始発点から青春駅へ   作:3ご

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第二十七話

議論が白熱した為、一旦休憩時間を取ることにした。

 一言でおさらいすると「蛇かハゲか」と言う事。一ミリも話についていけないので、私はメルとローソファにゴロンとしながらモモチューブを見る事にした。

 相変わらず彼女の胸元は柔らかく、寝心地が良い。抱き枕として販売してくれないかな。

 

「これが47?」

「そうですわ。暗殺者のお話しですわね」

「ふーん……最近のゲームは映像が綺麗なんだね」

「蛇の方も良いですが、時代背景が違いますからね。やるとしたらハゲの方ですわ」

「確かに。でもそれなら衣装をどこで手に入れるかっていう話になるよね。敵地で敵を気絶させて服を奪って変装する……。これもゲームだから出来る芸当」

「スーツに赤のネクタイならご用意は出来ますが、一発で見抜かれますわね」

 

 見つからないのではなく、認知されない。正体不明と言うのが最適解。

 そうすれば、必然的にどこかの誰かに成り代わるのが良い選択だろう。

 この施設は、本当にあのお賽銭箱の昇降機以外に出入り口はないのだろうか。

 

「ヨミ、グラフィックスは適当で良い。とにかく立体的にレンダリングさえ出来れば説明は付きやすい」

「おっけー。スケール値も合わせる? フレームレートは可変と固定どっちがいい?」

「フレームレートは60固定、スケールも当然合わせてくれ。カメラは人体オブジェクトの目線の高さで、インプットキーは矢印キーで速度は時速4kmを0.1基準として設定してくれ。実際に移動する時間も計算しなきゃだしな」

「りょーかいっ!」

 

 むむ、何だか難しい事をしている。

 私はその辺ちんぷんかんだから黙ってモモチューブを見ているとしよう。

 

「あ、そうですわ。先日とても美味しい茶葉を仕入れましたのよ。まだ寝る時間でもないですし、一杯飲まれまして?」

「うん、飲む。飲みたい。私も手伝うね」

 

 メルの胸元から離れるのは名残惜しいが、美味しい茶葉となれば話しは別だ。きっと彼女の事だからプラスして絶品なお茶菓子も用意しているのだろう。

 二人してキッチンに移動し、私はヤカンに水を入れ、コンロに火を灯す。普段そこまで使う事もないからか、煤の後もなくピカピカだ。

 やはり彼女は冷蔵庫からこれまた高そうな箱を取り出す。私は聞き逃さなかったよ。部屋に入って来た時冷蔵庫お借りしますねと言う言葉をね。この時を待っていたんだ。でも、わざわざ冷蔵庫の中を漁り、今日のお茶菓子は何かなー! とかそんなはしたない行動なんて出来ない。

 

「ふふ、シロコさん獣耳がピクピクしてますわよ。安心してください、前回と同じお店のですから」

「う! ……この耳めぇ」

「本当は一介の学生では高くて買えないのですけど、最近家元が私に甘くて。素敵なお友達にと言ったらお店ごと買収されましたからね。びっくりです」

 

 流石はクローバーグループ。規模が違い過ぎる。

 

「まぁ元々経営が危ういお店でしたから、丁度良かったのですわ」

「それはそれは……ありがたく食べさせて頂く。前回はあまりの美味しさに気絶しそうになったから」

「それ、お店でも問題になった事があるのですよ? お客さんが口に入れて舌で濃厚に味わった後、次々に気絶する事からあの店はやばいって口コミだけが先行しましてね」

「次々に気絶……ふぅん」

 

 ふと、頭の中に降りてきたアイデア。

 これほど美味しいお菓子なら、人を気絶させられる。

 

「シロコさん? お湯沸きましたよ?」

「ん、ごめん。確か95度だからすぐ淹れなきゃね。その後蒸らすと」

 

ーー

ーー

 

「よし、準備完了だ」

 

 サノがそう言ってもう一度プロジェクターを起動させると、そこに映ったのは真四角で埋め尽くされた空間。モードを切り替えるとそれぞれ色味が変わり、立体的に映る。

 

「内部を想定した3Dモデル空間だよ。サノちゃんの図面を元にぱぱっと制作してみたの! んで、矢印キーを押すとーー」

 

