始発点から青春駅へ   作:3ご

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第四十五話

「やぁやぁ、こんな所にノコノコと餌がやって来てくれるなんて大助かりさ。生死問わずが条件だが、実験は最終段階まで至ってない。実は生きているのが条件でしたと最後の最後にどんでん返しがあってもおかしく無いのが科学の世界」

 

 軍服を着た銀の仮面の人物は、両手を大きく広げ、顎を仰ぎながらわざとらしく喋る。

 

「シャーレの邪魔が入れば流石の私達でも対処のしようが無い。SRTの兎共を始め、ヴァルキューレやセミナー、そして各学校の強力な生徒達。先生の力は今やキヴォトス全土に広がっている。その中でも君は特に加護の対象として重要視されているだろうからねぇ。こんなタイミングを待っていたよ」

 

 銀仮面は急に動きを止めると、ゆっくりと私に視線を戻し始めた。

 その仮面は目も鼻も口もなく、ただの顔の形に湾曲した平面。穴も空いていないから私の姿形は見えていないはずなのに、その奥からの視線が、私の体に嫌悪感を刻む。

 

「おやおや? 君は……ふっ、確かな情報が入らない限り動かないと判断していたが、これは読みを間違えたようだ」

「一体何の話をしているの。皆を返して。そうすれば酷い事はしない」

 

 手に持っている銃の照準を銀の仮面に向け、指をトリガーに添える。

 

「こいつらの事か? 死んだ狼の姿を君に重ね合わせてごっこ遊びをしていたこいつらの事か……ふむ」

 

 銀仮面が指をパチンと鳴らすと、虚空を見つめていた三人の瞳に光が戻る。

 辺りを見回し、視界の中にいる私の存在に気がついたと思ったら、大きく息を吸い込みながら両目から大粒の涙を流し始めた。

 サノは恥ずかしいのか表情を悟られまいと顔を背け、メルは全てを受け入れて欲しそうに顔を仰ぎ、ヨミは抑えられない感情を抑え込むように両手を顔の前で握りしめる。

 

「ミコト……本当に」

「嘘じゃ──無いですよね?」

「ミコトちゃんが生きてる……生きてるんだよね?」

 

 三人は私に駆け寄ると、両腕一杯で抱きしめてきた。

 鼻を啜り、知らない人の名前を呼ぶ。

 こんな顔をする三人に何もしない訳にはいかなく、声を掛けるので精一杯だ。

 

「感動の再会だな。私に感謝の一言もあっていいと思うのだが、まぁいい」

 

 まるで劇場の悪役の様に、心の篭らない拍手に苛立ちを覚える。

 

「ところで、君はまだ先生に会ってないみたいだな。そしてアビドスの生徒達にも」

「あなたがその名前を呼ばないで。虫唾が走る」

「好きにしろ。……そうか、君の中ではまだ受け入れていないのか。ふ、くくく」

 

 銀仮面はお腹を抑え、滑稽だ滑稽だと笑いを抑える姿勢で煽る。

 銃弾の一発でも撃ち込んでやりたいが、身を寄せている三人の体重が傾いて、上手く照準が合わせられない。

 

「様々な犠牲の中、折角ゲームの様なリセットボタンを押して貰っておいて、その恩恵を一身に受けて活用もしないとは。呆れる。理解できないよ」

「知った風な口を──!!」

 

 力任せに勢いよく飛び出そうとした瞬間、誰かの足が私の速度を絡め取ろうとわざと足掛け、盛大に前のめりに地面に突っ伏す。

 両手を掴まれ、腰の後ろに回され、身動きが取れなくなった。

 何とか動いて脱出しようとするが、関節を抑えられて体の軸からびくともしない。

 

「ぐ──やめて、目を覚まして!!」

「ううん、ダメ。だってあの人が言ってたんだもの。ミコトちゃんはこの施設から出たら死んじゃうんだって。まだヴェアヴォルフの時の怪我が治ってないんでしょ?」

「そうだぞミコト。私達がきちんと面倒見るから、これ以上何処かに行こうとしないでくれ」

「ここで長い時間かけて治療していきましょう。幸い部屋に余りはあるみたいですから。ね?」

 

