始発点から青春駅へ   作:3ご

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今回は若干曇らせ入るので、苦手な人は気を付けてくださいね。
後、また書き溜めに入るので次回の更新は数日空くかもしれません。※出来るだけ開けない様に頑張ります。


第十四話

 合宿が始まってから、一週間が過ぎた。

 

 最初は新しい仲間との時間を不安に感じたが、彼女達はとても良い子で、仲良くなるのに全く時間は掛からなかった。

 何より、過去の事を聞いて来ない。きっと、ナミさんに言われているのだと思う。だって客観的に見ても私は不祥の人間で、何故か大きな所の社長の側近をしていて、家まで貸して貰ってる。怪しさてんこもり

 

 そんな私に仲良くしてくれて、寄り添ってくれるあの子達。

 また私は素敵な出会いを果たす事が出来たのだ。幸運に思う。

 

「ハァーーハァーー!!」

 

 力一杯の息づかいが、激しい吐息となって空気に交じる。

 彼女達は本当に予想よりも体力が凄く、回復力も逞しい。上り坂下り坂を何本も走っても、息は荒くなってもバテる事は無い。ごはんもよく食べるし、それに、いつも何かを楽しんでる。

 

「よーっし完走!」

「サノは速いわねぇ……」

「メルちゃん大丈夫?」

 

 流石に今日は飛ばし過ぎたかもしれない。

 早朝からお昼過ぎの今まで、休憩もせずにずっと山道を漕いでいたからだ。

 目的はひとつ。それは、彼女達の限界を知る事。何分何本で値を上げるか、翌日の筋肉痛はどれくらい来るのか。最高速度はどこまで出せるのか。

 

 数字とにらめっこするのは苦手だが、レースというのは何より計算が大事になる。数字から結果を予想し、過去のデータを参照し、どうやって一等賞を獲るか。

 

「いやー張り切りすぎたな。でもさ、何人もぶち抜くっていう訓練も必要だと思うんだ。メルもヨミももっと付いてきてくれないと」

 

 たまに、恐らく他の参加者であろう人々が私達と同じようにここら辺をぐるぐる周っている。サノは負けず嫌いで、彼らを三周遅れにしてやると意気込み異常な速度で加速し始めたりしていた。私もそれなりに自信はある方だが、真剣に競い合えば私と良い勝負になるかもしれない。

 

「だってーーハァ、サノ飛ばすんだもの。カーブは苦手な癖に。さっきは本当に危なかった」

 

 サノは速度を出す代わりに、曲がるという走り方が苦手だった。いわゆるハンドルコントロールが得意ではない。

 クリップカーブの時なんて、体と地面がもう少しで触れ合う所だったのだ。

 

「サノちゃんはカーブが苦手……よし」

 

 メルは速度は苦手だが、細かい道は割と得意だ。頭の回転が速いのか、一定の速度を保ちながらくねり道を踏破する。

 

 きっとレースでもこういったカーブは皆上手に曲がり切れず、速度を落とすはずだ。如何に、その間を潜り抜けて首位を上げていくか。それがカギになるだろう。そこで道筋を見つけれるメルは優位に立てる。

 

「サノちゃん足も速いからね。短距離得意だったし」

 

 そう言うヨミは、速度もカーブも苦手だが、筋持久力が必要な場面ではとてつもない運動能力を見せつけた。

 

 普通は坂道をずっと漕いでいくと、速度は遅くなる。が、ヨミに関してはむしろ後半で速度を上げていったのだ。瞬発的な力ではなく、耐久力が凄まじい。はっきり言って私以上だ。

 

「なるほどなるほど……良いデータが取れたね。皆、身体能力高い。これなら上位……いや、優勝まで行けるかもしれない!」

 

 過去の優勝者の記録を見ると、その数字目標まで僅かに届かない。が、これは今から三週間もあれば十分超える事が出来る。現実的な範囲内だ。

 

 今回の大会もリレー方式でバトンを繋ぐチーム戦。ひとりひとりの能力は大事だが、本番では必ずアクシデントはある。一人が怪我をしたり身体的に困難になった場合、次の走者はその場所まで向かい、レースを再開する。

 怪我は厄介だが、対処すれば問題ない。怪我の原因の多くは常に最高速度を維持した場合だ。

 

 去年の走者はそれで結構な脱落者が出てしまっていた。だから、適度な速度の維持。これがベストな答え。

 

「ねぇシロコさん……流石に少しお腹が空きましたわ。サノなんて見てくださいまし。なんかよく分からない木の実の匂いを嗅ぎ始めましたのよ」

 

 むむ、エネルギー補給はとても大事!

