始発点から青春駅へ   作:3ご

65 / 98
文末にアビドス三章について何行か書いてます。
若干ネタバレあるので気を付けてください。


第3話:キヴォトス・オオ・シロコタツムリ(3)

「む、お野菜とかきちんと切ってあるし、お皿に盛りつけられてるな……。なに!? つみれまであるだと!? ふん、きちんと準備はしてたみたいだな。よし、こたつに潜ってていいぞ」

「洗い物は任せた。私はスマホでのんびりしてるから、後は三人お願いね」

 

 蛇口をひねる音と共にサノの声が反響する。向こうは都市部だからきっと水の冷たさにびっくりしているのだろう。これで私が如何に苦労して具材を用意したか分かってくれるはずだ。だから誰の許可を貰わずともこたつに入って要塞化してもいいし、外に出なくもいい。寝ててもいいくらいだ。

 

「あれれシロちゃん。灯油が切れてるよ。ストーブ付けられないじゃない」

「灯油は贅沢品」

「灯油が贅沢品なの……?」

「しかも買いに行くのに外に出ないといけないし、付けたら付けたで換気もしないといけない」

「じゃあエアコンは?」

「ん!!! もっとダメ!!! エアコンは敵!!!」

 

 中腰で覗き込むように見下ろすヨミの足をぺしぺしと叩き、如何にエアコンが金食い虫かを問う。

 そう、彼女達は学校の寮だからその辺を気にしてないのだ。いつ如何なる時もどんな場面だって使い放題。メルとヨミに至ってはトリニティというお嬢様学校にいるくらいだ。パイプが太いんだ。絶対そうなんだ!

 けど、ここはナミさんの所有物だとしても今は私の家。節約という概念を教えてやらなければ。まずはリモコンを回収だ。

 

「んもーシロちゃんたら。姉さんに甘えれば……いや無理か」

「おほほ、姉さんはそこら辺とても厳しいお人ですからねぇ。いくら愛しいシロでも甘い目で見て貰えない。でも大丈夫。昔からですから」

「姉さんは守銭奴だからな。会社立ち上げて儲けだした時だって割り勘を要求してきたからな。最近は全く違うけどさ」

「そうなの?」

 

 ふふふと口元に手を添えながら笑うメル。

 

「姉さんは私達を対等として見てましたから。年齢は違えど、決して私達を下には見なかった。熱い青春を過ごす仲間として」

「くひひ、甘やかすなんてもっての他だよね。元来姉さんは激しい人だったし」

「そーそー。ロードバイクの部品の名前分からないくらいでこう目元がキッと……とと、おーい、大きいの運ぶから道を開けてくれ」

「大きい? 何を買ってきたの?」

「普通のお鍋にする訳ないだろ? ぶりだよぶり。ぶり鍋だ。さーさーどいたどいた! シロはこたつに潜ってろって」

 

 ぶり、ぶりってあのぶり!?

 これはサノの邪魔をしては駄目。彼女の邪魔にならないようにこたつの中心へと頭を潜らせ、天板の中央にあるであろうガスコンロの上に置かれるまで待機。

 

「市場、今日はすごく激安でしたわね」

「そりゃこんだけ寒いんだもの。雪もこんこん積もってるし、誰も外に出ないんだよ」

「SRTの訓練に比べれば楽勝なのにな。雪の時なんてかまくら作って籠ればそれなりに暖は取れるのに」

 

 ことんとお鍋が敷かれたタイミングでひょっこりと顔を出してみる。

 足元にはサノの足。

 

「シロ、逆側に周ってくれよ。さもないとそのまま尻の餌食だぞ」

「ん、サノのお尻はとても強そうだから退散だね」

「なんだと!?」

 

 制圧される前にこたつの中心に再び潜り、暖色に染まった空間から彼女の逆側から表の世界へと顔を出す。相変わらずの冷たい空気。

 

「ううー寒い寒い。私もこたつに入るー!」

 

 今日の第一侵入者はヨミ。

 黒色のタイツを装着した細目の足が暖色の空間へと侵入する。私は再び内部へと潜り、侵入者への対策に講じなければならなくなった。

 ヨミはテクニックこそ一般的だが、なんといっても腕力や体幹が桁違いに強い。防衛戦に置いて一番の要所は防壁だ。要塞ごと持ち上げられれば流石の私も両手を上げで。お腹を見せて降参のポーズを取るしか出来なかったのだ。なんたる屈辱。

 

「ほんと冷えるな。ニュースでは確か今期一番の寒さになるだろうってさ。車も路面でスリップして事故ってたし危ないよ」

 

 制服の下からジャージというラフなスタイルのサノの足が私の領域へと侵入する。

 彼女は身体能力が高くとても強い。攻略方法も限られている。以前侵入された時は対処が遅れ、結果的に私とこたつの中でもみくちゃになった。柔術が扱えるのか、彼女の間合いにおいて為す術が無かった私は敢え無く撃沈。要塞を奪い取られる事になってしまったのだ。鼻からクーンと鳴き声を出して同情を誘う作戦を使わされるとは。恐るべし。

 

