始発点から青春駅へ   作:3ご

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第7話:シャーレの先生

 空が赤くなった事件から半年以上が過ぎた。

 私はナミさんに拾われて、そして新しい三人の友達に出会って、ひと夏の青春を過ごして。

 分不相応だとは感じても、それを捨てきれない自分が居た。

 

 船が落ちる時、「私が生きている意味は?」と言う自己の問いに苛まれながら、星空を見上げていた。守りたい人を守れずに、掌から砂がこぼれ落ちる様に何も掴めなかった私は、生きる事さえ、ましてやこの世界にいる資格さえないんだと自責の念に駆られた。

 そんな私に声を掛けてくれる人物が一人。

 迷ってる私に一つの道標をくれたのが、まさかこの世界の私だなんて。

 

 その後は必死に歩いた。どこに向かえばいいかなんて分かりっこ無かった。

 ただ海沿いに真っ直ぐと、この世界の皆がいる反対の方向へ。物語の主軸からズレた方向へ。干渉出来ない領域。登場人物としての私が出ない世界へ。

 途中、乗り捨てられていた自転車を見つけては修理して、とにかく西の方へとペダルを漕ぎ続ける。

 

 道中で地図を拾った。

 古ぼけた地図だった。何回も書き殴った後が重なり、細かい文字は読めなくなっていたけど、大きく赤い丸の中には現在地という文字だけが書き散らされていた。

 行き先が定まらない私にとって、それは一つの希望だった。

 

 道中で厚手の上着を拾った。

 フード付きの代物で、体を温めるのに丁度良かった。サイズもぴったりで、凄く汚れていたけど、今の私にはぴったりだなって思うと、悪い気分にはならなかった。

 でも、食べ物も無い。食べ物を取る道具だって、お金だって無い。

 次第に倒れてしまうかもって不安はあったけど、こうやって物を拾いながら前へ進んでいくのを案外楽しんでいる自分がいた。前向きな気持ちは大事にしようと、自分で自分に言い聞かせた。

 

 道中でギターを拾った。

 音楽に趣がある訳じゃない私は、お腹の減りを誤魔化す為に、自分でもよく分からない即興の音を奏でてみた。

 

 なんだ、案外良い音が鳴るじゃないか。捨てられる理由が分からないよ。

 

 まだまだ生きていけるのに、どうして海岸に投げ捨てられていなければならなかったんだろう。

 弦は錆びてるけど、振動を与えればホールの中で反響し煌びやかな音を羽ばたかせ、打痕がいくつも付いた小ぶりなボディには歴戦の猛者を思わせる風格がある。握り易いネックは若干内側に反っているが調整出来るし、弦を回すペグは錆びついているがキリキリ回る。

 

 でも、旅には持って行き辛いよね。

 

 そうか、重いんだ。だって今の私だって、君との出会いはこれまでで、後はさよならだ。

 

 ──用済みって事?

 

 急に、前の世界での出来事が脳裏に浮かび上がる。

 崩壊していく友達の絆。

 居なくなった。命の綱を切った。砂漠に飲み込まれた。

 

 ──もしかして、私も?

 

 激しい吐き気と動悸に襲われて、ギターを放り出してしゃがみ込む。

 頭を抱えても、目と耳を抑えても、音と映像が一気に頭の中を駆け巡り始めた。皆の声が、その時受けた感情が身体中を駆け巡り、涙が止まらず。

 居ても立ってもいられなくなった私は、真っ暗な夜道をひたすら走り始める。

 翌朝になっても、日が上り切って落ちても。またお月様が登って未来を真っ暗に閉ざしても。

 

 身体中が疲れ切って、へとへとで。

 でもあまりの寒さに体を震わしている時、とある声が私に向かって放たれた。

 銃を向けていたし、意識も朦朧としていから適切な判断が出来なかった私はなんとか主導権を握ろうと飛びかかったが、全く歯が立たずに地面に突っ伏す。

 

 ──ここで終わりなのかな。

 

 運命は突然狂い始める。

 目の前の人は急に私に駆け寄り、声を掛けながら抱きしめ始めた。

 抵抗する力も、ましてや立つ事さえ辛かった私は、そのまま彼女の行為に身を任せる。

 

 どうして、どうして。

 

 彼女は鼻を啜りながら何度もそう声を出すと、私の肩を掴み体から引き剥がし、今度はじっと瞳を見つめてきて私の顔に向かって言葉を掛ける。

 

──あなたは誰?

