始発点から青春駅へ   作:3ご

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第二十一話

ーおい、誰か人の声が聞こえた気がするんだが。

ーまっさか〜。こんな時間にこんな辺鄙な所来る物好きなんていやしないよ。

ーま、そうか。それよりも定刻の鳴き声が聞こえたな。予定よりも早い。急ぐぞ。

 

 岩陰越しに見える二つの影。月夜に照らされるその姿は、私達と同じ人間の形をしていた。片手に懐中電灯を構え、周辺に人の声が聞こえたと言いながら辺りを照らしてる素振りを見る限り、ただの一般人。

 この場に似つかわしくない革靴の足音と、夜の世界に反射する白色のシャツ。

 

「あれって――! カイザーの社員じゃなくて?」

 

 メルの吐息と一緒に漏れる声は、自然と違和感なくすんなりと耳に入り込んだ。経験の浅い者は静寂を利用して仲間とのコンタクトを取るが、プロと呼ばれる人種になると周りの環境に合わせて音を奏で、コンタクトを取る。メルは完全にその手合い。いや、彼女だけじゃなく、二人も同じように連携を取り、なるべく言葉を出さないようにアイコンタクトを取っている。

 

「こんな所で何をしているのかな」

 

 ヨミがどこから共なく自然と双眼鏡を出し、対象の人物を正確に確認する。

 暗視スコープ付き、倍率は30倍程度。堅牢な見た目から、一般的な双眼鏡ではなく軍用の双眼鏡であると推測。いち生徒が持っている装備ではない。

 色々と気になるが、今は目の前の事に集中。

 

「うん、確かにカイザーの社員だね。あのスーツのバッジ見たことある。流石メルちゃん」

「でもどうする? 隠れる必要も無かったと思うのだが……」

「いいえ、以前社長がカイザーの連中が嗅ぎ回ってると不審に思われてましたわ。それもこんな所で……」

「うん、不審。これは調査が必要な案件だと思う。三人はどうする?」

 

 この世界も、以前の世界と同じようにカイザーは何かしらの悪巧みを抱えていた。あいつらは手段を選ばずに富を求める。

 もし、この辺で大規模な「何か」を行おうとしているのなら、尚更知る必要があるのだ。この近隣に住んでいる身として、あいつらの好きにはさせたくない。

 

「私はシロコさんに付いて行きます」

「私もだ。大丈夫、決して足手纏いにはならない。それに、カイザーですからね。放って置けない」

「おほほ、私もですわ。面白そうですし」

 

 迷いもなく即答した三人。判断力が早く、とても頼もしい。

 

「ん、対象が動いた。三人とも、足音には気をつけてね。それと、あの二人だけじゃなくて周りにも気を配って」

 

 中腰の姿勢になり、岩陰から岩陰へ、そして視界が広くなれば影に隠れ匍匐の構え。

 石段の道沿いは傾斜が多く、視界を容易に妨げる事が出来るので、尾行はとても楽に進行できた。

 虫や蝉の鳴き声でかき消えそうになるが、会話している声の輪郭が浮かび上がる程度には接近。息を潜め、気を伺う。

 

ーにしても、あの計画どう思う?

ーどうって……言いたい事は分かるけど、仕方ないだろ。資金も大量に投入してるし、今更引き返せない。

ーいやま、そうなんだけどさ。未だに信じられないというか……。それに、下手したらこの土地吹っ飛ぶんだろ?

ーらしいな。ま、信じるか信じないかは勝手だけどさ。あまり疑問を持たない方がいいぜ。それよりも俺はあの司令官に目をつけられる方が怖いよ。あんなに闇を煮詰めた顔で真っ直ぐに見つめられると、頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。

ーそういえば聞いたか? 司令官に詰められて精神崩壊した奴の話。

ー聞いた聞いた! パワハラを過ぎてもう一種の暴力だよな! 確か最近退院してもう退職したらしいな?

