始発点から青春駅へ   作:3ご

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第三十八話

 キーボードにパスコードを打ち込むと、壁の向こうから鈍めな引きずるような音が聞こえてきた。

 サノがブリーフィンング時に話した通り、一つの仕掛けが作動したようだ。

 

「シロコさん、第一目標はクリアしました。そこからは今まで以上に警戒を怠らないようにしてください。どうしても接触するようでしたら武力で無力化しても良いですが、あくまで最終手段です」

「了解。でも、トラックドライバーさん達は眠らせるんだよね?」

「はい、あくまでもその業者だけです。もし万が一、一般人が巻き込まれたとしても関わらないようにしてください。とにかく姿を見られないこと。いいですね?」

 

 む、これはきっと「あなたはあくまで素人なので、下手な行動は控えてくださいね」という言葉を遠回しに言っているのだろう。

 なにをー! 私だってそれくらい……いや、電波塔の事もあるし、何も言い訳出来ないのが事実。

 そうだ!! この任務は私が如何に優秀であるかを見せしめる良いチャンスじゃないか。

 今まで情けない先輩の姿しか見られてなかったから庇護の対象なんだろうけど、ここでドンちゃんドンドン!と手が付けられないほどの暴れっぷりを出せば──。

 

 ーシロコさ──いや、シロコ先輩と呼ばせてください。

 ーあらやだシロコさ──シロコ様……は仰々しいかしら?

 ーふひひ、先・輩♡ 今日は私とペロロジラの映画でも観ませんか?

 

 ってなるに違いない。

 ふふ、答えは得た。

 

「アルファ1了解。これより施設入り口のトンネルまで移動する。援護を頼む」

「アルファ2了解ですわ!」

「ふひひ、アルファ3了解です!

「アルファなんてコールサイン決めてませんよ。大丈夫です。そこまで警戒しなくても秘匿回線を使用しているので無線が傍受される事はありません」

「……はーぃ」

 

 サノの厳しい声を脳内に入れ、売場の中央まで足を運ぶ。

 道中、灯っていなかった警告灯が真っ赤に点灯していることから、どうやらこのスーパー自体に仕込まれているシステムみたいだ。

 

「サノちゃん、このシステムは把握してる?」

「ええ、大丈夫です。が、警備ロボットが出てこないとも限りません。一応電波塔の装備を流用しているので、視界に入っても発見はされませんが、声にだけは気をつけてください」

 

 すると、無線のノイズ音がいくつか鳴り、ヨミの声が流れ始めた。

 

「不審を感じたのか、トラックドライバーが三人出てきました。制圧しますか? シロコさん所定の位置まで移動出来てます?」

「残り20秒で到着する。二人はもう店まで入ってる?」

「ええ、売場手前のバックヤードで待機しています」

「了解、急ぐ」

 

 中腰で歩行速度を上げ、売場の鮮度コーナーの逆側へと進む。

 レジを超えたベンチの間に、不自然に広げられたスペース。他のスーパーなら什器を置くだろうが、ここは置かずに敢えて空きを作っていた。

 今まで疑問にも思わなかったが、こうして考えてみるととても不自然。

 

「到着。三人が辺りを見回してるね。手筈通りにやろう」

 

 向かい側にいるメルが手を上げ、2秒かけてゆっくり腕を下す。

 その間に五秒間、私は手に構えてある麻酔銃をしっかりに握り込み、照準をドライバーに向けた。

 手触もなし。息を大きく吸い込み、止める。

 3、2、1──。

 トリガーを引き、小さな注射針はサイレンサーを通りぬけ、しっかりと首元に命中した。

 瞬間、三人は糸が切れたようにその場に倒れ込む。

 

「作戦成功」

「練習通りですわね」

「流石は私達! 息ぴったり!」

「ふぅ……サノちゃん。ドライバーは制圧した。運んでおく間に私達に合流して」

 

