「うーいお疲れ。……ってあれ? 今日は担当変わったのか?」
「ああ、あいつら急に高級なスイーツを食べに行くって言ってさ、私達に当番を変わって欲しいってせがって来たんだ。ほんと、困った奴らだよ全く」
サノがいかにもなノリで機転を効かせ、お堅そうな軍服を着用したゲートの門番と会話に花を咲かせる。
目前で「あんな所にゲートなんてあったか!? スキャン漏れだ!!」と大慌てで私達に覆面を被るよう指示を飛ばした。
あわわあわわと慌てふためくサノはなんだか新鮮だった。
門番はゆっくりと手を振り、ゲートの目前まで私達を誘導すると、車窓を開けるように片手でジェスチャーを飛ばす。
手元にはライフル、腰には複数のマガジン。そして無線機。
荷台の隙間から確認しただけだが、少なくとも持っているライフルは最新式の装備。お金の掛け方に余念を感じる。つまり、それ程この施設が重要であると証明している。
「け、なーにがスイーツだよ。どこか夜のお店で飲んだくれてるだけだろうに。お前も苦労さんだな」
「ははは、まぁたまにはいいよ。所で、ここはあなた一人だけなのか? 随分寂しいじゃないか」
「ふ、ここはなんたって極秘施設だ。そうそう大人数で管理するものじゃないぜ。それはそうと、んまぁこの施設の決まりでな、車体をスキャンさせて貰うよ」
「あ、ああ……」
荷台に乗っている私の存在がバレてしまっても問題はないのだが、そもそも元々は三人での予定だったはず。
下手に疑念を持たれても困る。微妙で難しい判断。
「ちょいとお待ちねぇかあんちゃん!」
ヨミが出した事の無い声で門番を呼びかけ、動きを止める。
あまりの声質の変化に隣にいたメルが肩をびくんとさせていた。
「どうした?」
「へ、実はな。スイーツを食べに行くと言った三人はこれを食いに血眼になって出かけたのさ! あんちゅわぁんも一つどうだい!?」
「む、そんなに美味しいのか?」
「へ、まずは食ってみなよ」
ヨミは懐にあった一つのマカロンを門番に投げる。
勢いのある行動だったので、門番もついついそのマカロンを受け止めてしまった。相手の反射を利用する高等テクニックだ!
「なんだなんだぁ? お、良い匂いじゃねーか」
「絶品だぜぇ、へへ」
「なるほどな、じゃあ一口パクリ…………もちゃっくちゃげしゅもももくちゃらくちゃちゴクリ──ぐわあああああああ!?!? うますぎるううううううううぅぅぅぅぅうぅ……」
天高くマカロンを掲げながら、そのまま背中から地面に激突する門番。
サノが車から降り、門番の意識を確認。呼吸は問題ないようで、管理室の中にそのまま門番を運ぶ。
数分後、ゲートが警音と共に開かれ、奥は同じような直線的な道が現れた。
「ふぅ、ふぅ……変な汗でた」
「私も心臓が跳ねましたわ。ヨミの声で」
「これで大丈夫よね? 私達は門番にマカロンを食べさせただけ。門番はマカロンを勝手に食べただけ」
「ん、でも監視カメラには残ってるよね? それともサノちゃんここまで対策してる?」
「いえ、完全に想定外です。が、細かい事はいいでしょう」
あ、そこはいいんだ。
「じゃあもう一度出発ー!」
ヨミの号令の下、メルはエンジンを吹かし車体を前進させた。
彼女はなんだかとても楽しんでるように見える。
「地平線に〜届くように〜限界まで〜振り切ってくーれ〜!」
歌まで歌い始めた彼女はもう止められない。
もしかしてあれかな。緊張するとテンション上がるタイプなのか。
「ヨミったら……昔から変わりませんわね」
ーー
ーー
半円のトンネルを走り切ると、そこには引っ越し屋さんとかでよく見る発着場が広がっていた。
奥にスーツを着た人が立っており、先程と同じく手を振り誘導してくる。