 私もお腹が減ってとんでもない事になってる。とりあえず休憩時間だね。

 

「三人は休んでて。ごはんは私が買ってくるよ」

「いいんですか?」

「うん、皆頑張ったし。これくらいはさせてよ」

 

ーーーー

 

「やっぱり、この道路はあまり整備が行き届いてない。でこぼこしてる。うーん……考慮しないと」

 

 レース場所は去年と同じと公式サイトに書いてあった。

 ここら辺を再整備するには時間もかかるし、きっとこのままだろう。

 

「む、もう何人か下見をしているね。気づく場所は同じ……」

 

 後で、あえてその道を走って、皆の体幹力がどれくらいあるのかを調べなければ。

 クリップロードを緩やかに降りていく。

 

 螺旋階段の様に同じ道が繰り返される。変わることのない風景のはずだが、すぐ目の前に、一人の大柄の人が道路の中心に仁王立ちをしていた。思わず速度を最大限まで落とす。

 

「危ないよ。そこ」

 

 オリーブ調の硬い服装。夏だと言うのにロングコートを羽織り、頭部は制帽を深く被り、顔は真っ暗な闇を煮詰めたようで表情が見えない。

 

 胸には星形の勲章がいくつも付けられており、一目で軍人だと理解出来た。

 どうして軍人がここにいるのかは分からない。大会の視察とは到底思えないし、しかも、道の真ん中にただ突っ立っているというのが不気味だった。

 

「なぁ、君、私と少し話さないか」

 

 私の言葉を無視し、自分の声を通す軍人。

 低い、機械音の様な声からは、生気を感じない。

 

「どうして?」

「どうしても何も、君と話がしたいからだよ」

 

 軍人は道脇に逸れ、ガードレール越しにある大海に視線を移す。

 私も釣られて移動し、ロードバイクをガードレールに立てかけた。

 普通なら、この手の輩は無視する。けど、こいつに至ってはどこか違う雰囲気を感じた。

 とても、不気味だ。

 

「君は、ラーとアぺプの戦いを知っているかい?」

「……知らない」

 

 ラーは仄かに知っている。太陽神の名前だ。

 

「よろしい。簡単に要約すると、光と闇の戦いだ。アぺプはラーを何度も襲うが、全て失敗に終わっている。ラーも襲ってくるアぺプを倒そうとするが、倒せずに終わる。永遠に秩序と混沌の対立を描くお話しである。アぺプの役割は、全宇宙を照らすラーを食べる事。ラーの役割は、それを退け、人々に安寧と光を照らす事だ」

 

「それが、どうかしたの」

 

 額から、汗が滴る。

 まるで、蛇に睨まれたネズミのように。体に緊張が走り、汗を拭う手も動かせない。

 

「光が闇になる事も、闇が光になる事もない。ただそれだけ。そこに悲劇的な主人公も、愛を求めるヒロインも登場しない。それが厳然たる秩序であり、世界のルールでもある」

 

 ーーただ一つの例外を除いて……なぁ?

 

 軍人がそう喋り、私に顔を向けてきた瞬間、背中にぞくりとした悪寒が走った。

 頭の中で、危険を訴える信号の音が響く。

 思わず、腰に据えてある銃に手を伸ばす。

 

「なぁ、聞かせてくれないか? お前は人殺しの癖に、どうして光の世界でのうのうと生きていけるんだ?」

 

 ーー人殺し?

 

「何を呆けている。君は人殺しだろう? 色彩の影響で、神秘が恐怖へと反転した存在。一体前の世界で何人の人々を手にかけたんだ? ーーこの、人殺し」

 

 言葉が、胸を刺して呼吸を止める。 

 私、私は。

 人殺しなんかじゃ。

 

「君の役割はアぺプではない。が、アペプ側で間違いない。何人もの罪の無い人々をあの世へ送り込んでいるからな。その銃火器を使い、色彩が生み出したこの世界に存在しない兵器を使い、殺戮を行った」

 

 軍人が、足元まで距離を詰めてきた。

 逃げたいのに、軍人の言葉が否定出来なくて、必死に反論したいのに、言葉が出ない。

 

「聞かせてくれ。人を殺すというのはどんな気持ちなんだ? 楽しかったか? それとも役割を果たせて満足だったか?」

「ーー違う、違う違う違う違う違う違う……あんな事、したくなかった」

 

「そうか、罪悪感があるのか。罪悪感だけで済んでいるのか。罪から逃げて、恩師に全てを被せた。耳障りの良い言葉だけを聞いて自己を正当化し、叫んでいる人々の言葉など聞かず、悪戯に命を奪った」

 

 呼吸が、出来ない。

 苦しいーー苦しい。

 

「私には聞こえるよ、力の無い者の言葉の声がね。きっと、目の前で大切な家族を殺された者もいるだろう。君はそんな人達に、どのような言葉を掛けるんだ? ごめんなさい? そんなつもりじゃなかった? ふ、殺した相手に向かってそんな事を言われたら、私だったら激しい憎しみを抱くだろうな」

 

「わーーわたっ……そ……な」

 

 無慈悲な言葉が体を縛りつけ、手足が震える。言葉の刃が肉を裂き、私の意識を蝕んでいく。

 

「そうかーー逃避か。人殺しとは、こうも自分勝手な生き物なのだな。キヴォトスではとても珍しい。皆、ラーのように光り輝き、幸福と未来を照らしているのに」

 

 ーーお前だけ、アぺプのようだな。

 軍人の言葉は、鼓膜を貫通し、脳を汚染する。

 私には、それに抵抗する力も、意思も湧き出てこなかった。

 

「折角ここまで出向き、人殺しの意見を聞きたかったのだが……まぁ、続きはまた別の機会にしよう」

 

 軍人の足音が遠ざかると同時に、私の意識も段々と遠のいてきた。

 こんな所で倒れたら、皆のお腹を満たせないのに。そう気持ちを切り替えようと頭の自己防衛機能が働こうとしても、脳内に吹き込まれた軍人の言葉が、次々と壁を破壊していく。

 

 鈍い頭の痛みと共に、世界が真横になった。もう、体も動かせない。

 

「ち……が……」

 

 

 

 

 

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