始発点から青春駅へ   作:3ご

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第16話:大実メルの場合(2)

 おーいおいおいおいと床に伏せ途端に情緒不安定に泣き崩れる彼女。何だろう、本当に悲しんではいそうだけど、どこか今日の雷と同じ音がする。

 

「ん……ただ手を繋いでいるだけ。何もやましい事なんてないと思う」

 

 と、慰めてはみたが、やはりこの写真を見る限りではただの友人の関係とは言い難い雰囲気を醸し出している。だってサノの頬は仄かに赤く染まり、それを彼女よりも身長の低いヨミが戸惑いとは違う、何かを確認するような上目遣いでサノを見つめているのだ。まるで恋する乙女のような。

 

「んぐ……ぐす……」

 

 そんな訳ないじゃないと言いたげな表情で私を見上げるメル。

 眉は眉間側を大きく持ち上げ、目元は充血し、小さいお鼻もジュージュー鳴らして赤く染まり上がる。まるで駄々を捏ねてる子供みたいで可愛らしいが、とにかく床に鼻水をぶちまけられたら敵わないので、最近コンビニで買ったちょっとお高い柔らかいティッシュを無造作に取り出し彼女の鼻に押し当てた。

 

 ぷしゅーぷしゅーと勢いよく溜め込んでた物をぶちまけると、落ち着いたのか背中を振るわすしