「で、どうしてトリニティに転校することになったんだっけ? 確か地獄巡りとかなんとかリアが言ってたような……」
・・んもー違う違う。そもそも転校じゃないよ先生。私達が財宝を探してるの知っているでしょ?・・
財宝という言葉に頬をぴくりと動かす彼は、一つ大きく息を吐きながら手元のスマートフォンに視線を傾ける。そこに書かれてあるのは彼女が通う学校の部活のチラシデータ。
世のお宝を探し、浪漫と夢を追い求める部活。トレジャーハント部。
「覚えているよ。ティタンの宝物庫を探しているんだよね? 知ってると言っても、この前教えてくれたばかりじゃないか」
・・あれ? そうだっけ?・・
また、一人の生徒が危険に首を突っ込もうとしている事実に肩を落とす彼。生徒の自主性を重んじ、基本好きにさせて、もし何かしらの問題があれば大人として責任を持つという鋼の意志がある彼だが、ここの所様々な学校での催しのおかげで疲労が蓄積しているせいかどこか無気力になっている所がある。
こんな顔、他の生徒に見られでもしたら一大事件になるだろう。シロコは覆面を被り扉を突き破り、ヒナはあのシナシナのヒナヒナに萎んで可愛らしく寝込み、カズサに至っては可愛い目と耳と口を見せびらかしてくる。
「──案外良い気分になる?
──ダメだ、私は先生だ。先生として彼女達の道を切り開く役目がある。誰かに傾倒するなど言語道断なのだ」
彼の中でぐるぐるとした葛藤が巡り巡るが、その間を心配そうに覗き込んでくる生徒の顔にちくりと心臓が穿たれる。
・・先生? お疲れ?・・
口角の端にある線が口元の笑顔をさらに引き立てる。目尻は描いたような山になり、ただ見ているだけで癒される存在。キヴォトス全土を端から端まで見ている訳ではない彼だが、きっとそこまで探し回っても彼女よりも笑顔が素敵な生徒には出会わないだろうと思わせる。そんな魅力に、彼は自然と惹かれているのに気づいていない。
「うーん……降参だ。ごめん正直言うと少し疲れてるんだ。ここ最近ずっとSRT関連で忙しくてね。私が勝手にちょっかいをかけてるだけなんだけどさ、なんだか放って置けない生徒達で」
・・ごめんなさい。それならお時間貰っちゃったら申し訳ないよ。また今度出直すね・・
「いやいや、ジウのお話を聞くくらい元気は余ってるさ。それに君の顔を見てると元気が出るんだ。だからもう少し居ても──」
と、言いかけようとした所で言葉を静止する彼。今、自分は何を言おうとしたのだろうと数秒自問自答した後、どうも変な言葉しか出てこないと結論を確定させる。
・・どうしたの?・・
「あー……ごめんほんとお疲れかも。で、今日はどんな用事で来たんだい?」
・・トリニティでの生活が不安で……。その、私の目的はあそこにある資料群だから、効率的に調べ物する為にそれなりの権限みたいなのが欲しくて。誰か紹介してくれないかなーって・・
「紹介? ああ、学校間だと他校を無闇に物色出来ないからね。短期留学とはいえ、他校の生徒が調べまわったら怪しまれるもんね……。うーん、ミカはまだ色々ごたついてるし、補習授業部達も何やら別の件で忙しいし……。そもそもトリニティが今は混乱期だし……」
もし、彼女を確実に守れる人間がいるとすれば、実力で言えば聖園ミカが一番適切だろう。
そう考える彼だが、一番の懸念点は彼が彼女にこの子を守って欲しいと伝えた時の彼女の反応だ。
そう考える先生の思考は正解に等しい。あれだけの出来事を乗り越えた生徒が、一人の人間に傾倒するのは当然の摂理でもある。
彼はどんな生徒でも等しく博愛するが、その博愛が他の誰かの気分を損ねるのを重々承知しているのだ。
・・それに、私他の人と違って声が出せないし……。トリニティはなんだかいじめ多そうな印象・・
「もしそんな生徒がいればすぐに私に相談するんだ。いいね?」
そうは言う物の、学校での生活は彼女一人で過ごさなければならない。何かトラブルがある度に先生が出向く訳にもいかないのだ。
「というか転校はジウ一人だけなの? リアは? 黒野姉妹揃って行けば怖いものなんてないじゃないか」
・・転校じゃないって!? さっきキチンと短期留学って言ってたよね!? ……リアはしばらくアビドス高等学校で生活することになったの。なんか王家の谷? ってのを見つけたから発掘しまくるって言ってた。だから2ヶ月遅れで留学するんだ・・
「アビドス? なんでまた。リアってそんなに顔広かったっけ?」
・・それが、アビドスの道端で倒れていたらロードバイクに乗った子に水を分けて貰って、そこから仲良くなったんだって。それであれよこれよと……張り切ってツルハシ買ってたよ・・
「なんだかデジャヴ……」
ジウの持つスマートフォンの画面に、アビドスの皆の顔とリアの顔が映し出されていた。こっちは楽しくやるからそっちも頑張れ。お姉ちゃんの可愛さならトリニティだってイチコロさ! と文字を添えて。
・・うぅ、自分だけ仲良い人達の所に行って。リアが恨めしい。私は一人がとっても苦手なのに・・
「一人? ああそっか、クロノスからトリニティまで離れてるから寮になるのか。うーんと言ってもそこまで集団生活でもなさそうだけどね。ま、入る派閥さえ間違えなければいいかもね」
・・派閥!?・・
「仲間を作るのならとにかくどこか組織に入らなきゃ。ジウは……そうだな。図書委員とかどうだい?」
部活という単語に怪訝な顔で反応する彼女を見て、彼は両手を肩の上まで伸ばす。
「ジウは本当にこういうの苦手なんだね。でも頑張って乗り越えなきゃ」
内容短くて申し訳ないです。
本当は「時の魔術師」は執筆しない予定だったのですが、これからの物語に深みを出したいので、急遽作成する形にしました。
これはじっくりゆっくり描いていく感じにします。
そして、もうそろそろ後章一話を出せそうなのです。
頑張りますね☆