「ここからの監視カメラは把握済みです。下手にダミー映像を混ぜるとバレるので、ここからは死角を利用して進みましょう」
「なるほどね! 流石サノちゃんだ! 計画的で頭脳的、私も真似しないとね。で、死角ってどこ?」
急に目を逸らすサノ。
あれ? 思ったのと反応が違う。
「いや、あの、その……上手い方法が見つからなくてですね。とりあえず到着すればなんとなかなるかなって思って……」
「一応電波ジャミング用のインナーを着てるからなんとか誤魔化せそうですけど、完全には無理ですわね」
手で誘導してくるスーツの大人の近くまで車を寄せ、とりあえず停車する。
「おお、ゲートからの連絡が無かったからびっくりしたよ。お前達は今日の予定の……? あれ? 君達新人?」
「はい、そうです新人ですわ」
「ふーむ、そんな話しは聞いてないがな。とりあえずIDカードを見せてくれたまえ。新人ならそれぞれ発行しているはずだよ」
まずい、当たり前の反応をしてくる立派な大人の人だ。
IDカードは奪ったのがあるけど、顔写真と識別する為に覆面は取らなきゃいけないし、そうすると顔を見られ……ん? 何やってるのメルちゃん? 胸ぐらを掴んで? パワーウィンドウの内側まで引っ張って? 口にマカロンを放り込んで? 頭と顎を押さえ込んで? ぐわあああああ!?って反応させて? 気絶させちゃった。マカロン恐ろしや。
確かにあの時、このマカロンを武器として使用するのはどうだろうと提案したのは私だけど、そこまで威力に信頼を置くなんて思いもしない。
もしかして……この三人危険な子達なのかも!?
「ちょちょちょメル!?」
慌てふためくサノ。
当然の反応をしてくれて安心する。
「時間が勿体無いですわ! さっさと降りて職員捕まえてマカロン食わせて……衣服を奪うわよ」
ーー
ーー
それから10分後。
私達は作業着のまま、トラックを乗り捨てて前に進む事にした。
幸い、居住区はこの近くで、辺りにはくたびれて寝息を立てる音が扉を超えて響き渡っている。中に入って服を奪おうと画策したが、鍵が掛かっていて入れなかった。当然だ。
が、中には休憩室でのんびりと仲間と談笑している大人もいたりする。当然急襲を仕掛ける。
「麻酔銃って何時間眠るの?」
「んー6時間くらいですわね」
「マカロンって何時間くらい気絶するの?」
「ふひひ、6時間くらいですね。以前何度か試しましたから」
居住区にいる職員達を麻酔銃やらマカロンやらでとっ捕まえて衣服とIDカードを奪い、猿轡を咥えさせて縛りロッカーに放り込む。
どうして布じゃなくて猿轡なのか気になったが、敢えてそこは疑問を声に出さない。
今はとても過酷な任務中だ。雑念は追い払うのが吉。
「ウッヒョー! キタキタぁ! これが本物のやり方なんだー!!」
ヨミはこのロッカーに放り込むのを一度やってみたかったと興奮しながら声を弾ませていた。好きなゲームの定番らしい。
女子生徒のやりたい事リストに「麻酔で眠らせてロッカーに人を閉じ込める」なんてのがあったら嫌すぎるが、今は過酷な任務中。雑念は追い払うべし。
「よし、目的地はまず警備室だ。監視カメラの映像を消す。そこで全体のマップも手に入るだろう」
「それからは?」
「……以前、大口神社でカイザー社員が喋ってた内容。この辺りが吹っ飛ぶかもしれないという言葉の究明です。どこにどんな仕事部屋があるかは知りませんが、司令室なるものがあるはず」
「脱出口も見つけなればいけませんわね。ここは四手に別れても?」
「いや、何かあったら一人では対処が困難だ。でも別れて行動するのは良い案。じゃあ……ヨミとメルで脱出口を、私とシロコさんで警備室を」