「一緒に食べるの久しぶりだね!」
シャワーから上がり、居間に戻るとそこには三人の姿。テレビの前のローテーブルの中心にはサラダの盛り付け。そして炭酸飲料水のボトルが2本と、コップが四つ。
操られているのにも関わらず、三人の立ち振る舞いはいつも通りの姿で、不自然な言動や動きもない。普段の日常だと勘違いする程、シャワー上がりの熱った体が脳内に錯覚を覚えさせる。
「いつ以来だっけ?」
「忘れたのか? 去年の秋頃に急に居なくなったんだ」
キッチンに居たサノが、料理が盛られたいくつかのお皿をテーブルの上に載せる。
これは、以前作ってくれたカレーだ。
「腕を磨いたんだぞ? ミコト、訓練中でもグルメなとこは変わらなかったからな。野外訓練中でカレー作って食ってたのは私達くらいさ」
「そうでしたわね……。結局見つかって教官に物凄く怒られましたけど、思い返せば良い思い出ですね」
「でもあのカレーのおかげで力は付いたよね。くひひ、腹へって銃が撃てる訳ないでしょ理論は正解だったみたい」
メルがサラダを振り分け、ヨミが空いているグラスに飲み物を注ぐ。
「ミコト? なんだか元気ないけど大丈夫か?」
「ん? ううん、元気」
「ずっと寝てたからじゃないかな?」
「ぐっすり眠ってたから目は冴えてるよ。それよりもお腹減っちゃった」
じゃあ食べようと言うことで「いただきます」と手を合わせる。
スプーンを握り、熱々のカレーを白飯と一緒に口の中に放り込む。辛味の奥にあるシナモン、他のハーブの香りが食欲を増進させ、二口目は一口目よりも多い量の平の上に乗せ、さらに口の中に放り込み舌で転がす。
初めて食べさせて貰ったあのカレーと同じ味だ。
この味をきちんと食べさせたかった相手が居たと思うと、胸が苦しくなる。
「……美味しい」
ーー
ーー
「ねぇミコト、今までどこに居て何をしてましたの?」
「メルちゃん、ミコトちゃんが黙って去らなきゃいけない場面なんて限られてるよ」
「そうだな。ウルフ小隊はSRTの中でも内密な部隊だったから、隊長のミコトにだけ与えられてる任務があったって不思議じゃない」
食後、メルが温かいお茶を淹れて人数分振り分けたあと、とにかく喋ってくれないと困るとメルが切り出した。
内心相当怒っているらしく、きちんと理由を話しなさいだそうだ。
「無理にとは言いませんが、私達だって焦がれる程待ってましたから」
そうは言いながらも、どうしても気になると言う好奇心が抑えられない瞳。
「今まで……か。私が別の世界に行ってたって言ったら……信じる?」
「別の世界? キヴォトスの外にでも行っていたのでしょうか?」
「ううん、キヴォトスだよ。でも、みんなが知ってるキヴォトスじゃない」
「私達の知ってるキヴォトスじゃない?」
「そう、まるで瓜二つ。でも、そこでの私は全く別の人物になっていて、三人の事は知らないの」
透き通る青色が広がる世界だったと語ると、三人は興味津々で私の顔を覗き込んだ。
「私は名前だけを与えられていた。その他の記憶はすっぽり抜け落ちていて、寒い寒い雪空の下で途方に暮れていたの。その時ね、とある二人と出会った。とにかくお腹が減ってて寒くて辛かったから、その二人から身包み剥いで飢えを凌ごうとしてね」
サノがクスリと笑う。
ただの危ない人間じゃないかと。
「そう。でも、作戦は失敗。手も足も出なかった私はコテンパンにやられてさ」
「ミコトちゃんが手も足も出なかった……相手は相当な手練じゃない?」
「うん、相当も相当。今はもしかしたら良い勝負するかもしれないけど」
──ここから私の物語は始まった。
その後、色々あってその学校に入学する事になった。
住まいも衣服も、ましてやお金だって持っていなかったその時の私を、二人は新入生だと喜んで温かく迎え入れてくれた。素性を知り得ない人を迎えれたのは、あの時の学校があの惨状だったから出来たのだ。単純に運が良かった。
「出会った二人も良い人だったから、それでも恵まれたかな」
「へぇ。よっぽど廃校間近だったのか?」
「うん。……アビドス高等学校って知ってる?」
「聞いた事がありますわ。巨大なマンモス校だったにも関わらず、砂嵐が原因で人口減少に歯止めが効かなくて今や生徒は数人だけだとか……」
「うん、この世界にもあるんだよ」
その学校で、沢山の楽しい思い出を作った。
全部が初めてで、唐突な出会いもあって、胸をときめかせた。
でも、煌びやかな毎日は続く訳もなく、唐突に終わりを迎える。
「私だけが……生き残ったの。そして世界線を超えてここへやって来た。ここも、前の世界と同じになるかと思ったけど、シャーレの先生が──」
そう言いかけた瞬間、サノが私の口元を抑え、喋れなくする。
「……それは、誰の話だ?」
抑えていた口元に手を掛け、そっと引き離し、寂しそうな顔をした彼女を肩に寄せ隣に座らせる。
「これは、砂狼シロコの話。大口ミコトじゃなくて、別の世界に居た時の私の話」
「……ミコトちゃん違うよ。私達はミコトちゃんの話を聞きたいの。別の世界の人じゃなくて」
「ミコト、変な意地悪を言わないでください。あなたはここにいるのですから……ここに……いるんですから」
メルが擦り寄り、私の頭を胸元に押し当てるように抱きしめ、後ろ髪を上から下へと掌で撫でる。
「今日は……もう寝ようか。私もなんだか気分が優れない」
集中して話していたせいか、時刻は午前4時を回っていた。
すっかり深夜を超え、朝になりそう。ここは外に繋がってないから朝日が差し込まない分、時間の感覚がズレる。
「皆で寝るの?」
「そうですわ。言っときますけど、抜け出すなんてダメですからね」
「皆を置いていかないよ……そうだ、温かい白湯飲みたいな。淹れて来てもいい?」
「確かに寝る前の白湯は体にいいって聞くし。私も欲しいな!」
「じゃあ三人は寝る準備してて。私が淹れてくるね」
立ち上がり、扉を開けようとしたが、背後からサノに肩を掴まれる。
「ミコト、病み上がりなんだから無理するな。私が用意する」
「これくらい平気。カレーのお礼」
「でも……」
「ふーん、サノちゃんは私の事信用してないんだ?」
「いやっ! そう言う訳じゃっっ……。わかったよ。それにちゃん付けはやめてくれ」
可愛らしい照れ顔を背に向けキッチンへと向かう──前に、洗面所へと向かう。
さっき私が脱いだ衣服の中にマガジンが入っていたはずだ。流石に銃本体は回収されているが、服を脱いだ時にマガジンも適当に置いた。
「あったあった。さてと」
弾倉の一発目を取り、素早く分解して取り出す。
中に入っている液体については流石に予測していないだろう。今回持ってきた麻酔銃の弾だ。
素早くキッチンに戻り、マグカップを四つ取り出す。
電気ケトルに水を張り、スイッチを入れ水が沸騰する間に、さっき取り出した麻酔の液体をカップに均等に割り振った。
「本当はマカロンがあれば一発なんだけど、流石にあれは可哀想か」
前章の終わりが見えて来ました。
ちょっと長く書きすぎちゃったかな・・・?
ま、いっか!!!