始発点から青春駅へ   作:3ご

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第三十七話

「ん!! んん!! これよりカイザーの基地に潜入する前に持ち物検査を行う!! ではまずサノちゃん前へっ!」

「はい!! 私はスマホと銃、そして500mlのお茶が一つ、そして小型PCが一つです!!」

 

「良い、良いよサノちゃん! 走り出しは完璧だ!! では次にヨミちゃん前へ!!」

「ふひひ! 私は麻酔銃とハンドガン、そしてスマホ!! ついでにお茶を入れたスキレットと水筒です!!」

 

「良い、良いよヨミちゃん。実は一番心配してたけど、余計な物はスキレットだけだったね! じゃあそれは戻してこよっか!! では最後にメルちゃん前へ!」

「おほほぉっ! 私は気絶マカロンと水筒一杯に入った紅茶、そして麻酔銃と制圧用のハンドガンですわ!!!」

 

「よろしいっ! 最大にして最終兵器、気絶マカロンさえあればどんなラスボスだろうと乗り越えられるね!! ピンチになれば仮死状態になれる優れ物!」

 

 一見、ピクニックに行く学生集団に見えるだろう。

 だが侮るなかれ。このマカロンと紅茶の組み合わせはあのティーパーティーでさえ恐れ慄く核兵器だ。ヘイローだって粉々に砕け散る。

 

「ふ、完璧すぎるね。じゃあ手筈通りに動こう。まずはトラックだけど、中の従業員は麻酔銃で眠らしてスーパーのレジの上に寝かせる。サノちゃんサイバーセキュリティの状態はどう?」

 

 深夜1時。

 私達はチキチキカイザー(以下略)作戦を実行させるべく、目的地であるカイザースーパーまで足を運んでいた。

 中にいる物資を運ぶ業者の制服に身を包んだ私達は、どこからどう見ても深夜に働かせられている大人に見えるだろう。

 

「シロコさん、こちらはバッチリです」

「じゃあ早速……作戦を開始する。諸君、所定の位置で待機。サノちゃんは熱探知で常に私をモニタリング。セキュリティを解除してもらおう」

 

 スーパーの裏口の扉。

 その横にはカイザーセキュリティのマークがあり、扉の上部には監視カメラが備え付けられている。

 普通なら私の姿が映っているだろうが、今はダミー映像を録画させており、私自身は透明人間と同じだ。

 

「セキュリティ解除」

 

 インカムから流れてくるサノの声に呼応するようにドアノブに手を掛け、ゆっくりと時計回りに回転させる。

 鈍い音と共にドアが開かれると、そこには細長い通路。明かりは非常灯だけで、脇には様々なダンボールが積まれている。

 

「中に入った。これより目的の地下室へと移動する。ルートを再確認、情報を求む」

「了解。鮮度コーナーを右に曲がり、従業員扉を抜け、そこから右に真っ直ぐ歩くとオーナー室がある。そのオーナー室の中の机の一番目の引き出しを引くと、キーボードが出現する。まずはそこまで移動せよ」

 

 従業員通路を抜けると、そこにはいつものスーパーの売り場が広がっていた。

 レジと売り場が一直線に並び、その手前には大量の買い物かご。詰め台を越えた先にはいくつかベンチが並んでおり、誰かが忘れていったのか、袋に入ったキャンディが数個置き去りにされていた。

 それはまるで、唐突に人類がいなくなった世界のような突発的な静けさ。

 明かりが無いだけでこうも印象が変わるとは。まるでホラー映画の舞台。

 

 こつりこつりと、自分の足音だけがこだまする。飲み物コーナーから聞こえてくる冷蔵機のノイズ音と、電球が切れそうになってるカチカチ音がする非常灯。

 どこかから吹いてるのか、隙間風が窓を震わせ、中にいる私に警告を出しているみたいだ。

 良く言えば、童心に帰る恐怖がある。

 

「熱探知異常なし。速度を保ち目的地まで移動しても大丈夫です。ですが、常に麻酔銃は目線の先に置いといてください」

 

 彼女の言う通り、早足で目的地の鮮度コーナーまで歩き抜く。

 右に振り向きながら近くのワゴンの影に隠れ、従業員扉までの道のりに視線を送り、状況を確認。

 

「問題無し。人も居ない」

「シロコさんの聴覚での判断なら間違い無いでしょう。オーナー室まで走り抜いてください」

 

 中腰のまま、鮮度コーナーの裏側にある従業員通路まで走り抜く。

 もしかしたらがあってはいけないと思い慎重に移動したが、杞憂に終わりそうだ。

 ただ、一つだけ疑問が残る。警備ロボットすら居ないのは……いや、今は任務に集中しよう。

 

