の生徒の一人である事は変わりない。
今回デートする事になったのは、先日の書類仕事に彼女にも手伝ってもらったからだ。いつか恩を返すと伝えた所、休みが取れたらデートして欲しいと返された。それ位であればと了承し、今日に至る。
「それでは行こうか。で、どこに行くんだ?」
「そうだね〜......あ、そういえば、いつか皆で海に行きたいなーって思ってるんだけど、おじさん水着持ってないんだよねー。だから、水着選びに付き合ってくれない?」
「私で良ければ構わない。約束だからな」
「うへ〜、じゃあ早速店に行こー!」
移動中、私は考えていた。この少女に大人とは何かを問うて良いのかと。
彼女は一般的に言う『悪い大人』に何度も騙されている。学校としても、彼女個人としても。それ故に、彼女の中で大人とは悪い人であると定義付られている可能性がある。
これまでの境遇からそう考えられる生徒に対して、この問いは酷ではないか。私はそう考えている。
「......先生、何か気になる事があるならなんでも言って良いよ」
「......良いのか?正直、この問いはキミにとって不愉快だと思うが」
「まあ良いよ。よっぽどじゃ無ければ答えるよー」
「では、キミにとって大人とはどういう存在だ?」
「......うへ、なるほどね〜。先生が渋ってた理由、何となくわかったよ」
「答えたくなければ答えずとも構わない」
「いや、答えられるよ。今ならね」
彼女はそう言うと、ぽつりぽつりと言葉を落としていく。
「先生も知っての通り、私は何度も大人に騙されてきた。まあ、考えが至らなかったって事もあるけどさ」
「それでも、いつの間にかアビドス自治区は殆どカイザーの奴らが買収してたし、私達が必死に返してた借金はブラックマーケットに流れてた」
「あの黒服の提案には乗ったけど、契約の裏を突かれたりしたし......。私にとって、大人なんて皆私達を騙そうとする悪い奴らだった」
「だから、最初に先生が来た時に警戒してた」
「でも先生は警戒する必要が無いくらいお人好しで、口下手で、不器用で......あと名前を覚えない」
「でも、私達のことを一生懸命考えて、頑張ってくれた。その姿を見て、先生を信じる事にした」
「......色々語っちゃったけど、質問に答えるね」
「ああ」
「私にとっての大人は、先生みたいな人。私達を助けてくれた、唯一の大人」
「......そうか」
私は、キミにそう思われる程出来た人間では無い。そう言いたかったが、彼女の晴れた笑顔がそれを押し留める。
やはり、私は生徒には敵わない。身体能力や耐久力は勿論、こうも笑顔を見せられると反論すら出来ない。
「......うへー、おじさんちょっと恥ずかしくなっちゃった。柄にも無いことしちゃったねー」
「いや、キミの考えも参考になる。感謝する」
「......うへ、先生、無理に変わろうとしなくてもいいんだよー」
「変わる気は無い。ただ、疑問に思っているだけだ」
大人とは何か。彼女の意見は、この問いに対する答えにはならないだろう。しかし、心から生徒の事を考えて起こした行動は、生徒に希望を見せるものなのだろうか。
ともかく、先程の彼女の本心からの言葉は、答えにはならないが有意義なものである。あの言葉を無意味だと一蹴する事は、私には出来ない。
何故なら、それは私への信頼の証なのだから。
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「うへー、結局水着決まらなかったねー」
「すまない。どれも似合ってはいたのだが、どうもしっくり来なかった」
「んー、じゃあ、今度は皆と一緒に何処かに買いに行こうかなー」
「そうするといい。私ではきっと、満足する答えは出せない」
「うへへ、もしいつか海に行く事が決まったら、先生も来てねー。皆がおもてなしするからさー」
「まず海に行く余裕が出来たらいいな」
「......うへ〜」
彼女は苦い顔をしてそう笑う。
ホシノの笑い方については前に見たツイートを元に考えました。笑い方である程度心情が判別出来ると気付いた人は凄いですね、本当に。
大人についての話題では、ホシノの存在は外せない事でしょう。色々ありましたからね......。対策委員会編3章でも何か明かされそうですし、早くそこまで進めなければ......。実は、まだメインストーリーはエデン条約編3章が終わった所までしか進んでいないのです......。
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