 下から見上げる三人の顔を見ると、こっちまで辛くて涙を流しそうになる。

 君達にとって、ミコトって子の存在はとても大きかったんだね。私だって──理解出来るなんて簡単には言えない。でも、自分の気持ちを誰かに利用されるなんて絶対に許せない。

 視線を銀仮面の方へと向ける。精一杯睨みつけ、少しでも憎しみが伝わるように声を荒げる。

 

「お前がカイロスか。三人を操っている力──ムネモシュネの仮面」

「何? 貴様それをどこで知った」

「どこでもいいでしょ。お前なんかに言う義理は無い」

 

 そうかと言い、わざとらしく靴音を鳴らし、私の頭まで足元を持ってくると、上から高圧的な視線で見下ろす。

 

「ふむ、ぼやがかかって見えないな。誰かがこの状況を見越して記憶に布を被せた? だがそんな芸当……これは聞き出すまでに時間が掛かりそうだ」

 

 そして、片方の足で思いっきり私の側頭部を踏みつけ、ジリジリと圧力を強めていく。

 急に緩めたと思ったら、今度は宙から思いっきり力を込めて何度も踏みつけ始め、また力一杯体重をかけミシミシと力を込める。

 

「ぐ──がっ! いた、痛い」

「ほらほら、早く言わないともっと力を強めるぞ? 直にトマトのように潰れてしまうかもな? さ」

 

 何かを言いかけると同時に、今度は鉄同士でもぶつかったみたいな鈍い音が響き渡った。その瞬間頭の重圧は軽くなり痛みも引く。

 大きな鈍い音がいくつか鳴ったと思ったら、最後に肉が壁にぶつかったような反響しない音と共に、息を必死に整える咳き込む声が聞こえた。

 音の方に振り返ると、そこには奥の壁の前で体のバランスを崩した銀仮面。手前にはサノが大きく振り被った体制。

 まさか、たった一発であの大柄な人物を吹き飛ばしたと言うのだろうか。

 

「き、貴様……何故だ。この力は絶対の筈。コントロールが効かないなど……!」

「何故? お前、どんな理由があろうとミコトの頭を踏みつけるなんて愚行、次は殺してやるからな」

「ぐ──……気をつけよう。それよりも、早くそいつを部屋に運べ」

 

 サノは振り返り、今度は私の踏まれていた方の側頭部を優しく撫で始めた。

 

「ごめんな、あんなゴミムシクズなんかに触れさせてしまって。部屋でゆっくりしよう。でも、今のミコトは錯乱しているだろうから、もしかしたら暴れるかもしれない」

「眠って貰いますわ。安心しなさい、ふかふかのベッドですから! ふふふ、積もる話が沢山ありますの。ぁあ、早くお話ししたい」

「ミコトちゃん、少しだけ、少しだけちくっとするだけだからね。じゃぁ……いくよ」

 

 首元に針に刺された痛みが走ると、目の前の光景にぼかしが掛かり始めた。

 ダメなのに、こんな所で眠ったらダメなのに。何とか抵抗しようとしたけど、ヨミの頭に触れる手つきが柔らかすぎて抗えず。そのまま意識が途切れる。

 

「ミコトの好きなカレー。材料まだ食堂にあったよな? 私調理してくるから、二人は部屋まで運んでいってくれるか?」

「了解だよサノちゃん!」

「お手伝いはよろしくて?」

「部屋に連れて終わってから手伝ってくれ。ふふ、先月もかなり喜んでくれたからな。気合い入れて作らないと!」

「先月? 先月はまだミコトは戻ってなかったでしょう? サノ、疲れているのじゃなくて?」

「あれ? そうだったっけ? ま、まぁいいや。じゃあ頼んだぞ!」

 

 

 

 

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