木々がひしめき合う闇の街道。月夜と手元の光だけが足元を照らし、足元の葉や枝が静寂を打ち破らんと、音を立てる。それはまるで森全体が生きており、私達に警告をしているような錯覚に陥る。
石段は登るごとに自然の形を形成していき、一歩間違えれば足元を掬われ、すぐ真横にある格子の外へと引き摺り込まれるだろう。
正直、怖い。
さっき見た大きめの木なんて明らかに顔見たいな穴があったし、両脇に生えた枝がまるで私を襲いかかる直前のように天に向かって伸びている。がおーっ。そのまま食べちゃうぞーっ! そんな声が聞こえる。
ホホホホホーホホ。
不気味な鳥の鳴き声は、最早演出の域を超えて私に直接干渉しているのだ。
そういえば、以前読んだ「どきどきっ!ほんとか嘘か都市伝説!」でこんな話があった。
この大口神社に纏わる話しだ。まん丸い大きなお月様がにっこりと笑い掛ける時、天の導き手が現れる。その天の導き手とはまさに鳥のような見た目をしていて、まずは鳴き声で自分の居場所を対象者に知らせるのだ。そしてその声を聞いた者は、いつの間にか異界へと足を運び、そのまま元の世界には帰れなくなる。
そんな都市伝説だが、何も根拠が無く出鱈目を言っているのではない。
何故今回この神社を選んだかというと、少し前からこの辺で人とも取れる叫び声が聞こえてくる。と噂が出ていたのだ。
それはおおよそ数ヶ月前まで遡る。この辺をツーリングしていた観光客が、ある叫び声を聞いたというのだ。言語化すると難しかったらしいが、何か懺悔かのような、助けを求める声だと言う。
もし人が助けを求めているのなら、放っておく事が出来ない。そう考えた観光客は一人でこの神社まで足を伸ばしてしまったそうだ。
頂上に上がり、お祈りだけし、何も無かった気のせいだと振り返った瞬間「それ」は居たと言う。
不気味で、ただそこにある真っ暗闇。声だけが聞こえる、空間。
結局その人はそこで気絶し、気が付いたら麓で眠っていたとのことだった。
普通ならただの虚言だと聞き流されるが、観光客はずっとボディカムを付けていて、その時の映像が一部始終残っていた。
動画はたちまちモモチューブで大ヒット。が、あまりにも現実離れしていると言うのと、映像にVFXや凝った編集をした形跡があると判断され、虚偽の拡散として消されてしまったそうだ。
ホホホホホーホホ。
こうして今も、獲物を求めて鳥の鳴き声をしているのかもしれない。
さっきのホラー映画も相まって、恐怖と恐怖の相乗効果は最高潮だ!
「あの、さっきから鳥の鳴き声を真似しているのですけど、反応してくれます?」
「メルかよ!! 紛らわしい本気でちびりそうになったじゃねーか!!」
ふふふ、もうぐちょぐちょの癖に。と手で口元を隠しながら、懐中電灯で自分の顔を下から当てるメル。ごめんあそばせ、とはしたない口調を直そうとするが、もう手遅れだ。
「にしても、本当に不気味な森ですね。なんかここだけ異空間みたい」
「ヨミちゃんは悪い子だから、お化けに連れて行かれるかもしれないね」
「なんと!? 沢山謝ったじゃないですか〜……」
「ヨミ、謝るだけじゃダメだぞ。一人の女性を泣かせたんだ、責任は大きい。もしこの事が社長に知られでもしたらどうなると思う?」
「う……絞首台か、皮剥の刑だね。ううう、私はどうしたら……」
「いえ、それだけでは済みませんわ。きっと社長のことですから、四肢切断して火炙りまでやるでしょう。彼女はやりますよ、私にはわかりますわ!」
君達の中のナミさん惨い人物像になってないかな?
