始発点から青春駅へ   作:3ご

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第二十八話

「シロコちゃん、この書類の山手伝ってくれる?」

「任せて。意外と事務作業得意なの」

「へぇ、本当に意外。あなたみたいな子は大人しく椅子に座るなんて苦手な筈なのにね」

「うう、そんな事ないもん!」

 

 午後昼下がり。

 昼食の牛丼を食した後、私はナミさんに事務室へと呼ばれた。

 現場に立つのは他のヘルプに任せて、私は一緒に選手の登録作業を行なって欲しいとのこと。

 彼女がこの様な仕事を振り分けてくるのはとても珍しい。

 もしかして私がそこまで馬鹿じゃない事に気づいたのだろうか? だとしたら僥倖だ。今までは学が無い所ばかり見られてしまっていたから評価も低かったけど、ここいらで実は案外ITも齧ってるんだぞとアピール出来る。

 

「役に立てる所を見せないと」

 

 鼻の息を深く吐き、目の前のディスプレイに集中する。

 各学校の生徒名簿の中からプロフィールを抽出し、応募した生徒が実在するのかを照合する作業だ。

 このような作業はささっと専門家にシステムを作ってもらい、楽をするのが定石だが、前回のロードレースで不正参加が発覚した事からこの作業だけ手作業になってしまったらしい。

 プラス、ナミさんはキャンセル料もガッツリ取る為の個人情報収集も兼ね合いしているそうだ。何とその割合80%。出ないと損をする。

 

「じゃあシロコちゃんはトリニティからお願い。今回はゲヘナ、百鬼夜行と3校からしか生徒は出さないから割とすぐ終わるわ。張り切って行きましょう」

「うん、この私に任せて! 狼の様に俊足で終わらせるね!」

 

 パソコンをかちゃかちゃするのは結構得意だ。何たって銀行強盗の計画書を作成するのにハマっていた時期に、それなりに勉強したから。

 それに、今は別のチャンスに恵まれた。待てば海路の日和ありとはこのことかな。

 あの三人と共に過ごす事が多かったから中々調べる時間が取れなかったし、実際どうしようかと頭を回転させていた。

 

 ──黒野リア。

 

 トリニティの制服、白に近い銀髪の少女。

 星空と電車と駅。そして、カイロスという謎の敵。

 調べなければならない事は沢山ある。

 

「ナミさん、ファイルは適当に分かりやすい名前で勝手に作っていいの?」

「それでお願い。あ、階層で50音順に分けてくれると助かるかも」

「りょーかい!」

 

 先日電気屋さんで買ってきたUSBメモリをこっそりと差し込む。

 お値段五千円もしたが、バージョン5.0の優れ物。転送速度は100Gbpsときっと私より早い。

 刺して……10……50……100! 完了だ。これでトリニティの全生徒の名簿はこのメモリの中。というかこうやって個人情報は漏れていくんだなと……恐ろしい。

 

「かちゃちゃ、かちゃちゃちゃちゃ!!」

「おお、シロコちゃんタイピング早いね。意外だわ。もし一本指打法とかだったらどうしようかと考えていたけど、心配なさそうね」

「かちゃちゃちゃ怒! かちゃかちゃかちゃちゃ? かかかターンっっっ!」

「エンターキー壊れるじゃない。もっと大事に扱いなさい」

「かちゃちゃ……」

 

ーー

ーー

 

 そんなこんなで2時間後。

 やはり普段事務作業をしていないせいか、全身が凝り固まってる感覚が支配してきた。

 両手を組み外側に向け、首の上の方にと結んだ手を思いっきり伸ばし、頭の角度を左右に振る。ナミさんは普段の業務が終わった後、こんな作業を毎日行っていたのかと思うと、尊敬の眼差しが生まれてくる。

 

「ナミさん、トリニティは終わったよ。次は?」

「うん? そうねー……今日も練習があるでしょ? もう上がって良いわよ」

 

 彼女は視線を外さず、声だけの意識を私に向け、返事をする。

 確かに練習もあるし、あのカイザーのスーパーを調べるという約束もあるけど。

 

「ナミさん、私もっと役に立ちたいな」

「あら? 嬉しい事言ってくれるじゃない」

 

 最近は仕事上の付き合いしかしていない。私はナミさんが大好きだから、最近のナミさんの疲れ具合には敏感だ。彼女は時折深いため息を吐く時がある。瞬時にいつもの彼女に戻るが、私はその一瞬の弱さを見逃さない。

 空になったティーカップに暖かいお茶を注ぎ、ナッツ系の甘味を数粒追加し、いつも頼まれる肩揉みの位置まで移動し手を添える。

 ヨミにマッサージの極意を学んでからというもの、早くナミさんの披露したいと考えていたのだ。

 摩擦に強い特性のゴム手袋を装着。親指の所は粒々の突起が入った優れもの。刺激は何倍にもなる。

 ヨミのやり方は少し違ってくる。彼女はいきなり指圧をするのではなく、最初はふわりと手を添えてなぞるだけなのだ。それで部分の感度を上げ、繊細になった所でグッと力を込めると、極上の声が漏れるとか何とか。

 ……あれ? これえっちでは? 死刑にされるかも。

 

「ふ、その手つきはヨミね。私には分かるわ」

「な!? ……流石社長」

「どう? あの三人とは仲良くなれた?」

「仲良くなれたも何も、もう毎日ずっとべったりだよ。私、あの子達好き。面白くて楽しくて……優しい」

「そう、良かった。私も心配だったのよ? シロコちゃんって一見孤独が好きそうなタイプに見えるから」

「……私は、多分一人はダメ」

「ほほう、それなら私もこっそりベッドの横に行こうかしら?」

「むぅ……ただでさえ三人の抱き枕にされてるのに、四人目は暑くて寝られないよ」

「何ー!? く……あいつらだけ良い思いしやがって!」

「ナミさんって、あの三人と昔から知り合いなの? 他のヘルプさんとは距離感が違うし、何だか扱いに慣れてるっていうか」

 

 いつもなら即話しを返す彼女が、この質問だけ妙に長い沈黙を語り続けた。顔は俯いたままで、視線は変わらない。

 私の知らない彼女達の記憶があるのだろうか。上手く聞けず、無理やり別の話題に変えてみる。

 どうしてだろう。ナミさん含めた四人は、私と話をする時にたまに虚空を見つめる。

 

「シロコちゃん。ありがとう、気持ちよかったわ。またお願いね」

 

 私の返事を待たず、ディスプレイに集中するナミさん。

 いつもなら欲を無理やり断ち切る為に仕事に集中するナミさん。けど、この時は少しだけ変な印象を受けた。

 まるで、後ろを振り返りたく無いような。

 必死に何かに蓋をするような。

 

 




いつも大体2万字から3万字くらい書き溜めをしているのでもっと出せますが、精査すると結構消えるのですよね。
うーん、執筆って難しい。
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