始発点から青春駅へ   作:3ご

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第四十三話

 カイザーの基地に潜入してから数日。

 今日の天気は快晴で、カラッとした暑さが額に汗を滲ませる。朝はいつも気温が低めで、潮風に髪を靡かせながらロードバイクに跨って職場に向かっていると、なんだ夏なんて大した事ないじゃないかと楽観的な気持ちで仕事に入れるから気分はいつも新鮮で清涼。

 が、これがまたお昼になると話は別だ。人間は住む惑星を間違えたのではないかと脳裏に過ぎる程の灼熱。地面の照り返しも強く、アスファルトなんて素材を起用した人物の罪を考えながら、いつも通り決められた時間に店舗前を箒で掃く。

 

「水が無いと死んじゃうね」

 

 不幸にも、冷蔵庫は店舗休憩室の中。そこまでの道のりを考えると、指定された作業を時間内に終わらせる事が出来ず、ゲームオーバー。

 ゲームオーバーとは、ナミさんの表情が「ふーん終わらなかったんだ。別にいいけど」と無関心を装う目つきで私に視線を向ける状態になる事だ。こうなってしまえばその日一日は大変で、休憩中のちょっとした会話が少なくなる。所謂気まずいという状態だ。

 

 ナミさんは仕事になるととても厳しい。いや、とってもとっても厳しい。とってもをもう一つ付けないと言葉としては足りない極致にいるのだ。

 少しでもお客さんに無礼があれば溺愛されてる私でも容赦は無い。何故?何故?どうしてそうなったの改善策は?どうして改善策を考えないのか私に教えてくれる?黙ってたら会話にならないと思うのだけど、意見は無いの?どうして意見が出ないの?じゃあ原因は? 原因すら認知してないのはおかしくない?だってミスだよ? と、半泣きになるまで詰められる。

 以前、小さな看板を持って抗議をした事がある。「もう少し、もう少しだけ優しくしてくれても!」と文字が書かれた看板は見せて三秒で粉砕されて粉々になった。

 唖然とした私の顔を見て彼女はにっこりとした表情で私を抱きしめ、耳元で囁いた。

 

「お金が無いと、あなたに貸してる家、土地代が払えなくなるわね」

 

 つまり、頑張らないと路上にほっぽり出されるのだ。

 日中のお仕事は、少しのミスが命取りとなり、私の住む家が無くなってしまうことに繋がる。

 それからというもの、私は常に仕事中は集中を切らさない。時々ミスをしてしまう事はあるけど、悪意の無いミスはナミさんは怒ったりしない。

 

「うふふ、今日も気合いが入ってて素敵よ。あなたの周りには煌めきが見えるわ!」

 

 優雅に社長出勤を決めるナミさん。

 まぁ、お昼までゆっくりしててくださいと胸を張ったのは私だけど、案外これいいわねと、かれこれ社長出勤は続いている。

 私はこのお店のいちスタッフとしての顔もあるが、慣れて来た頃からナミさんの秘書としての仕事も承っている。なので彼女がお店に来たらまずは後を付いていき、お店の近況やらなんか偉いっぽい人の会議の予定などを口頭で伝え、たまに肩揉みの業務などを行っているのだ。

 

「そういえば、ロードレースの出来はどう?」

「ん、バッチリ……だけど、ここ数日練習が出来てないんだ。あの三人体調が良く無いらしくて」

「え!? あいつらが!?」

「う、うん。でももう治ってるらしいから。疲労を取って当日に本気出すって」

「そう……。大丈夫ならいいけど。彼女らがねー……珍しい」

 

 いそいそとリュックをロッカーの中に入れ、いつも清潔に保たれたエプロンを身に纏うと、キリッとした表情に早変わり。

 机に置いてあるタブレットに目を通しながら売場の方へと歩く。ナミさんはスピードがとても早く、目の前の扉にも気付かない事もあるから道を開けてやらないと頭をぶつけたりもするので、この第二フェーズは常に私が先陣を切るのだ。

 

「シロコちゃん、今日の予定は?」

「ん、今日はテント設営の人達が一時間後に。その他諸々の備品の到着が夕方に来る予定」

「夕方? 予定では午前に来るって話しじゃなかったっけ?」

「それが、私も朝待ってても来ないから電話したのだけど、どうも向こうのスケジュール調整不足で遅くなるって」

「むぅ、あそこにはいつもお世話になってるからそこまで強くは言えないわね。仕方ない。それなら補給食の管理からやっていこうかしら」

 

 タブレットを閉じ、売場を一通り掃除してカウンターの後ろに周り、パソコンを開く。

 

「レースももう明後日か。お祭りの前日みたいでドキドキするわね。今回は本当にお祭りみたいに規模も広げて、夜は屋台も沢山出る」

「え! そうだったの!?」

 

 秘書失格の瞬間である。

 

「そうよ? しかも花火だって用意してるんだから。だって夏だし……ね」

「前回もそんな感じだったの?」

「ううん、今回が初。やっとそれなりの規模感になったし、ずっと夢だったから。お金は沢山掛かっちゃったけどやるなら今しか無い! って感じ」

「夢、素敵だね」

 

 パソコンを打つ手を止め、やっと叶うと、目を伏せながらポツリと言葉を出す彼女。

 

「そう、とっても素敵なのよ? 朝から夕方にかけて皆でレースで盛り上がって。夕涼み、仲間と肩を寄せ合って宵に身を委ねる。黄昏を超えて月が微笑み出した頃、煌びやかな屋台の提灯が並び、わたあめとかたこ焼きとか食べながら夜空に輝く特大な花火に心を震わせる。ずっと……夢だったの」

 

 その夢の中に、きっとあの子もいたはずだ。

 あの子と、三人。そしてナミさん。

 

「夢の先は?」

「え?」

「夢はそれで終わりなの?」

「……どうなのかな」

「いいなぁ、私も夢、欲しいかも」

「へぇ、いいわね。じゃあどんな夢を持ってみる?」

「うーん……、屋台でたこ焼き食べるのいいかも」

「それは明後日叶うじゃない!」

「皆でね、皆で。無事レースが終わったら」

「何よ、急にいなくなったりしたら怒るからね!」

 

ーー

ーー

 

 夜、1日の仕事が終わり、帰りの時間。

 明日は大会前日ということで仕事はお休み。体の疲れを取り、英気を養いなさいだそうだ。

 

「にしても、あいつら返信すら寄越してこないわ」

「三人?」

「ええそうよ。既読は付くのにどうしたのかしら……何か知ってる?」

「ううん、何にも」

 

 まぁ大丈夫だと言い聞かせ、ナミさんと別れる。

 

「気をつけてね」

「うん、じゃあ明後日!」

 

 どこか不安げな顔で私を見送るナミさん。

 ロードバイクをしばらく走らせた後、すぐにスマートフォンを出し、いつものグループトークにメッセージを投下する。

 

ーナミさん心配してたよ。私も心配。今どこにいるの?

ー私達? 私達はこの前の場所にいるよ! ミコトちゃんをずっと待ってるのに……早く来てよ!

 

──何を言ってる?

 

ーミコト、お前が早く来てくれないと帰れないじゃないか。

ーにしても、いつ戻って来てくれましたの? どうしてすぐ逢いに来てくれませんでしたの? 私達……ずっと寂しかったのに。

ー待って、みんな何を言ってるの? どこにいるの?

ーどこって、ミコトちゃんのお墓……ん?

ーおいヨミ、勝手に殺すなよ。また逢えなくなったら辛いだろ。

ーミコト、私達は先日潜入したカイザーの基地に居ます。早く顔を見せに来てください。

 

 

 

 

 

 

 

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