始発点から青春駅へ   作:3ご

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第三十一話

 時刻は深夜1時。

 場所は西海岸から少し距離のある、大口神社近くの山。

 凛々とした虫の鳴き声を身体中に添えながらぐるぐると螺旋道路を上り切ると、そこには有刺鉄線を上部に構えたフェンスが張り巡らされていた。

 鬱蒼とした山々の中に目立つ、人工的な施設。遠目から見ると小さく見えていた塔。が、近くで見るとこんなにも大きい。首を傾けないと先端が見えない。

 

 そういえば、こんな施設に来るのは初めてかも?

 今までの記憶を掘り起こしてみても、やはり0だ。

 とりあえず、現場に到着したので一旦ロードバイクを隠す場所を探す。脇の所に丁度良い膨らんだ路肩があったので、そこのガードレールを超えた所に置く事にした。

 

 ーー関係者以外立ち入り禁止。

 

 そう書かれてある警告版は無視し、フェンスの奥の景色に目を配る。

 流石の警備ロボット達もお眠い時間だろうと勝手な妄想をしてみたが、彼らには睡眠という概念もシステムもないので、今日も立派に業務を運行中だ。

 同じ所をぐるぐる回る者、地面に生えてる雑草にライトを当て首を傾げている者、DJの真似事をして手をキュッキュと動かしている者と様々だ。あれ、バグってない? 警備とは?

 

「目標地点に到着。次の指令を待つ。オーバー」

 

 ヨミの元気の良い声はしっかりとサノに届いたのか、間髪入れずに返事が来る。

 

「了解。次の指令までまだ時間はある。せいぜい束の間のバカンスを楽しむがいい」

 

 それっぽい返事を返すサノはきっとノリに乗ってるノリノリなのだろう。こんな所でどんなバカンスを楽しめば良いのか。

 そもそも覆面をしているからとても暑い。顔の中が蒸れる。まさかのサノがとっておきの秘策と言っていたのがこれだとは、私達は何かの運命で結ばれているのかもしれない。

 

「へ、バカンスだとよ。笑っちまうぜ。これから地獄の任務の幕開けだってのによぉふひひ、ふひひひひひ」

 

 折角の覆面の口部分を捲り、映画で見るようなそれっぽいジャーキーを食いちぎるヨミ。スキットルに詰め込んだ烏龍茶をグビリグビリと飲み干すその姿は、まさに小物と悪党と言っても過言じゃない。私にも一口くれないかな。

 

「へへ、でもよ、これが終われば俺たちゃぁ大金持ちですわぁ! んなればこんな稼業さっさと足を洗ってですわぁ、平穏に過ごすのも悪かねぇですわぁ!」

 

 折角の覆面の口部分を捲り、くちゃりくちゃりとガムを噛み始めるメル。ゲヘヘあははははとお下品な笑いを捻り出すが、語尾にですわぁと付けるせいで全ては台無しだ。

 そして手持ちぶたさの私に気を利かせたのか、腰に据えてあるスキットルを私に目掛けて投げる。オメェもいっぱいやんねーかですわぁだそうだ。

 とりあえずスキットルの蓋を開け、匂いを嗅ぐ。これは……アップルティーだ。洒落てるね。

 

「ああ、……ぇぇと、貰うぜ」

 

 確か、映画では一口一気に流し込む様に飲んでいた。でもそこまで口に含まず、大げさに体を上下に動かしていたはず。

 グビグビ。あ、二口飲んじゃった。

 

「へへ、良い飲みっぷりじゃねぇか新入り! 名前はなんて言うんだぁ? そっかシロコって言うのか。舐めたくなる名前してるじゃねぇか!」

「新入りはにはちーっと荷が思いですわぁかもしれねぇが、おれたちに付いてくれば楽勝。あと間接キスですわぁ」

 

 スキットルを投げ返し、装備の点検を行う。

 手元には久しぶりに所持したアサルトライフル。懐には閃光手榴弾と電子基盤を狂わせるパルス玉、そして何と今回初めて使用するフックショットだ。

 まともに銃を扱うのは久しぶり。なまってないと良いなと思ったけど、銃身を触った瞬間、これまでの経験が頭から足の爪先までびっしりと復元される。脳内の動きと体の動きが一致する感覚。

 出来る、戦える。

 その事実だけが身体中を駆け巡る。

 

「ポテチ……食うかぁ」

 