「外も異常無しですわ」

「ま、こんな時間にほっつき歩いている人なんて酔っぱらった人くらいだからね」

 

 外で待機しているメルとヨミの呑気な会話を聞いてると、変な緊張感が和らいでくる。

 もし彼女達が本当にSRT特殊学園の生徒なら、たかだかスーパーに潜入するくらいで気張ったりしないだろう。

 

 壁沿いを走り抜き、目的のオーナー室まで辿り着いた。

 ドアノブに手を掛けたが、勿論鍵は閉まっている。

 

「シロコさん、その横にパスコードを入力するキーパッドがありますよね?」

「うん、ある」

「そのキーパッドに渡したスプレーを噴射してみてください」

「了解!」

 

 サイドバックの中に忍ばせてある小型のスプレーを取り出し、言われた通りに噴射。

 これは簡単に言うと指紋を可視化させる為の液体が入っているスプレーだ。こんなアナログに近いキーパッド、下手に初めから解析するよりも、押してある数字を特定してから解析すれば時間は十分の一まで時間を短縮出来る。

 

「シュー……っと」

「ふひひ、声に出す所が可愛らしいですね」

「こらヨミ、シロコさんは真剣なんだ。バカにはしてはいけないぞ」

「サノの発言の方がよっぽどですわよ」

 

 誰に見られてる訳でもないが、恐らく私は赤面している。

 

「……色が出てきた。あれ? でも一箇所しか出てこない」

「ふむ、どの数字ですか?」

「えっと、0だね」

「……まさか、いや、勘はダメだな。では吸盤をキーパッドに付けてください」

 

 これも任務前に渡された装備の一つ。

 吸盤を機械に取り付け、その先のケーブルを私のスマホに取り付けるとあら不思議、遠隔で操作しているサノがその機械を操作出来るようになるのだ。

 どんな技術かは分からないが、流石はミレニアムの生徒。

 

「では、解析を始めます。恐らく3分は掛かりますから、その間地獄のバカンスでも過ごし──ってもう終わった!? ……つ」

「流石はサノちゃんだね。で、パスコードは?」

「……0が四つです」

 

 言われた通りにピピピピと数字を入力すると、カシャン鍵が開く音が響いた。

 どきりと心臓を跳ねさせ、中へと入る。

 当然、中は真っ暗だ。しかも非常灯も無し。

 腰に据えてあるミニライトを片手に持ち、灯りを照らす。

 応接室のように大きなソファが二つあり、その間には重そうなガラスのテーブルが一つ。その上には二つのショットグラスとウイスキーの瓶が置かれていた。

 

「入った。次は……引き出しだね」

 

 ソファの奥にある机に向かい、内側にある引き出しを引くと、そこにはサノの言っていた通りキーボードが埋め込まれていた。

 

「シロコさん、同じように吸盤を貼り付けてください」

「了解」

 

 言われた通り、キーボードの側面に吸盤を貼る。

 

「やはり、このキーボードは一種のパソコンになってるみたいですね。脆弱なセキュリティですが、コントロール用のOSが入ってます」

「時間掛かりそう?」

「2分あれば出来ます。とりあえず用意したソフトを走らせますね」

 

 スマホをキーボードの近くに置き、辺りを見回す。

 不審な点は見当たらない。一つあるとすれば、空いたグラスにウイスキーの瓶。一応ここは職場の筈だけど、酒盛りでもしていたのだろうか。

 

「えっと、不審と言えば不審なんだけど……ウイスキーの瓶が置いてある」

「大人が仕事中にお酒飲んでたの? ふーん、悪いやつもいるもんですね」

「銘柄はどんなのですの?」

「ザキヤマ55年って書いてある」

「ザキヤマ……55年ですって!? それ、一部界隈でとても有名になったお酒ですのよ。なんでも3000万はくだらないものだとか」

「それを平気で飲むスーパーのオーナー……いや、違うね。きっと背後にいる奴ら。やっぱりここは当たりだよ」

 

 接待でもしていたのだろうか。

 大人の世界はとにかくお金が掛かるとは聞いたけど。

 

「シロコさん、パスワード解析完了です。今から私が言う単語をローマ字で入力してください」

 

 流石仕事の早いサノちゃんだ。

 言われた通りにキーボードの前に移動する。

 

「いいよサノちゃん。じゃあお願い」

「ンァー!モモイノマクラデカスギデスー!」

「え?あ、ご、ごめんもう一回いい?」

「ンァー!モモイノマクラデカスギデスー!

「……っと、ンァー!モモイノマクラデカスギデスー!」

 

 

 

 

 

 

 

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