流石に……言い過ぎても無給労働♾️編くらいだとは思うよ。
「ふふ、ヨミちゃん、君が助かる道を私は示す事が出来る。私に全てを任せるんだ」
「え!? 流石シロコさん! 社長を色気で飼い慣らしてるだけある!」
「語弊……まぁいい。ふふふ」
メルに負けじと、私も顔の下から懐中電灯を照らし、雰囲気を作ってみる。やってみると意外と眩しい。
ヨミの喉からごくりと、森林の静寂に一石を投じる音が鳴る。
「今度、ヨミちゃんの毛繕いをさせてよ」
「へ? ヘアメンテですか? ぁあ……グワーっ! 乙女の命を弄ぶ気なんですね!? 鬼っ! 悪魔っ!」
「そうだよ、ヨミちゃんの大切な髪の毛はもう私が握っているの。家に帰ったら覚悟をするようにね」
「くっ……! 私の命は好きにしていい。けど、私の心までは渡しません! 絶対に!! 私は諦めない! 最後までこの砦は守ってみせるのだ!」
「あ……ごめんね。そこまで嫌だったなんて……配慮が足らなかったかも……傷付けるつもりじゃ無かった」
「ってちょちょちょーーい!? なんでそこは引くんですか!? もっとグイグイ来てくださいよ!? 私の髪の毛なんてビュッフェみたいに触り放題なんですから!? ついでに舐めるのもオーケーですよっ!」
最後の一言は聞かなかったことにし、とりあえず足を動かす。
石段の一つの幅は大きい。目算を謝れば隙間に足が埋まり、最悪捻挫になりかねない。
「あのっ! ついでに舐めるのもオーケーですよっ!」
暴走するヨミを、サノが後ろから羽交い締めにして口元を両手で押さえる。
本人は特に抵抗もせず素直に受け入れてることから、彼女達が普段どんな絡み方をしてるのか容易に想像が出来る。
「おいやめろヨミ。流石にそれは返答に困る言葉だろう。メルも黙ってないで何か言ってやってくれ」
ホホホホホーホホ。
また、鳥のような鳴き声が聞こえる。が、今度は遠くからだ。
おかしい、遠くからだと言うのにこうもはっきり聞こえるという事は、元の音源の音量は相当大きいと推察できる。でも、この上は特に施設がある訳ではなく、あったとしてもこじんまりした神社がぽつんと建っているだけ。
「だから紛らわしいんじゃい!? あのねーー三人のボケ役に対してツッコミ役一人なの察してくれよな!? 過重労働認定して残業代むしり取るぞ!」
「えっと? 今のは私ではないのですが……」
「うん、今のは明らかに違った。もっと上の方から聞こえたね」
「フゴフゴフゴ(私もそう思う)」
思わず三人に目配せし、手のひらを掲げ、ゆっくりと下に降ろす。私の意図を察したのか、三人は息ぴったりに声も上げずにその場にしゃがみ込んだ。
私もその場にしゃがみ、近くの岩陰に行こうと指を向ける。三人は黙々と頭を縦に振り、明かりを最小限にして私の背後に着いて回った。一人一人が別の視点を確保し、足取りもつまずく事なく近くの岩陰に到着。ここからは主通路の石段も視認出来るし、何かあった時は背後の別の岩陰に隠れればいい。
腰に据えてあるハンドガンに手を伸ばす。
「皆、ここからは小声で」
「はい、理解しております。確かに変な鳥の鳴き声は聞こえましたが、何かそれ以外にも不審な点がありまして?」
「うん、ちょっとゾワっとびっくりしたけど、何か警戒する所ありました?」
「シロコさん、半端ない聴覚していますね。メル、ヨミ、耳を澄ませろ。私達が来た道から複数の足音が響いてる。自然の音から不自然を拾うんだ」
そう言うサノも相当な感覚値だ。私は今まで色々な戦いをしてきて、戦場に長く居たから感覚が研ぎ澄まされてるけど、そんな私と同時に異変を感じるなんて「桁違い」にも程がある。
「……来たよ。息を潜めて」
ん、あれってーー。
これからは若干間を空けながらの更新になります。
出来るだけ毎日投稿したいのですが、色々と忙しくて手を付けられない日も出てくるかと思います・・・辛(泣)。応援して頂ければ幸いです。