始発点から青春駅へ   作:3ご

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本物語は、36話までお読みいただいた後にご覧になることをお勧めいたします。それまでの内容を把握していただくことで、より深く本作をお楽しみいただけます。



Spirits of the Sea(海の幽霊) 月森ヨミ

 時刻は午後九時。

 三人で浜辺の手前にある横広いベンチに座り、道中にあったコンビニで買ったラムネ味のアイスを頬張る。湿気を多分に含んだ潮風を久しぶりに浴びたからか、トリニティでの日中の日差しよりも汗の量が多い。服の内部まで滴る汗は背中にじんわりと濡れ跡を形成し、ああそう言えば夏だったなと時の流れを久しぶりに意識する。

 

「どう思った?」

 

 夜空の斜め上から来る星光が彼女の顔全体を照らすと、質問した返事が既に本人の自覚無しに表情に現れていた。目元はほんのり赤く染まり、鼻の下は乙女には似つかわしくない状況だ。ポケットにあるハンカチを握り、本人の許可なく勝手に顔に添える。久しぶりに会ったというのになんの抵抗もせずに受け入れられたのは少し嬉しかった。私とあなたはまだ親友なんだね。ほっとする。

 

「……そだね。私は……その。神様を恨むかも」

 

 心のどこかで彼女は死んでいるという事実は受け止めている。でも、また違う領域ではひょっこりと出てくるんじゃないかという甘い希望も。これからの人生でそんな奇跡に出会うはずがないと、現実を直視している部分は崩壊の一途を辿っている。

 だって、まさかあそこまでそっくりな人物がこの世にいるなんて。そしてそれを姉さんが連れてくるなんて想像もしてなかった。写真だと似てるだけ……そう逃避していたのに、実際に会ってみると仕草や喋り方まで似てる。声の質は違うけど、声の出し方がまんまで彼女だったのだ。脳がバグを起こす。

 

「メルちゃんはどう?」

 

 真っ直ぐに月海を眺めている彼女の瞳から、一雫こぼれ落ちる答え。

 彼女は一番症状が重かったから、その分影響が大きいのかも。今はやっと診療を受けなくても、薬に頼らなくても生活出来る様になったというのに、これではまた症状が戻ってしまうかもしれない。

 

「大丈夫?」

 

 立ち上がると中心に居たサノが私の席まで滑り気を利かせてくれる。そしてメルを中心に移動させると、二人で彼女の背中をさすった。手元で持っているアイスは斜めに傾けられたまま動く事なく、暑さでぽたりぽたりと溶けて地面に模様を作る。「アイス溶けちゃうよ」と言葉に出しても、アイス以上の雫をポタポタと地面に落とすだけだ。

 

「重たい?」

 

 メルは多分、この中で一番自分という物に対しての罪悪感が強い。私とサノもそうだけど、そういった感受性に関してはメルが一番敏感だ。そもそもの感受性が強く、感動する映画を見せればすぐハンカチを取り出すし、逆に怖い映画を見せればトイレに行くのに同行を強制する。想像力豊かな分、自分に跳ね返ると脆い。人が悲しい顔をしていたら放って置けなく、楽しい顔をしていたら更に楽しくさせようとする。昔から変わりない。

 私は彼女の優しさが大好きだ。

 

「ううん……大丈夫。ただ──……応えますわね」

「だよね。私も」

 

 背中をさする手を止めたサノは立ち上がり、ガードレールに手を乗せると夜空の奥にある月に頭を傾ける。風が吹くと彼女の少し伸びた髪が靡き、加えていたアイスを一気に口の中に放り込んだ。

 

「練習は明後日からだよな?」

「うん。道具は持ってる? 捨ててないよね?」

「当然だろ。最近ペンティングシューズも買い替えたんだ。ペダルだって新調したし、ライトだって内蔵バッテリーを入れ替えた」

「準備いいですわね」

 

 鼻を啜り、絞った嗚咽が端々に混じりながら声を出す。

 

「メルから写真を見せて貰った時から覚悟は決めていたよ。それに……まぁそのなんだ。お前達とも会いたかったし。なんでもかんでもマイナスに捉えるよりはいいだろ? それにあの人の名前は砂狼シロコって名前なんだ。……別人なんだから、一緒にしちゃダメさ」

「そうだね。本人は何も知らないだろうし、下手に変な目で見たら可哀想だよね……。私達の見る亡霊を投影しちゃダメなんだよ。うん……ダメ、なんだ」

「そうは言いますが……」

 

 サノが振り返り、メルの手に持っているハンカチを取り上げ、再び彼女の口元に添える。

 きっとサノも理解しているんだ。自分の気持ちに嘘を吐いてると言うことを。

 

「メル、とりあえず知っていかないか? きっと彼女を知れば知る程ミコトの影は薄くなっていくと思うんだ。勿論、簡単じゃないだろう」

「もし……影が濃くなれば」

「その時は……一緒に夢を見よう。大丈夫、私達は三人いるんだ。 三人いれば不安はない。そうだろ?」

 

 ウルフ小隊の結成時。

 SRT特殊学園の訓練がきつすぎて泣き言を言っていた私達にこうして説得して励ましてくれたのもサノだ。

 大丈夫。きっと出来る。失敗してもへこたれるな。

 彼女の言葉はどうしてかいつも説得力があって、私とメル、ミコトは奮起させられていた。それはきっと、幼少の頃からの積み重ね。

 四人で初めて遠出をした時、四人で初めてロードレースに参加した時、四人だけで夜戦を繰り広げ、数々の任務をこなした時。

 劇的なドラマがある訳でもなく、深い葛藤も無い。一緒に過ごした一つ一つの思い出が、彼女の言葉に魂を乗せている。それはしばらく離れてからも相変わらずで、また一つ彼女に対しての「好き」を見つける事が出来た。

 

 私は──。

 私は……二人の事が大好きだ。

 だから夢も一緒に見るし、楽しい事があれば共に過ごしたい。

 私達は、将来どんな結末を迎えるのかな? 卒業しても一緒にいるかな? それとも急に未来に向かって走り出して、バラバラになっちゃったりするのかな?

 

 漣が耳を包む。

 海の幽霊は今日も綺麗で、彼女が好きだった水面を作り上げる。

 新しく出会った彼女も、私達と夢を見てくれる人であると……いいな。

 

 

 

 

 

 

 

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