山間の中腹。今日のゴールは、休憩所でお馴染みの道の駅だ。
木目の格子の向こう側には絶景の海空。反対側には日の光を一直線に浴びることの出来る大きな駐車場。
私達と同じようにロードバイクで駆け上がる人もいれば、バイクを背にのんびりとタバコやコーヒーを楽しむ人もいる。
「ふぅ、こんな所初めて来ましたよ。お土産屋さんとかありますね」
「サノちゃん誰かにあげるの?」
「あらあらヨミったら、私達以外にあげる相手なんているわけないじゃない」
「ぐっ.....! 友達くらいいるもん。ぼっちじゃないもん。なんだよお前ら殴るぞ!?」
キャーキャー騒ぎながら追いかけっこし始める3人。
先程見せた一瞬の嫌悪な雰囲気が嘘みたいだ。
「仲が良いのはいいこと」
あげる相手......か。
今思い浮かべれるのは、ナミさんとデカルトさん。
デカルトさんはきっとなんでも喜ぶ。でも、ナミさんは社長でお金もいっぱい持ってるだろうから、きっと普通の物じゃ満足しないだろう。
「シロコさんは、誰か贈りたい人はいますか?」
サノの猛攻からくぐり抜けれたのか、安堵の表情で私の陰に隠れようとするヨミ。可哀そうな事に、メルは捕まりヘッドロックを掛けられている。このまま首をぽっきりと折られてしまうかもしれないのに、その表情はどこか恍惚としたものを感じさせた。
「うーん、そうねー……。無難に社長かな」
この地域に来てから、一番お世話になっている人。
ちゃんとしたお礼も出来ていないから、どこかで盛大にお祝いをしてやりたい気持ちがある。
「無難は失礼だね。私にとって社長は大事な人だから。一番は社長に贈りたいかな」
「おおお、それはもう愛の告白なのではないでしょうか!?」
「どうしてそうなるの……。私は命の恩人を大事にしたいだけだよ!」
愛の告白か……愛の告白!?
待てよ、もしかして私だけが感覚違ってたりしてないかな。
下手に真心を込めて込めてこめくり回して送ったプレゼントを「いやはやこれは心が中心にきてますな。シロコちゃんちょっとだけ部屋に行こうか。先っぽだけだから」と受け取られて部屋に呼び出される可能性があると言うこと!? 普通はそうはならないよね? いやでもヨミはそう解釈してるし……。うーん……考えてみると愛なのかな。そもそも人に物を贈るなんて真面目にしたことがないかも。貰ってばっかりだし。でもそんな私だからこそ物を贈ればナミさんの本気度が最高速度を叩き出して給湯器もびっくりな温度でお尻に火がついたように走り回るかもしれないし。困った。まずは10円の駄菓子からゆっくり攻めていけばいいかな。うんそうしよう。いやでも逆に10円だとキレる可能性も考慮しなきゃならないね。私だって日々まじめに働いてお給金を頂いてる訳だし──」
「シロコさん? おーいシロコさん!」
「あ、ごめんねぼーっとしてた。ちょっと疲れたね、休憩しようか」
ーー
ーー
近くの駐輪所にロードバイクを置き、店内に入る。
とりあえず小腹が空いたので、何かごはんでも食べる事にした。
道の駅は地域によって様々な催しがあり、屋台を出している所やお弁当などを販売している所もある。ここの道の駅はと言うと、食堂が盛んだそうだ。
「あっちゃー。そっか時間を考えれば当然だな」
「ですわねぇ~。ま、お弁当でも販売しているでしょう。私はパンとコーヒーがあればお腹は膨れますが、皆様はいかがして?」
「お腹がぐるぐる鳴ってる」
時間帯も時間帯、食堂はてんやわんやの状態だ。
以前ここに来た時に食べた特性のおうどんを三人に振る舞おうと考えていたが、私の遅刻のせいで繁忙時間真っ最中。
「ねぇシロコさん、もう店内は無理そうですし、外でカップ麺でも食べませんか?」
「カップ麺?」
「うん、サノちゃんナイスアイデア。お外で食べるカップ麺って三段階程美味しく感じるよね。私もカップ麺がいい」
「良い案ですわ!」
もしかして、気を使ってくれてる?
だとしたら、なんて優しい子達。
「うん、私が適当に買ってくるから、皆はベンチを確保しておいて! 嫌いな物、無いよね?」
足早に売店へと向かい、早速カゴの中にいくつかカップ麺を放り込んだ。
私は塩、サノちゃんは醤油、メルちゃんはチャーシューで、ヨミちゃんは豚骨。
「あ、新作出てる。これにしよう」
大将のチワワの顔がでかでかと掲載されたプリントに、くすりとおかしさを覚えた。
どうしてこうラーメンの世界と言うのは、その大将の顔を全面的に押し出すのだろう。私が作りましたとアピールしたいのか。
「よし、こんなもんかな」
ーーつけました
ただ、レジに並んだだけなのに。
ひんやりとした冷気が足元を通り過ぎたと思ったら、背中の辺りからぞくりと悪寒が撫でた。
視線を感じた。それだけなのに、蛇ににらみつけられたカエルの様に、私は硬直する。
三人の誰かが影でこっそり私を見つめているのかと思ったが、この嫌な感じ、あの子達じゃない。こんな刃を突き立てられるような視線なんて、一介の学生が会得出来るものではないからだ。もっと、熟達した、獲物を狩る獣。
ーー確実に、私を狙っている。
「……誰?」
後ろを振り返る。
が、そこには普通の人達しかいない。誰も銃すら携帯していないし、笑顔で仲間と談笑しているのだ。
「気のせい? でも……ううん、変な事は考えないようにしよう」
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ーーターゲット発見。司令、ターゲットを発見しました。
ご苦労。それは二人目の狼か?
二人目の狼で間違いありません。演算結果を再測定……やはり、司令のおっしゃる通り、複数残滓を確認。推定残滓数「2」
「2」か、十分だ。
複数名で行動。結果を送信します。
ふむ、一般人として生活をしていると。黄泉グループにクローバーグループか。ただの一企業だ、我々の相手にはなるまい。他に危険因子は?
ご報告致します。ターゲットの他、複数名の生徒ですが、危険度「A」に該当するものと思われます。結果を送信致します。
そうだなーーあぁ、これは危険度「S」と判断しても構わない。各位、装備を最新式の物と入れ替えよ。
司令、ひとつ質問よろしいでしょうか。
なんだ?
狐でない彼女らを「S」とした理由はなんなのでしょうか。
よい質問だ。疑問は全ての解決の糸口。ーーなに、簡単なこと。我々は既に奴らに敗北しているからだ。我々大人は反省からでしか教訓を得られない。君はどう思う?
……司令のおっしゃる通りです。ありがとうございます。
では、引き続き任務を決行しろ。こちらの箱舟はまだーー時間がいる。