始発点から青春駅へ   作:3ご

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第十三話

 パシャリ。

 カシャシャシャシャシャシャシャッ!

 トゥルルン! ピコン!

 

 シャワー上がりのドライヤー前、パジャマ姿の私を遠慮なくこれでもかと各々の方法で撮影する三人娘。

 一体誰に送るつもりなのか。それとも自分用なのかは判断出来ない。けど、ヨミちゃんは鼻血出そうとつぶやいてた。君は用途が違うかもしれないね。

 

「長い髪の毛。いつも乾かすのは大変ではなくて?」

「うん、そうなの。休みの前の日とかは中途半端に乾かしたりして、髪が痛んだりするの。もっと大容量のドライヤーを買わないとね」

 

「シロコさん、趣味的には短くする感じなのに長いまんまなんだね。ふひひ、私は長いのが好きだけど」

「お店では結んで束ねてるから気づかなかったけど、これは確かに……!」

 

 確かにドライヤーはしにくいし、時間がかかる。

 ヘアオイルなんかも付けたりするから、髪のお手入れは大変だ。朝も少し早く起きて身支度を整えなきゃいけないし、世の中の人はこんなに大変なんだと最初は驚いた。

 

「あ、そうだ! ふひひ、私が乾かしてあげましょうか?」

「ヨミ、流石に欲求が表に出過ぎじゃないか? 彼女は立派な一人の女性。ラインと言うのをだな」

「え、別に大丈夫だよ。むしろやってくれると凄い助かるかも。きちんとお手入れ出来てるか不安だし」

 

 美容室以外で人にやってもらうのって、案外初めてかも。

 

「えっと、じゃあ遠慮無く……!」

 

 ヨミの手にヘアオイルが乗り、しゅるしゅるとした水気の音が背後で音を立てる。

 一滴、二滴、三滴。髪の毛に馴染ませる様に少しずつ、少しずつ頭部の天辺から髪の先まで指を滑らせ、手ぐしで頭皮をマッサージするような力加減。思わずこわばった肩から力が抜ける。

 

「シロコさんって獣耳触られるの大丈夫ですか? 人によっては敏感ですから、嫌だったら言ってくださいね」

「……大丈夫ぅ」

 

 シトラスの香り、そしてヨミの慣れた手先。美味しいカレーでお腹いっぱい幸せな時に、このコンボはあまりにも破壊力抜群。

 頭部の獣耳は毛先を整えるだけで普段は触らない。けど、自分ではなく他人の手でお手入れされると、感度は何倍にもなって、とても気持ちが良い。

 

 何よりこの音だ。肌と肌が擦りあう水気のぬめり。そして髪をとく度に鳴る不規則なざらつき音。それらがかみ合わさると、どんなクラシックの曲よりも優雅で魅惑的。

 

「すっごい呆けてる顔してますわね。ぱしゃりっと」

「題名はあれだな、絶頂」

 

 ゴッッ!

 一瞬、意識の線がプチンと切断された感覚がした。

 強烈的な睡魔。机に重いっ切りおでこをぶつけ、その痛みで我へと帰る。

 

「ふぁ!? あううー……これは危険だね」

「ふふふ、気に入ってくれてなによりです。もうお手入れも終わりましたし、楽にしていいですよ」

 

 すぐに彼女に代わりに私もやってあげると言いたかったが、まるで何十回も温泉の湯舟と外気浴を繰り返したように、体はぐでんぐでんに火照り、ラグマットに吸い寄せられるように横になる。

 

 私は、これほどまでに意思が弱かったんだ。もう、何にも勝てない。

 

「ほらほら、寝るのでしたらきちんと布団に入ってからにしますよ……ふぅん、子供のようにすやすや眠ってるな」

「くふふ、子犬のようにコテンっと倒れてしまったね」

「あまりこういったのには慣れてないのかしら? 可愛いわね」

 

 三人が、ふにゃふにゃと何かを喋っているが、聞き取れても言語化出来ない。

 体がふわふわと浮いて、意識が途切れる。

 最後、ぱしゃりと写真の音が響いたが、そこから糸が切れたみたいに音も拾わなくなった。明確に、睡眠に入ったと認識。

 

 ーーーー

 

 スマートフォンのアラームよりも早く目が覚めた。

 

 普段と寝る位置が違ったからか、一瞬だけここはどこなのかと混乱する。が、すぐに昨日の記憶が蘇る。そうだ、お手入れされた後、ふいに意識が切れて寝てしまったと。

 

 まだ、その余韻が残っているからなのか、上体を起こす気にはなれない。一応手足の感覚だけあるかだけ確認をする。

 

「よかった、齧られてないね。ってーー」

 

 重たい物体が三つ、体に乗っかってる。

 首だけ動かし目を配ると、そこには私を枕にして寝ている三人の子。

 

 目の前にはメルの長いまつ毛が。お腹の辺りには涎を垂らしながら吸い付くように寝ているヨミ。そして太ももの側部に頭を添え、抱き枕のようにして熟睡しているサノ。

 

「とりあえず最初のお礼だ。私は彼女達の枕として機能しよう……トイレ行きたい」

 

 起こさないように、ゆっくりと体を動かし、掛け布団を掛ける。

 まだ時刻は7時台だ。もっと眠ってもらって良い。

 

「む、昨日のカレーまだ残ってる……いや、朝から重たいものは今日一日の活動に影響が出る。皆の朝ごはんでも買いに行こうかな」

 

 朝の日課を終え、外に出ると目に飛び込んでくるのは、今日も快晴の青空。一つも雲がなく、爽やかな朝の風が心地よく鼓動する。

 海風が運んでくる、太陽に照らされた潮と土の香りは、ひとたびに私の心を満たす。

 

 コーポの鉄格子の先に広がる風景は息をのむほど美しい。自然災害に配慮されたここは、海よりもずっと高い位置にあるから見晴らしも良く、たまに呆けて考え事をするのに丁度良いのだ。

 

「ややっ! おはようございます! 朝から精が出ますねぇ」

 

 一階から伸びてくる声。

 最近ルンルン気分でよくお出かけしているデカルトさんだ。

 ナミさんから貰った無限温泉カードをこれでもかと使っているのだろう。

 

「おはようデカルトさん。そういえば、昨日から二週間、ここを合宿所として使うから少し騒がしくなるかも」

「私は特に構いませんよ。友人との時間はそれはそれは楽しいものですからね」

 

「ふぅん、デカルトさんも友達とかと遊んだりするの?」

「ははは、もうこの歳になると、学生の様な友達はいませんよ。大人になるとね、同士になるんです。同じ道を志す同士」

「へぇ、でもそれって寂しくないの?」

「ほぉ、シロコさんは寂しいと感じるのですか?」

「……寂しい、かも」

 

「寂しさも、己を理解すれば答えは出てくるものです。それが己との付き合い方ですから」

「難しい事言う……私はまだ全然かも」

「良いのです。これはとても難しい命題。朝から考える事ではありませんよ」

「じゃあ夜?」

「ええ、少し背伸びしたお酒と美味いおつまみがある時に考えるのです」

「ーー大人にならないと出来ないじゃん」

 

 

 

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