 

 私は誰なのだろう。

 体の力が抜け、地面に座り込む。そのまま彼女の方へと倒れると、心配そうな声で身を案じる声が耳元を包み込んだ。まるで、家族の安否を確かめるように。

 もう何日も飲まず食わずでここまで来た。そう彼女に伝えると、背中に私を背負いロードバイクで器用に走り出す。

 

 不思議だった。

 今までの私なら、急に親切にする人には警戒の色を隠さないのに。どうしてかその時の私は、不思議と心が落ち着いていたように思える。

 

 当時は不思議だったけど、今思い返せば答えは明確だ。

 

 彼女からは、ホシノ先輩と同じ匂いがしたから。

 

 きっと、似た洗剤とか香水を使ってるんだろう。性質が同じとか、在り方とかそんな胡散臭い神秘を言う訳じゃない。

 

 あの時貰ったマフラーと……同じ香りがした。

 ただそれだけ。

 

ーー

ーー

 

 彼を見ると、それまでの記憶が思い出させられる。

 シャーレの先生。この世界の先生。

 

「先生、久しぶり」

「シロコ……本当に久しぶりだね。元気にしてた?」

「うん、見ての通り。先生こそ──その顔は徹夜?」

「ははは、一発で見抜かれてしまったね。日々忙しいけど大丈夫。今日この時間は沢山とってあるから、ゆっくり話そう!」

 

 会えた。

 先生に……会えた。

 ずっと会いたかった。その顔を見たかった。でも、怖かった。

 杞憂だった。先生はこの世界でも……ちゃんと先生だ。

 無邪気で子供みたいな顔をして。でも仄かに見せる仕草や……声もカッコよくて。

 私に無いものを沢山持っていて。失敗もするけど、結局は皆を救って。

 

 っと、感傷に浸る隙を与えないのが私の新しい仲間。

 

「はいはーいそこまでそこまでストップストップいやーごめんねなんか再開を邪魔するようで悪い気もするんだけど自己紹介をきちんとしないと思ってねーいやはや先生もそう思うでしょうはいこれお土産催眠薬ね飲んで私の言葉を聞き入れなさいってあなたなんだか変な顔ね傀儡みたいになってるわよ誰かに操られてないうーんこれなら私の振り子と薬はいらないしなんなら一発でドカンと顔面に拳銃撃ちつけてやりたいけどそれじゃシロコちゃんが悲しむからやめておくわ感謝しなさいああなんて優しい子なのかしらこれはきっと一生私の元へ置いておく必要があるわねそう思うわよねあなた」

 

 ガトリングよりも早い言葉の弾丸を受けた先生は呆気に取られたのか、気後れして後ろのソファに座り込んだ。

 

「くひひ先生初めましておっとここで一発ギャグなのですが動いていないのに熱いものってなーんだピピピピぷーはい残念時間終了です答えはなーんと私達とシロちゃんの熱い熱い愛情なのでしたそれはまさしく太陽そうは思いませんかテヘペロ今まで彼女のお世話をしたみたいですが言っときますが私達の方が彼女に対して深い深いとってもとっても海底よりも深い愛情を持っていますので理解してくださいねなんなら写真見ますか写真彼女の霰もない姿はこのキヴォトスでも私のスマホの中にしかは入っていません全裸差分は料金次第で」

 

「おほほあなたがシャーレの先生ですのねお初お目にかかります私はあの大会社クローバーグループの親族でしてって今はそんなことどうでも良いですわねあなた今彼女に色目使いませんでしたこれはキヴォトスサイクルでは重罪死刑に該当する犯罪行為であり罰金10万円もあり得る行為なのですよご理解してますあら理解してない残念な頭をしていますわねそれではシロのふさわしくありませんわ言っときますが彼女の枕係は私が仰せつかっておりますの抱き枕として優秀ですからね時に胸から太ももに掛けてのラインはどんな高級寝具よりもシロを癒し私も癒されそれはもうわっぴーな関係」

 

「貴様がシャーレの先生かふとても弱そうな見た目だこれなら私がグーを出すまでもないチョキで首元を掻っ切るのも造作もない事だ言っとくが貴様が今こうして生きていられるのはシロがいるからで彼女を悲しませないために貴様はシロに精一杯の笑顔を振りまけまぁ顔が良いのは認めてやる光栄に思えお前は今から私の小説の竿役として君臨するどんなジャンルでもお茶の子さいさいだろうまずは試しにカウベルを首に巻き付けてるとち狂った人物を公園で散歩する所から始めようかそこでシロと出会いゴミみたいな言い訳をしている最中に大親友である私達が乱入してお前をコテンパにする内容とかどうだ良い感じ」

 

 

「待って、皆落ち着いて。先生泡吹いて倒れてる。これは私が膝枕して介抱するべき」

 

 

 

 




もっと書く時間が欲しい。
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