始発点から青春駅へ   作:3ご

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第九話

 たんこぶ頭の従者が私含めて4人、目の前の御方の荷物をせっせと真夏のビーチまで運び、偉いが5つ着く程の超絶美女の目の前にテーブルと大きなパラソルを刺し添える。

 

 時間と言う、人類の共通規則をいとも簡単に打ち破った私の処罰は、とりあえず彼の御方の足元に寄り添い、丁寧に丁寧に、乳酸菌が溜まりまくってるであろう脚の裏側を指圧でほぐし、喉が渇いたと言われればシェイカーで即興で作ったきんきんのレモン水を差し出す。

 

 これが、従者本来の仕事。私のあるべき姿。

 

「見てください!! あのキヴォトスサイクルの社長である黄泉様が、一人の美少女を顎で使い、あまつさえ足を舐めさせる暴挙ーー」

 

 鉄拳が放たれる。

 メルのたんこぶが二つになる。

 薪に火を灯せば燃えるように、偉いが6つ付く御方に楯突く言動などすれば当然の理。

 私も馬鹿じゃない。今は、どんな命令も絶対服従。

 

「諸君、集まりなさい」

 

 主の掛け声に犬共である私達は俊足で疾風の如く駆け寄り、架空の尻尾を振りながらひたすらに好き好きアピールをかます、

 

 信頼しているご主人に対し、我々は自らの従順さをとにかく出していかなければならない。相手が求めているのは無償の好意だ。相手の要望の期待の壁を何個も乗り越えなければ任務は失敗に終わる。とにかく前へ前へ、鼻先が首元に当たる位置へと前進なのだ。

 

「うわっぷ!? ちょ、ちょっと近すぎーー!」

 

 しめた。作戦は順調だ。嫌がってる素振りを見せてくるが、抵抗の力は弱い。

 ーー刹那。

 ヨミ、サノ、そしてメルとのアイコンタクトに成功。彼女らも彼の御方の部下。例え会ったばかりであっても、同じ部下としての共通意識は持ち合わせている。

 私達に出来る事は一つ。口元を顔に近づけ、ささやき声で主が喜ぶようなセリフを吹き込むのだ。

 

ー美しい。

ー今夜あいてる?

ー社長いけてる。

ーどこ触って欲しい?

ー時給上げろ♡

ー艶やかな肌。

ーナミさん可愛い。

ー素敵。

ー私の世界いちぃ。

 

 一言大変余計な一文が混ざってしまったが、それ以上の誉め言葉の雨あられで主は大変照れて気分が良くなっておられる。

 

「ええい! もう怒ってないから離れてちょーだい!」

 

 真っ赤っかな赤面顔を隠しながら、ハンドバックから小さな文庫本を一冊持ち出す。 

 どうやら哲学書の様だ。我思う故に、我あり。と文がちらりと見えた。

 

「ナミさん、今日はお休みなのにごめんね」

「別にいいわよ。たまには仕事は全部部下に任せて、あなたにかまってあげたいし。というか今日は監督みたいな立ち位置だから、とりあえず好きにしなさい」

「うん。とりあえず今日は合宿一日目。まずはそこら辺を好きに走ってみるよ」

 

 約一か月後に待ち受けるロードバイク選手権に向けて、二週間の強化合宿。

 そのリーダーとして私は抜擢された。一番年上なのだから当然なのだけど、今までずっと先輩がいた環境だから、割と緊張する。

 

「えっと、改めよろしくね。ヨミちゃん、メルちゃん、サノちゃん。あと、今日は寝坊してごめんなさい」

 

 片方の手を出す。

 彼女らは特に警戒心を見せる訳でもなく、私の手を握ってくれた。

 

「ふひひ、優しそうな人でよかった」

「ふふ、まぁ良い余興になりそうですわね」

「私達みたいな問題児に手こずらないでくださいね」

 

 ドキドキする。

 

 セリカやアヤネの先輩ではあったけど、2人とも私なんかよりもしっかりしていたし、そもそも1匹狼みたいな性格だったから、どこで何が起こっても脇目も振らずに突っ走しって皆に迷惑を掛けてた。

 

「よし、じゃあ今からあそこの山道まで走ろう」

「ふーむ、結構遠いですわね。飲み物とか準備しなくてはいけませんね。サノ、バッグは持ってきてますの?」

「ああ、きっと遠くまで走るだろうからって思って大きいの用意しといたよ。なんだメル、もしかして私のバッグに入れるつもりか? 自分で持てよ」

 

「自分の物は自分で持ちます。当然ですわ。でも手持ちだけでは心もとないでしょ? 途中に自販機も無さそうですし。それに、この中で一番怪力なのはサノじゃないの」

「昔訓練でもサノちゃん……ぁ、ごめん」

 

 ヨミが何かを言いかけた瞬間、彼女らの間に微妙な空気が流れ始めた。

 銃火器の訓練は学校次第だけどどこでも行うだろうから、 高校に入る前に何かあったのだろう。下手に介入するのも憚られる。

 

「大丈夫だよ、飲み物は私が沢山持てる。それよりも君達は走るのに慣れて無さそうだから、まずはそこからじゃないかな。ほら、バッグ貸して」

 

 あわあわと申し訳なさそうに私にリュックを取り上げられるサノ。その中にクーラーボックス事入れて準備を整える。

 多少ずっしりとしたが、これくらいなら許容範囲だ。もっと重たい大人を背中に乗せた事がある。へっちゃらだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 時刻は13:30分。気温31度。天気は快晴。

 海風が体温を下から掬い上げるように持ち上げるが、内側で代謝されるエネルギーの熱処理に追いつかず、発汗。

 思わず。

 

「気持ちいいーー」

 

 自然と、言葉が漏れる。

 

「うん、確かにこれはいいものですね。私達の地域は海側ではないので羨ましいですよ」

「おーほっほっほ! ミレニアムは部屋に引きこもってばっかりだと聞きますからねぇ! そもそも外が珍しいのではなくて?」

「メルちゃんそれは偏見だよ……私だって引きこもりみたいな生活してるし、サノちゃん仲間だね」

 

 つまり、インドアだそうだ。

 

「でも、そんなに部屋に居て何をしているの?」

 

 私自身、お休みの日に家にずっといるのは気が滅入るタイプなので、純粋に気になった。

 

「ミレニアムは試験が難しいので、割と勉強したりしてますよ。それ以外は……小説なんか読んだり」

「おほほ、サノも変わりましたねぇ。前まではブラックマーケットで喧嘩ばかりしてましたのに」

「う、うるさいなっ。もう私達は強くなる必要なんてないんだからいいだろ! あと、小説を読んでいるとえっちな妄想が捗るんだ。それを原稿にしたりしてる」

 

 ふ、ふーんっ。

 今臆面もなくえっちな妄想とか口走ったね。そしてそれを平気な顔で受け止めている三人。

 そもそも強くなる必要って? もしかしてボクシング部に在籍していたとか? うーん気になるけど今は聞くのやめておこう。

 

 

 

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