ーああ、表向きはな。

ーなんだよ、その裏があるみたいな言い方。

ーあるんだよそれが。まぁ聞けって。そいつ、退院したはいいけどよ。このプロジェクトに関わってから終わるまで、職場での記憶は綺麗さっぱり消えてたらしい。

ーはぁ? そんなバカな話があるもんか。

ー出鱈目じゃねーよ。だって俺の事も知らないとか言ったんだぜ? 一緒に飲みにも行ったのによ。

 

 流暢に石段を登る事から、ここに来るのは初めてではないと推測する。それに、彼らの会話を聞く限り、やはりカイザーコーポレーションの中で計画が進行しているみたいだ。それに……。

 

「やはり、カイザーは何かを企んでるみたいですね。それが私達にどれだけ関係しているかは分かりませんが、土地が吹き飛ぶとはあまり穏やかではありませんわ」

「荒れ狂ってるな。ヨミ、録音は出来てるか?」

「バッチリ。ガンマイク搭載してるから音像もはっきりと集音してるはずだよ」

 

 闇を煮詰めた顔の司令官。

 一人だけ、覚えがある。

 

「シロコさん? どうしますか?」

「うん、追うよ。気になるし」

 

 ヨミにそう喋ると、彼女は後方にいる二人に手のひらでいくつか合図を送る。

 二人は顔をいくつか動かした後、私のいる反対側の石段へと移動し、腰を下ろした。

 

「こういったストーキングの場面でのチームの動きは、固まらないで行動した方が効率的です」

「すごい……慣れてるね。手際も良いし。何か部活入ってたの?」

「……色々ですよ。色々」

 

 一瞬だけ、目を伏せ虚空を見つめる。この表情は知っている、過去に色々あった人の顔だ。

 私も彼女達に過去を明かしていない。自分だけ聞くなんて不躾だ。

 

「よし、じゃあ移動しようか」

 

ーー

ーー

 

 後半になるにつれ、石段一段の幅は狭くなり、砂利道が増える。整備が行き届き始めた道なりを音を立てずに進むのは困難を極めるが、別角度から侵入すれば話は別だ。

 だが、主通路から逸れる程、対象の人物までの距離はまずます遠ざかり、視認性を確保するのが難しくなった。

 

「どうする?」

「砂利道が厄介ですが、あの社の下とかどうですか? 空間は大きいですけど、こんな真夜中です。視認するのは殆ど不可能なはず」

 

 天に向かって伸びている木々が周囲を囲み、石段の小道が門を通り抜けると、そこには決して大きくないが立派な神社がポツンと聳え立っていた。

 境内には大きな鳥居がいくつかあり、それを全部くぐり抜けるとお賽銭箱と吊り鐘が備え付けられている空間に出る。

 

ーふぅ、到着っと。

ーおい、まだ集合の時間は過ぎてないよな?

ーああ、鳥の鳴き声は早かったが、通達にそんなのは書かれて無かった。後数分で起動するはずだぞ。

ーにしても、面倒なシステムだな。休暇中だっていつ指令が来るかわからないしよ。気軽に職場に行けない分、おちおち旅行にも行けやしねー。

ーその分給料はいいんだから我慢しようぜ。

 

 お賽銭箱の前で二人は振り返り、他愛もない会話を繰り広げている。

 私はヨミと近くの社の下に身を潜め、サノ班とモモトークで連絡を取り合う流れとなった。

 

「システムって言ってましたね。この神社に何かあるのでしょうか」

 

 

 ホホホホホーホホ。

 

 また、鳥の鳴き声が響いた。

 

ーお、キタキタ。じゃあまぁ頑張りますか。

 

 カイザー社員二人に視線を合わせると、彼らの立っているお賽銭箱ごと、下の方へと移動していく。

 暗闇から漏れ出す光は徐々に姿を消していき、二人の顔が見えなくなると、機械のモーター音だけが境内に響いた。

 いつの間にかヨミちゃんはスマホの画面を合わせ録画をしており、一部始終が取れたのか、小刻み良いガッツポーズ。状況判断の早い子だ。

 

「シロコさん、ここ、やっぱり何かありますね。まだ出ないでください。今サノちゃんとメルちゃんが監視カメラの位置を確認してます」

 

 




闇を煮詰めた顔の司令官。一体何者なのでしょうか!
ちなみに、もうちょいオリキャラは出てきますのであしからず・・・。
メインはこの四人ですが、敵キャラとか諸々ね。
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