始発点から青春駅へ   作:3ご

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本物語は、36話までお読みいただいた後にご覧になることをお勧めいたします。それまでの内容を把握していただくことで、より深く本作をお楽しみいただけます。



Spirits of the Sea(海の幽霊) 末子サノ

ー元気してる?

 

 朝、寝起きと共に鳴り響くスマートフォンのスヌーズを止めようと視界に画面を入れた直後、普段あまり使わないアカウントのモモトークに一通のメッセージが入った。

 一瞬雑な広告か何かだと思ったが、以前のトーク履歴が残っており、その送り先が昔からの幼馴染で親友の大実メルだと理解するのに1分ほどの時間を要した。

 朝は、正直少し苦手。

 先日、夜遅くまで本を読んでいたから夢の誘いがまだ残っているけど、それよりも目の前の現実の方に興味をそそられ意識は覚醒。すぐに返信をする。

 

ー元気。そっちは? まだ病院通ってる?

 

 すぐに返信が来るとは思っていなかったのだろう。一分待っても既読が付かなかったので、とりあえずベッドから起き上がり、両手を絡ませて天井に向けて背伸びをする。

 先日買っておいた缶コーヒーを冷蔵庫から取り出し、ソファーに腰掛けテレビを付ける。

 

「……何の用だろう」

 

 いつ以来の連絡だろうかと、モモトークの履歴を遡る。

 最後の連絡は、去年の11月だ。互いの所在を確認する為と、受診する病院を教え合った、ただ淡々としたメッセージ。

 あれから7ヶ月が過ぎたのかと、宙に視線を送り、物思いに耽る。

 こうして時間を感じていると、あの時の出来事は本当は夢では無いかと、錯覚と願望が混じりあい、胸の奥にある心が荒れ狂いそうになる。

 薬の処方分は尽きてしまったから、出来る対策としたら大きく息を吸い込んで吐き出すだけ。

 脳内で行われる断続的な映像の連鎖を断ち切るように喉に一気にコーヒーを流し込む。すると、黙っていたスマートフォンの音が鳴り、画面にモモトークの案内表示が出てきた。

 長押しし、アプリを開く。

 

ー今、電話いい?

 

 その返信は、彼女にしてみればとても珍しい。

 小さな頃からずっと一緒だったからこそ、最早会話など不要。メッセージからでも感情表現が読み取れるくらいにはメルの事もヨミの事も知り尽くしている。それは向こうも同じなはずだ。

 気になる。

 返信を送らず、こちらから受話器のマークをタップし、スピーカーモードに切り替える。

 4度目のコール音の後、ガチャリと音が鳴ると、布の衣擦れのような音が響き渡った。

 なんとなく、電話の向こう側でのメルの行動が情景に浮かぶ。以前にもあった事だ、彼女は緊張すると必ず声を出す前に受話器部分を自分の胸に押し当て、深呼吸を2回行う。 

 私に対して緊張するのは、7ヶ月も顔を見ていないからだろうか。

 

「なんで緊張してるんだ?」

「あら、開口一番がそれですの? 変わりありませんわね」

 

 各言う私もそれなりに緊張しているが、メルの声を聞いてると不思議と肩の力が抜けていくのを感じる。

 彼女の声は透き通っていて、語尾が伸びる事も無く、高音は最早オペラ歌手並みに聴こごちが良い。本当にお嬢様の様な清らかさ。実際お嬢様なのだけど、たまの下品な発言が全てを台無しにしている。

 

「お元気ですか?」

「寝不足だな」

「では元気ですのね。安心しました」

「メルはどうだ? もう退院したのか?」

「ええ、残りはお薬の処方で問題無いとのことでした。お騒がせしました」

「……よかった。重たかったから心配していたよ」

「ふふふ、ありがとう。ヨミもだけど、サノもやっぱり優しいね」

 

 たまに見せるお嬢様の仮面を外したメルの声。心の奥底からの本心を見せる瞬間。

 

「なぁ、久しぶりに会えないか?」

「もちろん、その為に今日はご連絡しましたの。……それと、大事なお話しをしたくて」

「大事な話し?」

 

 メルがこういう切り口をしてくるのはとても珍しい。

 

「ええ、姉さんの事です」

「……姉さんが、どうかしたのか?」

「それは、会ってからお話し致します。今日の予定はどうですか?」

「祝日だから学校も休みだし、特に予定も無いよ。バイトも入ってない」

「では、急ですがこの後はいかが?」

 

 時計を見る。

 時刻は九時半。お昼からのんびり本屋さんでも巡ろうかと思っていたが、別に急な用事でも無いし、一番は親友を最優先。

 

「了解。場所は?」

 

ーー

ーー

 

 トリニティ総合学園からロードバイクで二十分程走ると、レンガ壁が特徴のおしゃれなカフェ。内装は基本間接照明で照らされており、家具は布地を基調としたフカフカのソファーにローテーブル。お店として居心地が良いのは最高なのだが、一杯でひたすらに粘る者も多い。ここら辺は土地代も高く、商品の単価も安いことから専ら儲かってないと噂が立っている。

 

 実は知られていないのだが、このお店は姉さんがとある理由で経営しているお店だ。その理由とは、SRT特殊学園史上最高の部隊と評された、私達ウルフ小隊の作戦会議を行う場所。

 入学早々、模擬戦で当時の最高部隊であるFOXを超えたのを評価された私達は、秘匿の中の秘匿。同じ学園だろうが作戦すら共有されない、部隊名すら秘匿の存在になった。

 学園という大枠の規律から外された私達にとって、上官とのコミュニケーションは必須。そこで立案されたのが、同じ幼馴染で会社経営をしている姉さんに白羽の矢が立つ事になった。

 

「サノ、こちらですわ!」

「サノちゃん久しぶり。……なんだか痩せたね」

 

 言葉を交わす前に、二人の肩に手を回し、顔を寄せ合い抱きしめる。

 二人は喉から声を漏れさせながら、私の胸元に体重を乗せ力いっぱい抱擁を返してきた。

 

 嬉しい。

 やっぱり、二人の顔を見ると安心する。

 

「メル、ヨミ、元気にしてたか? ──ああ、もっと早めにこうしていればよかったんだよな。私は、二人がいないとダメだよ」

 

 

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