「ではこれより、:一網打尽!?チキチキ!カイザー撲滅キャンペーン!!:会議を行う。書記はヨミ、議事録はメル。進行はこのサノが務めさせて頂きます。シロコさんは……うんと、えっと、まぁそこに座っててください!」
夜、ひとしきり練習が終わった後。
三人は私の部屋で会議をするからと言い、お茶とお菓子を持って部屋に上がり込んできた。勿論全員もれなくパジャマとか洗面具を持ってきており、泊まる気満々。
ま、私も今は一人で寝るのは億劫になっていたから都合がいい。電気を消して暗い部屋にいると、あのホラー映画を思い出してトイレすら遠くなるからだ。全く、今度からヨミの持ってくる映画には気をつけなければ。
「作戦名……」
「シロコさん、今は私が進行ですので、不規則な発言は控えて頂きたい」
「うう……」
眼光鋭いサノの視線が、私の唇を縫い付ける。
どうしてか知らないけど、頭が良くなりそうだからと眼鏡を掛けた彼女。そしてそれに釣られる二人。
「不規則な発言はバツっと」
「ヨミ、そんな事は書かなくていいぞ。ホワイトボードの余白の無駄になる」
チェっと舌を鳴らし、渋々描いた文字を消す彼女。
というか、私にも何か役割を与えてくれてもいいのに。
これじゃあまるで、何も出来ない無能みたいじゃないか!
「おほん! では本題に入りましょう。私達の目的はあの大口神社にあるカイザーグループの拠点の中。拠点名は……うんっと、とりあえずカイザー神社にしようか」
「おほほ、乗っ取られましたね」
「メル、今は私が発言してるんだ。不必要な煽りは謹んで頂きたい」
いつになく厳しいサノ。
眼鏡で見た目の知的度が上がっているから、尚更変な威圧感が出て口を結んでしまうのだ。
「不必要な煽りはバツっと」
「ヨミ、そんな事は書かなくていいぞ。ホワイトボードの余白の無駄になる」
本日2回目のやりとり。
自然とボケとツッコミが出来ている事から、やはり幼馴染は伊達では無いなと感じる。
サノが再びわざとらしい咳払いを数回かますと、ゆったりとしていた空間に少しの緊張の糸が出てきた。
「我々の任務達成条件はただ一つ。それはあの神社の中で何が行われているかを調べる事。そして、不可解な物があれば必ずデータを回収し、解析する事だ。ただ行って帰って来ただけではピクニックと変わらない。確固たる証拠を持ち帰るのが原則である。無論、何も無ければそんな物必要無いが、あのカイザーがわざわざあんな所に施設を作るくらいだ。所詮、やましいことに決まってる」
ではここでデータを見せようと、サノはバッグから小型のプロジェクターを出し、壁に向かって投射。そこに映っていたのはまるでショッピングモールの様な階層の図面。横にはB4と書かれており、施設の深さが窺える。中央には大きなロケットでも搭載しているのか。地下から地面すれすれの天井まで大きな吹き抜けになっていた。
「これが、先日ドローンを飛ばして土地をスキャンした結果だ。単純な金属探知と熱探知で割り出した物だから所々間違っているとは思うが、概ね大きさは理解出来たと思う。あのお賽銭箱にある昇降機は一旦地下4階まで一直線に降り、そこから社員は各々の仕事場へと移動するという流れになっているらしい。具体的に中で何をしているかまでは判明していないがね」
以上が概要だと、サノは指示棒を折りたたみ座布団の上に腰掛けた。
「で、この情報を元にどうやってあそこの中に忍び込み、情報を得るかが一つ目の課題になる。カイザーの社員を拉致し、尋問するとか。何か良い案があれば聞きたい」
ここからさらに作戦を詰めたいのだろうが、諸々ヒントが無さすぎて手の施しようが無いと言った所か。当然の結果。だって相手は超が付くほどの大企業。様々な行為にリスクがあり、失敗をすれば向こうのオートマタなどが大量に雪崩れ込んでくるのは必然。