「私なんて外に出て動画撮影してモモチューブにアップしなきゃなりませんのよ?」

「それ必要なのか?」

 

 寒波真っ只中だというのに、ミニスカを履いて太もも丸出しの彼女はやはりどこかおかしいのかもしれない。暖色の世界に侵入した唯一の肌色は照明に照らされ輝きを増し、魅惑の香りを漂わせている。

 だが、こと防衛戦において、彼女のようなタイプを一番敵に回してはいけない。メルは兵糧攻めを行ってくるタイプだ。以前防衛戦をした時、なんと彼女は電源を抜いて持ち去るという鬼の所業を企て実行したのだ。寒さに負けた私は懇願するように彼女の太ももに擦り寄り、悲しい声色で撫で声を上げる。

 

 ──この三人を敵に回すのは厄介だけど、私も主としての意地がある。

 

「おいシロ、もうそろそろお鍋炊きあがるぞ。食べないのか?」

「食べる―!」

 

 まずは腹ごしらえをしなきゃね。

 休戦。

 

「ぶりがぐつぐつしてる……! こんな贅沢出来るなんて寒波の神様に感謝だね」

「くひひ、しかもおまけまでしてくれたんだよ? お客さん一人も来なかったからだって!」

「私達は日頃の行いがいいからな」

「でもサノこの前スケバン殴ってましたよね?」

 

 鮮やかな赤身色が美しい新鮮だったぶりがお鍋の中で煮えると、白く、脂がのったぷりぷりした姿に変わる。白い湯気は昆布やかつお節の風味を鼻孔まで運び、お腹の音を何度も何度もぐるると鳴かせるのだ。きっと、タンと食べてくださいな! とでも思っているのだろう。ネギや白菜、豆腐にしめじ。それらを寛容的に受け入れているスープは透明で、最早目のごちそうと言っても過言じゃない。

 そうまでして自分をよく見せてどうするつもりなんだい? 私は最近とてもグルメだよ? いいのかい本当に。

 

「シロ……よだれ出てるぞ」

「くひひ、お腹空いてたんだね。じゃあ食べよっか!」

「私は小分けにしてすくって差し上げますね。大丈夫です。ぶりはまだ沢山ありますから」

 

 均等に深皿に鍋を取り分け、皆の元から湯気が立ち上る。

 私もこんな寒い中頑張ってくれた三人に感謝の意を込めて両手を合わせ、深々と頭を下げるのだ。

 

「「「「頂きます!!」」」」

 

 早速箸で救い上げたぶりの切り身は、とろとろぽたぽたと脂を深皿に落とし、水面を震えさせる。

 息で冷まそうとせずにそのまま口の中にパクリ。ふわっとした食感とともに、口の中で脂の旨味が広がり、至福のひとときを感じた。

 友達と食べるお鍋はいつも美味しい。一人よりも、何倍も美味しく感じるのだ。

 

ーー

ーー

 

 ひとしきり食べ終わりお腹も落ち着いたタイミングで箸休め。

 私は再びこたつに潜ろうとしたが、今潜れば必ず三人の網にかかってしまう。そうなれば私とて無事では済まない。

 

「そういえばシロ、結構前に皆でシャーレに行ったけど、あれ定期的に行かなくちゃいけないんじゃなかったっけ?」

「ん? うん、私の身体の検査とか諸々ね。遍在しちゃダメな存在だから、どこかしらで世界に歪みが生じるみたい。一番顕著に変化が生じやすいのが私の身体だろうって」

「シロちゃん前回行ったのって姉さんと二人の時でしょ? 二か月行ってないよね?

「ですわね。もしかして寒いから行きたくないとか言いませんよね?」

「うぅ……」

「図星かよ」

 




※※※アビドス三章ネタバレ注意※※※







シロコ*テラーきたあああああああああ!!!!!

っと、まぁ来るだろうなと思ってたのでそこまでびっくりせず。
形はどうであれ、プレ先ルートでホシノを倒したのはシロコっぽそうですね。
私も物語を読んでいて、それが出来るのはシロコくらいだろうなと思ってました。

エジプト神話では、太陽は夜になると冥界に下り、オシリスと出会うとされています。
冥界の番人はアヌビスです。
説ではユメ先輩はオシリス説もあるので、シロコ*テラーと対峙したホシノはなんだかんだバーとなったユメ先輩に再開して慰められて元に戻るのかも。
※バーは魂の事。己という自己であるとも解釈されています。
ここら辺のエジプト神話の魂は実は本作でも取り入れているので、最後ら辺の展開はなんだか被りそうな予感・・・。まぁもうプロットは変えられない所まで来てるので、どうなったとしても私は最後まで書き続けますとも。

それか裏の裏は表であるように、シロコ*テラーが何かしらをしてホシノを元に戻すが、自身は消滅してしまう展開もありそうですね。

とにかく続きが楽しみ。
こっちのシロコちゃんは今お鍋食ってますからね。平和です。ここで色彩の力を使った強制テレポートなんか使われれば、ぶり鍋食えなかった怒りで制御不能のテラー化とかしちゃうかもしれません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。