始発点から青春駅へ   作:3ご

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無印:有印


第十一話

「あら、おかえり。思ったよりも早かったわね」

「うん、三人とも想像していたよりもずっと体力あって凄かった」

「そりゃーね。あ、そうだ。今日清掃業者が入る予定だったんだけど、時間が遅くて作業が完了出来なかったんだってさ。三人はどうする? 一応ホテルなら用意出来るけど……」

 

 時刻は午後7時。

 お昼からずっと動きっぱなしだった彼女達を、このまま帰宅させるには少し酷だ。

 サノはまだ元気そうだが、メルとヨミが目元をこすっている。

 

「ふわぁーぁ……」

「わぁ〜ふぁ……」

「ぁふーわぅ……もういっそのことシロコさんの部屋に泊まらせてもらえませんこと?」

 

 なぬ!?

 

「ホテルって、以前ヘルプに来た時に使ったとこですよね? あそこ、ここから結構遠いし、明日も朝早いのなら出来るだけ近いところがいいなぁ」

「ヨミの言う事もそうだが、いきなり泊めてくださいは流石に失礼なんじゃないか?」

「ううう、そうだよね。ごめんなさい……」

 

 そんな悲しそうな顔をされると心が痛む。

 確かにいきなり泊めてくださいは色々と心の準備が……。部屋の中って案外自分が出るから、自分が当然だと思ったのが他人にとっては異常で、それを指を刺されて笑われるリスクが大きい一大行事。変なのは無かったと思うけど、それでもいくらなんでも……。

 

 で、でも。私達は今日から一つのチーム。

 

 チームの仲を深める為には、一つ屋根の下で暮らし、同じ窯の飯を食らい、背中を洗いっこして一つのベッドで所狭しと並び、互いの敏感な部分に触れ合って寝る事が条件だとこの前ナミさんに貸してもらった本に書いてあった。

 

 私は、どうせなら良いチームにしたい。

 砂狼シロコ、覚悟……入ります!

 

「いいよ、君達はきっと常識ある良い子だろうし。私の部屋は面白くもないし何も無いけど、それでもよければ」

 

 汗がぽたりと一滴落ちたが、出来るだけクールに振るまう。若干唇は震えたが、きっと気付かれて無いだろう。

 

「ちょ!? ちょちょちょちょちょっと!? まだ私だって一緒に寝た事ないのに!? あなた達だけあんなことやこんな事……許されるはずがないわ!!」

 

 机をドンっと叩いた音にびっくりしたのか、マグカップがぴょんっと飛び上がる。

 

 何故か私よりも大変な取り乱し方をするナミさん。いつもなら会話をしながら目の前のパソコンをかちゃかちゃする手を止めない彼女が、今に限って椅子を回転させ、私達に向かって前のめりの姿勢になる。

 

 ーーまだ、私だって一緒に寝たことないのに? つっこむと掘り下げそうになるから今は黙るのみ。

 

「おーっほっほっほ! 嫌ですねぇ黄泉社長。私達が一緒に泊まるだけと言うのに、どういったことをご想像されているのですか?」

「くひひ……じゅるり。社長心配し過ぎ」

 

 ぐぬぬぬぬとうめき声を上げながら赤面していく社長。

 珍しい。どんな意見だろうとなんでも言い返してくる彼女が、何も言い返せないで唇を噛んで悔しそうだ。

 

「あううう、こんなに仕事も溜まってなければ……私だって」

 

 欲を無理やり断ち切るように、くるりと椅子を回転させ、再びパソコンをかちゃかちゃする作業に入るナミさん。その背中は打って変わって丸くなっており、頭部の獣耳も気持ちゲンナリと前側に垂れ下がる。

 

 哀愁。

 

 私だけ仲間外れなんだ。端っこの隅っこの角の頂点なんだといじけているように見えた。彼女の背中が、私達にそう語りかけたのだ。

 

「ーーぅ」

 

 ぼそっと、時給下げてやると漏れたのを聞き逃さない。

 まずい、今よりも給料が下がったらたまに贅沢するスーパーのデラックス弁当を買うのが困難になってしまう。

 ナミさんにしてあげれること。そう、それは日頃の感謝を伝えることなのだ。その為の触媒として、些細な物だが。

 

「ナミさん、そういえばこれ、前飲みたいって言ってた元気100倍スッポンエキスだよ」

 

 日常の小さな会話。

 その中から得た、彼女の欲しい物。

 

「え!? 冗談半分で言っただけなのに。そんな一週間前のことを覚えてるなんて」

「あううう……。ごめん、勘違いしちゃったかも……、喜ぶかなって」

「ぎっ!!!!!!」

 

 胸を抱えて地面に倒れ込むナミさん。今の所社長の面影は0だ。

 

ーー

ーー

 

「お邪魔しまーっす」

「お邪魔いたしますわ」

「お邪魔します。って……わー、良い香り」

 

 人を家に上げるのは緊張する。

 ちゃんと掃除出来てるかな、とか。変な本とか変な趣味とか無かったよね!? とか。

 そんな私の心情はさておき、目の前の若い三人組は未知の世界に首が忙しい。色々めっちゃくちゃキョロキョロ見てる。

 

「とりあえず、隣の部屋に荷物は置いて。先にシャワーでも浴びる? 体べとべとじゃない?」

 

 気を引こうとしたが、彼女らの知的好奇心には勝つことできず。

 

「シロコさんって、アルジルシ良品お好きなんですの? スキンケアとか、お化粧品とかも殆どアルジルシのを使っていますわね。てっきりオーディルとかをお使いになっているものかと」

「そんなに高いの買えないよ……。最低限身だしなみを整えるだけだから、普段は使わないしさ」

 

「あ! ほんとだ殆どアルジルシだ! へぇーメルちゃんの予想大外れだね」

「このアロマミストもアルジルシのだな。ふぅーん」

「ふ、雰囲気とか好きだもん」

 

 社長みたいにお金持ちじゃないんだから、高級品なんて買えないもん。

 良いじゃないかアルジルシ! うちは食器は100均、他の嗜好品はアルジルシと決まっているんだ!

 

「その、香水は何を使ってるのですか?」

「くひひ、私にも気になる」

「お会いした時、とても上品な香りがしましたからね」

「えっと、これは社長に貰った物なんだけど」

 

 大事な物だから、戸棚の中に閉まってある。

 寝る前とか、仕事に行く時とかにたまに付ける。

 

 柑橘の深い香りで、落ち着きながらも動いたら気持ちも上昇する魔法の一本。ボトルのデザインも大人っぽい紫紺になっていて、中心に主張し過ぎない程度の文字が添えられる。

 これを付けていくと、ほんの少し、ナミさんとの距離が近くなるのだ。

 

「まぁ……! ホルメスではないですか」

「ホルメスって、結構な高級品じゃないですか! ぐぬぬ社長め……!」

「ふひひ、確かガーデンシリーズが有名だよね」

「へぇ、私はそこら辺よく知らないけど、有名なんだね」

「有名も何も、一種の憧れに近い香水ですよ。ふむ、これは抗議しなければいけません。私達にも乙女ボーナスを支給してもらわなければ」

「まぁまぁサノ落ち着いて。この後社長が歯軋りする程たっぷり楽しめばいいじゃない。ふふ、いっぱい齧りますわよ」

 

 齧る!?

 

 

 




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