アビドスの時でもそうだった。奴らの強さはなんたってその資本力。武器、人員。その気になれば生徒だって金で雇う事さえ出来るだろう。そうなったら厄介。
「発言良いかな。サノちゃん」
「うむ」
「真っ向から喧嘩を売るのは妥当じゃないと思う。むしろ悪手。例え尋問で口を割らせて情報を握れたとしても、尋問をしたという事実の方がデメリットが大きい」
「ですが、メリットとして先手を打てます。先に情報を握ってそれをどこかの機関に売ると脅せば、重要機密になればなるほど、漏洩した情報の方が奴らにとって危険になるはず」
「奴らは平気で嘘を吐く。それに、重要機密かどうかは主観で決まる。世間にとってそれが重要でない場合、私達が得るのはカイザーからの恨みだけ。そうなれば私達の管理者であるナミさんに危害が及ぶよ」
「それは……確かにそうですね」
「だから、私から提示する条件は一つ。誰にも悟られずに潜入する。これだけ」
とても難易度が高いのは承知だ。
けど、一番気にしないといけないのはナミさんだ。自分の従業員が不祥事を起こしたと大々的に報道でもされたら、責任の皺寄せは彼女に向かう。
「しかし潜入ですかぁ。うーん……」
ホワイトボードにデカデカと潜入という文字を書くヨミ。
横にちょこんと描いた蛇がバンダナを巻いてる絵が可愛らしい。うーん、その絵を見ていると何かとてつもないインスピレーションが湧いてくる。
「潜入の定義について話し合わないといけませんわね」
カタカタとパソコンで議事録を付けていたメルが、そう言いながらヨミに目配せをした。
彼女も議題に答えるように、今度もデカデカと潜入の定義とは、と文字を入れる。
「よし、では次はこの議題だな。ではまずシロコさんから。潜入の定義についてお聞かせ願いたい」
「うん、そうだね……単純な話しで極論なんだけど、身元がバレないと言うのが大前提であるべきかな。最悪身元がバレなければ私達の痕跡なんていくら残っても良いとさえ思う」
「確かにそうですね。敵に発見される、の定義が顔と名前がバレる事であると」
「うん、身元さえバレなければ敵とドンぱちやっても構わないよ。現実的じゃ無いけどね」
次にヨミが手を挙げる。
その自信満々な態度は、私は答えは得ていますよと言う現れだ。
「ふふふ、ズバリ、潜入とは伝説の蛇であり、二つの数字を後頭部に刻んだ最強の暗殺者である事です!」
「書記、ヨミ。発言は私が許可している。勝手な――」
「敵地への単独潜入! 装備も武器も現地調達! ってのは理想だけど、現実的に考えたらそう上手くはいかないね。では理想的とは何か? この問いに答えれるのは二つの数字だけだよ」
ヨミの圧倒的な熱量に押されるサノ。
「ぬぅ、まあいい。ヨミ、その二つの数字とは?」
「ふっふっふ……それはズバリ47。フォーティーセブンだよ!!!」
「それはヨミが好きなゲームの話しじゃないか……」
「な!? サノちゃんだってのめり込んでたじゃない!!」
「まぁまぁ二人共」
手のひらでどーどーと動物を落ち着かせるように場を納める。っていうか一体何の話しをしているだろう。
「でも、作戦としては一番正しいのかもしれないですわね。潜入と一言で言いましても、遮蔽物から遮蔽物へ、監視カメラやセキュリティを潜り抜けて機密情報の入っているコンピューターにアクセスし、情報を盗むだなんて現実的じゃない。今の時代の潜入と言えばハッカーですわ」
「ハッキングねぇ。それこそ難易度が高い。私だって多少は齧ってるけど、流石にカイザーのセキュリティは堅すぎる。ヨミやメルだって熱探知やフェイク映像を流したりは出来るだろうが、セキュリティは無理だろう?」
「そうよ! そこであのハゲたエージェントの真似事が必要なの! リスクは大きいけど、外部からファイアウォールを破るよりも中に入って実物を見る方が一番じゃないのかな!?」
胸の前にある両手をグーにし、力いっぱい口をパクパクさせるヨミ。何が彼女をそこまで駆り立てるのか。