無事、大口神社の賽銭箱まで漕ぎ着けた私達は、以前肝試しの時の帰り道を利用する事にした。正面だとカイザーの社員に出会した時に面倒だし、サノとメルとヨミがしばらく三人だけにさせて欲しいと要望してきたからだ。彼女達は別のルートを知っていると言い、私の顔を見ずに、声だけで返事をした後、夜の深い森の中に消えていった。
一人は心細かったけど、彼女達にも事情があるし、私にも事情がある。
沢山の情報が頭の中をぐるぐる回っていて、考える時間が必要だった。
「大口ミコト……ナラム・シンの玉座。それにウルフ小隊。何も繋がる要素は無いはずだけど、こうして揃えられると嫌でも関付けなきゃいけなくなる」
大口ミコトはもう死んでいる。
以前見た資料にもそう書いてあった……ヴェアヴォルフ作戦が失敗して。
その時作戦に参加していたのがSRT特殊学園のウルフ小隊。そのウルフ小隊の隊員が、メルとサノ、ヨミと大口ミコト。
「三人が私を慕ってくれていたのって……大口ミコトに似ているからなのかな」
限りなく正解に近いと思う。
友人が死んでしまって、心も体もズタズタになって、これから前を向いていこうと考えてもそう上手くはいかない。
その友人とそっくりな人が現れたとしたら?
──もし、大切な人ともう一度逢えるなら?
私が問うてきた問題に、彼女達も直面しているのかもしれない。
もう戻らない、戻って来ないと思ってた日常。それを曲がりなりにも世界線の移動という形で叶えられたけど、普通に生きてたらそんな奇跡になんて出逢えないのだ。
その奇跡に、彼女達も出逢っていたとしたら?
私と同じ様に、縋り付いていくだろう。
ーー
ーー
家路に付き、服を脱ぎ、シャワーを済ませる。
時刻は深夜三時。明日は仕事も休みなのでゆっくり出来るはずだが、彼女達が心配で心が落ち着かない。
やはりあの時無理矢理にでも付いていけばよかったか……いや、私も私で調べ物をしないといけないのだ。
「あの施設の目的……その為に、経緯を調べないと」
誰が、いつ、何の目的で。
誰かは明確に記載がある。それはカイロスという人物だ。黒野リアから教えられた、最重要人物。
色彩に触れたのなら、私と同じでテラー化している状態と言えるだろう。通常の身体能力とは打って変わり、肉体は強化される。
パソコンを起動し、いつもの壁紙に口角を和ませた後、データを入れてあるUSBメモリを差しアプリを開いた。
サノ特製のアプリ。ファイルのセキュリティを解除し、閲覧権限を根こそぎ削除する優れ物だ。これで解除出来なければ一般人はもう諦めるしかなく、「全知」を持つ者でないと不可能と言って良いのだそう。
「じゃあ、まずはナラム・シンの玉座から」
ファイルを開き、いくつかの書類を開いたが、どれも難解な数学式が書かれているだけで重要な項目は見つからない。
要は、このシステムはこの様にすると動くかもしれないという設計図だけだ。重要な情報がどこにも書かれていなく、捜査は困難を極める。
「閲覧権限の最高レベルは……開けないか。じゃあ今現状での最高権限を開──あ、メインパソコンのデータはサノちゃんが持ってるんだった」
私が見れるのは、せいぜい警備室にあったサブパソコンのデータのみ。そこにもある程度のものは書かれてあったけど、重要な情報じゃない。
「……せめてメールの方に残ってないかな。確か全体会議とかあったはず」
基地で開いたメールアプリをもう一度開き、精査する。
どれもこれも事務的な形式メールばかりでちっともヒントは得られず、思わずため息が漏れた。
「むぅ」
その時、ピロンと電子音がスマホから流れる。
画面の中央には、モモトークアプリのアイコンとヨミからのメッセージ。投稿場所はグループトークの欄だ。
ーシロコさんへ。何も言わずにどっか行ってごめんなさい。私達、今ちょっと心の整理が追いつかない状態になってます。ロードバイク選手権までには治して戻って来ますので、それまでは放っといて貰えると嬉しいです。
ーん、大丈夫だよ。君達の安否が心配だけど、人には色々あるから。
ーはい、そう言って貰えると嬉しいです。
ーゆっくり休むといいよ。
ヨミにしては素っ気なかったけど、事が事だ。
水を一本飲んだ後、バスタオルを外して寝巻きに着替え、ベッドに入る。
朝日が微かに見える時間帯。
時間も遅いから眠いだろうと思っていたが、眼が冴える。原因は潜入作戦だ。グルグルがまだ心から離れない。
「生死は問わない……か」
彼らは、あれを使って何をしようとしているのだろう。
どうして世界線の移動に私が必要なのだろう。どこで知った?
黒野リアが言っていた言葉を思い出す。私の世界の先生が、私の中に世界線移動の残滓を残した。
──何の為に?
いくら考えても、答えは出ない。
ーー
ーー
ーー
ー
ー
「君達がウルフ小隊か。ふ、威勢の割には口ほどにもない」
「……ぐ……く、くそ。ヨミ、メル」
「無駄だ。この仮面に囚われた者は、どんなに強力な神秘を持っていたとしてもそれを上回る」
あの赤い部屋で、私達は暴れ回ろうとした。
神社のすぐ近くに常設していた銃火器をを用い、施設を丸ごと吹き飛ばそうと大きな爆弾だって用意したのに。相手は何の武器も持たず、機械式の仮面が数回光ったかと思えば、ヨミもメルも私に銃口を向け、発砲し始めた。
私達は得意不得意があるが、平均したら能力は均一。必然的に二体一では勝ち目が無い。
「やはり、ウルフ小隊は要の大口ミコトありきの存在だったのだな。彼女も彼女で君達と組まなければ力を発揮しないタイプだと資料にはあったが、まさか君達もだとはね」
軍服を着た、銀の仮面を被った偉そうな奴が、私の頭を踏みつけ捻る。
「ふむ、私は人の心を読む事は出来ないが、おおよその予想くらいなら出来る。君達はあの砂狼シロコと大口ミコトの存在を重ね合わせたのだな? 全く、愚かなでくだらない。SRT最高部隊と言われた者が……まさかごっこ遊びに興じるとはね」
「なん……だと!?」
足を払いのけ、銃を取り、ヨミを投げ飛ばす。
メルはすぐに反応し銃口を向けたが、私の追撃の蹴りが先に腹に着弾し、そのまま後方に尻餅を着く。
瞬間、ライフルの銃口をヨミに向け発砲。彼女の銃を撃ち落とし、そのまま銀の仮面に向かって走り抜く。
「お前に──何が分かる!!!!」
外さない様にゼロ距離まで近づき、トリガーを引こうとした瞬間。パチンと急に一瞬だけ意識が途切れた。
「うっ……なっ、おぇ」
白い画面が、視界を塞ぐ。
パチンパチンと思い出したくない光景がフラッシュバックするように現れると、口の中から胃液の味がし、その場にしゃがみ込んでしまった。
「貴様、何を……」
「やっと効いてきたか。ふ、君が持つトラウマを思い出させてあげたんだ。そう遠慮しなくても良い。砂狼シロコとの生活でかなり薄れて来たのだろう?」
ヨミとメルに両肩を抑えられると、銀の仮面は徐に髪を掴み、私の顔に自身の仮面を近づける。
「何、私の支配下に置かれるまでの辛抱だ。その代わり……故人に逢わせてやろう」
「な、嫌……嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!!! 見たくない、見せないで──」