始発点から青春駅へ   作:3ご

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第二十二話

「サノちゃんどうだった?」

「ああ、ここには監視カメラも、ましてや警備ロボットの一つもいない。あのカイザーグループが動いていると言うのに、不自然に無警戒だ」

「ですわね。カイザーグループは表ではそれなりの理由を付けて事業を展開していますが、各所で行われているのは怪しい実験ばかり。大掛かりになればなるほど露骨に警備を増やし、土地を広げて侵入者を防ぐと言うのに、ここに至ってはまるで警戒の色が見えませんわ。不気味なくらいに」

 

 確かに、カイザーグループにしては無警戒が過ぎる。

 私が戦った時は、質より量で攻めてくるタイプだった。しかも、とにかく最新の兵器を巧みに使い、機動力と破壊力で蹂躙してくる、面倒なタイプ。

 それすら足枷になると判断しての今の状況なのか。社員二人を護衛も無しにここまで移動させているのだ。必要がないと判断? それとも未知の兵器?

 それか、ここからは見えないだけで、下に行けばあらゆるロボット達が待ち構えているとか?

 謎は深まるばかり。

 

 あれ? そもそもどうして三人はそんなにカイザーに警戒をしているのだろう? 私みたいに、昔やり合ったとか? 今考えても仕方ないか。

 

「とりあえず、ここにいたら危険だね。まずは下に降りよう」

「ですが……いぇ、シロコさんの言う通り、ここに私達がいることは不自然ですからね。それに、彼らを見てしまいましたから」

「どうされます? 元来た道から帰るのもいいですが、もしカイザーの社員に出くわしたら面倒でしてよ?」

「大丈夫だよ。今日の肝試しの帰り道は裏ルートからだから。表の石段は使わずに行ける」

 

 ヨミを先頭に、広間の西側から森に入る。

 最初はうっそうと不気味に広がっていた木々の数々も、今ではただの遮蔽物だ。鳥と虫の鳴き声は自然と不自然を聞き分けるアンテナとなり、月夜の光は影を作り身を隠す為の大事な光源。

 久しぶりに、頭が完全に戦闘モードに切り替わっている。

 

ーーねぇ。

 

「サノちゃん、あの神社解析とか出来るかな? ミレニアムだったらヴェリタスとかエンジニア部とか色々あるけど、どこか協力を仰げる部活あったりしない?」

「ヨミ、そう焦るな。それにあの神社程度なら私のドローンでも全体像をスキャン出来るし、侵入経路も脱出経路も割り出せる。少し時間が掛かるが……名誉に賭けて必ず任務を遂行するよ」

「サノ、ヨミ、作戦のお話はとりあえず家に帰ってから。シロコさんだって今日は無理して連れ回してしまったのですから、まずは一旦家に帰ることに集中! いいですわね?」

「あ、あの、私は大丈夫だよ。それよりもさ、三人はカイザーと何か因縁があるの?」

 

 あの場面を見てから、三人に纏わりつく雰囲気に変化を感じた。

 どこか、執着のような。焦っているような。

 

「……いえ、特には。ただの好奇心ですよ」

 

 サノも、ヨミと同じで一瞬だけ目を伏せながら虚空を見つめた。無表情で、無感情で、遠い記憶を見ているような、虚しいような。

 

「ええ、私達の好奇心です。だって面白いじゃありませんか? こんな辺鄙な所にカイザーの基地があったら」

「二人の言う通り、これはただの好奇心ですよ!」

 

 建前だ。

 もうそれ以上は聞かないで欲しい。そう訴えている。

 そもそも私に聞く権利なんて最初から無い。私だって彼女達に何も話していない。自分だけ知りたいだなんて、おこがましい。

 

ーー返事してよ

 

「ナミさんには報告する?」

「いえ、するつもりはありません」

「そっか。それじゃあ、四人だけの秘密だね」

 

ーー私はここにいるのに

 

「いいですわね、四人だけの秘密! カイザーを巡る夏の大冒険といった所かしら」

「ええ……メルちゃん流石にそれは硝煙の匂いだよ。私はシロコさんの部屋で嗅ぐアロマの香りがいいな」

「ヨミは髪を触りたいだけだろ。ったく、ほどほどにしないとベタベタ触り過ぎて遠ざかる犬みたいな反応をされるぞ?」

「なるほど。サノちゃんにとって私は犬みたいなものか。メモメモっと」

 

ーーやっと、伝えれそうな人が来たのに。もう、力が弱まっているんだ

 

「ん、さっきから誰?」

 

 か細い声が耳に入る。

 私はてっきり、ヨミ辺りが仕切り直しで肝試しの続きを執り行おうとしているのかと思ったが、三人はポカンと口を開けるばかりだ。

 

「えっと、シロコさん。どうされました?」

「ヨミちゃん、肝試しの続き? この展開でぶっこんで来るとはやるね」

 

ーー声が聞こえた!? お願い、こっちに来て!!

 

「ん、こっちってどこ?」

「あの……は!? さては私達を怖がらせようとしていますね!?」

 

 サノは一歩下がり、周囲を警戒し始める。

 

ーー後ろ、後ろ振り向いてくれるだけでいいの! お願い!

 

「えっと、後ろってーー」

 

 一番後続にいる私の後ろには、当然誰もいるはずがない。風景は目の前の森林と変わらずに広がっているはずなのに、私の後頭部の先だけは、ぽっかりと穴の空いた空間が広がっていた。

 吸い込まれる。

 世界が、遅くなる。

 止まる。時計からいきなり電池を抜いたみたいに、静止。

 

ーー

ーー

 

 無数の星空が、鏡面反射する世界。

 

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