 それぞれ体を持ち上げ、指定場所のレジ台の上に仰向けに寝かせる。

 ヨミは枕が無いと可哀想だからと、奥にあったポテチの大を取り出し、ドライバーさんの頭の下に滑り込ませた。

 メルは寝起きに水が無いのは可哀想だと、またまた奥にあった500mlの水を三つ持ち出し、それぞれの顔の横に置く。レジ台狭いのに。

 コツリコツリと、サノがこちらにやってきては、二人の頭部に手刀を放つ。

 痕跡残ったらダメでしょーが。いいから戻してきなさい。とまるで保護者の様な立ち振る舞い。二人はヒーンと鼻声を出し、いじけながら売り場に商品を戻す。

 

「よし、ではここからが本番だ。にしても大きなハッチだなこれ。閉めたら中からは持ち上げれないだろう。つまり、一度入れば出られない可能性もある」

「私達は構わないけど、シロコさんは?」

「ん、ここに来て引き返す程臆病じゃないよ。行こう」

 

 ハッチの下は、まるで地下鉄の階段の様な構造で、側面に断続的なライトが取り付けられている。

 

「よし、ドライバーさんの鍵とIDカードも回収した。さっさと行こうか」

 

 サノが先陣を切り、次にヨミ、そして私が入って、最後にメルがハッチを閉めた。

 

「サノちゃん、この先はどんな構造なの?」

「はい、基本直線的な構造です。各所に小さな部屋がありますし、監視カメラは付いていますがどれも対策済み」

「ドライバーさんは他にもいらして?」

「いや、この前スキャンした限りはあの三人だけだった」

「ふひひ、早撃ちなら任せて!」

「何を言っている。ヨミは私よりも遅かっただろう」

「ぐ……! いっぱい練習したもん」

 

 任務中だと言うのに、こうも他愛も無い話をするのだから、相当手慣れていると推測。

 ヴァルキューレだって黙々とこなすはずだが、依頼主がいるかいないかの違いなのか。

 

ーー

ーー

 

「ん、このトラック?」

「ええ、それっぽいですね。他にも数台ありますが、IDカードの番号と一致しているのはこれだけでした。これに乗りましょう」

 

 荷台を確認する。

 主にダンボールの山で、中は食料と衣服……そしていくつかのいかがわしい死刑決定の本が数冊。

 

「ふひひ、これはこれは。見て!サノちゃんが好きな本だよ! あ、シロコさんには刺激が強すぎるから見ちゃダメ!」

「む、私は想像力が働かせられない本には興味が無いんだ。この本は情報量が多い。もっとだなって殴るぞヨミ。今は任務中だぞ」

「と、言うサノでありましたが、内側に宿した情欲の暖炉に焚べられた書物は燃料となり、激しく燃え盛るのでした……」

「変な事言うなメルお前も殴るぞ。全く、シロコさんからも何か言ってやってくださ──いや顔真っ赤じゃないですか。良いから戻して来てください」

 

 せっせとダンボールの中に本を直していると、メルがトラックのエンジンを掛けたのか、僅かな振動が足元から伝わってきた。

 

「でも、シロコさんの言う通りです。こういった娯楽本があると言うのなら、きっと居住区なるものがあるはず」

「二百人だっけ」

「ええ。人数が多ければ多いほど、群衆の中に紛れ込みやすくなります。到着次第、まずは居住区に行ってどうにかして服を奪いましょう」

「ねーねー、ここからおおよそ30分だよね? ラジオ流していいかな?」

「ヨミはもう少し緊張感をだな……まぁいいだろう」

「シロコさん荷台ですけど大丈夫かしら?」

「私は大丈夫。正直、ちょっとドキドキしてるし、座って落ち着きたい」

 

 近くのダンボールに腰掛けると、車が発進したのか、トラックのエンジンの音が響いた。

 

「あ、サノちゃんなんでチャンネル変えるの!?」

「この時間帯は声優さんのチャンネルが面白いんだよ。良いから聞いてみな」

「それ知ってますわ! 前回の自己紹介のくだりがツボにハマりましたわね!」

「だろうなって奴だろ? まだ2回目なのにぶっ込んだよな! 私はなんちゃっての所で吹き出したよ!」

 

 どうしてだろうか。こんな緊張した場面なのに、心のどこかで充足感が積もる。

 皆で一つの目的に向かって走る。久しぶりだ。

 ──君には青春が足りない。

 ナミさんの言葉は的を得ていたのかも。

 

 

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