 ジャーキーを食べ終わったヨミが今度はポテチの袋を開け、ぼりぼりと貪り始めた。

 私もすかさず横に座り、一枚取り出し口の中に放り込む。

 シンプルな塩味は道中の運動で流した汗を補填するように体に染み込み、乾いた喉はさらにアップルティーを求めてきたので、自前の水筒を開け喉に流し込む。ただの水だけど。

 

「ぼりぼり、うめぇなぁ」

「うめぇなぁですわね」

「ん、美味しい」

 

 一袋のポテチなど、乙女三人に掛かれば風前の灯火。

 空いた袋を丁寧にバッグに仕舞い、三人で夜空を見上げる。

 

「俺ぁ、この任務が終わればよ、好きな女に毛繕いしてもらいに行くんだ」

「奇遇だなぁ、俺もですぁ」

「もう一個ポテチないの?」

 

 三人仲良く体育座りをしながら、それぞれ流れ星に思いを馳せる。

 流れ星……あの時は一人だったけど、今は仲間がいる。覆面被っている歪な状況だけど、それはそれで楽しい。

 

「ポテチもう一袋あるよ? 食べます?」

「食べるー!」

「ん、私も食べる!」

 

 きゃっきゃと騒ぎ出し始めると、無線機からジジッと連絡音が入った。現実に戻される瞬間だ。

 これから私達は過酷な任務に身を投じる。遊びの時間はここまでなのだ。

 

「バカンスは楽しんだか? ではこれから任務開始だ。幸運を祈る。何、敵はただの警備ロボット。しかもそこのロボットは3世代前の遺物だ。お前らの敵では無い。では始めてくれ」

 

 了解の一声を別の現場にいるサノに送り、私達三人は改めて覆面を100%装着し、両手で銃を構える。

 隊長としてサノが遠方から指示を飛ばし、副隊長・通信兵兼任としてメルがその情報を分析し、私達の動きを進める。

 ヨミは基本ライフルマンとしての役割を与えられているが、その本質は敵を牽制するシールドマン。注意という注意を惹きつけ、敵の本陣に隙を作るのが仕事だ。

 その中で私の役割はと言うと、完全なライフルマンとしてチームの攻撃役を受け賜っている。とにかく前方にいる敵にひたすら銃弾を打ち込む役で、場合によっては後方に設置してあるミサイルを内蔵したドローンを呼び、ターゲットに向かって集中砲火するのだ。

 

「ん、皆聞いたよね? じゃあ突撃だ!!」

「腕が鳴るね〜!! 暴れるぞ〜!!」

「おほほ、この為に特注のグレネードを持ってきたのですわよ? ロボ達を一箇所に集めて爆撃してやりますわ!!」

 

 うおおおおおおおお!!

 

 虫の鳴き声が主役の夜の山道に、乙女三人の声が響き渡ろうとした瞬間。

 

「ちょっと待てえええええ!?!?!?」

 

 見えてるはずもない司令官からの壮大なツッコミが入る。

 すごいタイミングだ。彼女はもしかしてその手の神様に愛されてるのかもしれない。

 

「ねぇねぇねぇ!?隠密作戦って言ったじゃん!?見つからないようにって散々作戦で言ってたじゃん!?なんで初手から指令無視すんのさ!?殴るぞお前ら!?」

 

 捲し立てるような攻めに、私達部下は追いつくことが出来ない。

 

「んもーサノちゃんったら。ちょっとした乙女達の戯れだよんもーっ! お茶でも飲んで落ち着いて。ほらシロコさんも困った顔してるよ?」

「覆面だから見える訳ないだろ!」

「あらまぁサノったら」

「サノちゃん、大丈夫分かってるよ。これは敵に見つかってはいけない隠密作戦。私達の痕跡は一切残さず、フェンスすらも傷つけないようにっての事でのフックショット。そしてロボットの視界に入っても探知されないステルス迷彩服に、ナイトスコープ搭載のサングラスに顔を隠す覆面。ん、完璧すぎるね」

「そうです。でも声は残りますから変な声は出さないでください。間違ってもうおおおおおおおはダメです。良いですね? もう言いませんよ? あと突撃って言ってませんでしたっけ?」

 

 ヨミとメルに向かって唇の前に人差し指を立てる。

 

「ふぅ、変な汗かいた。とりあえず任務を開始してください! こっちはいつでも準備完了していますから」

 

 

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