 画面の空間が移動する。前後左右、均等の速度で動き、障害物はすり抜ける事が出来ずに止まる。

 この画面は何と無く見たことがある。確かFPSゲームだ。

 

「おお! すごいすごい!」

「ふふん、伊達に部屋に篭ってはいないんだな! ま、サノちゃんの図面が良かったのもあるけどね」

 

 誇らしげに鼻を鳴らすヨミ。

 どんなもんだいっ!と腰に手を当て、メルが持ってきたお茶菓子を一口ぱくり。ゴクリと喉を鳴らした瞬間、恍惚とした表情で後ろに倒れそうになるのを私が受け止める。

 なんて危ない兵器なんだ。このマカロンみたいな可愛らしい見た目から想像が付かない威力。乙女だろうが大の大人だろうが関係無い。柑橘系の香りと砂糖の甘みが絶妙にマッチし、意識を切断するのだ。

 

「おい、紅茶は良いがそのお菓子は会議が終わってからにしよう。全滅するぞ」

「ふわぁ!? このマカロンもどき……前よりさらに威力増したね」

 

 全滅。そうだ、私達はここで終わる訳にはいかない。まだ始まってもいないのだから。

 

「では会議の続きだ。この様に、施設は平坦な通路になっている。その中に様々なブースがあり、従業員はそこで働いてるという訳だ。そして見ての通り、潜入前提で考えると隠れる所も少ないし、至る所に監視カメラが設置してある。尚且つ、外部のファイアウォールから操作する事も難しい」

 

 シンプルな構造だからこそ、死角が少ない。

 まるで研究所みたいだ。

 

「そこでまた案を募ろう。命題は一つ``どうやって中に入り込むか``だ。では各自、発言を求める」

 

 構造を見る限り、一見どこにも穴が無さそうに見えるが、そこで人が生活をしているという事実。

 もしロボットや自立型のAIだけの環境であれば堅牢な砦だが、人がいれば話は別だ。

 

「ヨミちゃん、この画面キッチンまで移動出来る?」

「へ? はい、行けますよ」

 

 画面が動き、恐らく食堂である部屋までたどり着いた。

 コンロ、シンク。大雑把にモデルが置いてあるが、間違いは無いだろう。

 

「ねぇ皆、この食糧って、どこから運ばれているのかな」

「どこって……確かに。ヨミ、解析は出来そうか?」

「ぅぅ、流石に無理かも」

「流石にあのお賽銭箱の昇降機からは無理ですわね。ということは、別の入り口がある……?」

「だと思う。人は食べないと生きていけないからね。ここまでの大きな施設になると、生活する為の居住区があるはず。そして居住区があるのなら、水やガス、電気。衣食住に必要な物が全て揃えられているはず。という事は、それを入れる為の大きな穴があるのは自明の理」

 

 下水道、換気扇。

 完全に密閉された地下空間など存在しない。どこかで地上に繋がってる筈。

 

「なるほど、業者ですか。確かに業者になりすませば身元も割れずに中に潜入出来るかもしれません」

「うん、私はそれが一番賢明な判断だと思う。中のセキュリティをどうするか課題があるけど、ルートを割り出さない事にはね」

「ですわね。ヨミ、中にはどれくらいの人が働かれているのかしら?」

「スキャン結果だから正確じゃ無いけど、ざっと200人くらいかな」

 

 十分な人数だ。

 それだけの人がいれば、どうやって食料品や衣料品を入れているかは想像が付く。

 まさか人力な訳はない。貨物用ドローンか、大型のトラックかだ。

 

「……仕入れしている業者。いや、業者じゃない可能性もある」

「サノちゃんの言う通り、業者じゃないかもしれない。けど、そう遠くない所から仕入れをしているはず。まずはそこを探さないとね」

 

 そういえば。

 と、メルの顔がハッとした表情になる。

 

「……私、聞いた事がありますの。えっと、シロコさん商店街のスーパーよく行かれますよね? あそこは会社名こそ違いますが、背後にいるのはカイザーコーポレーションですの。どうしてあんな辺鄙な所にカイザーはスーパーを建てたのだろうと疑問に思いましたが、今のではっきり合点が行きました」

「あのスーパーが……つまり、食料を目立たなく内密に運ぶため?」

「そう言うことになりますわね。確証は持てませんが、怪しいのは事実。調べてみる価値はありますわ」

 

 

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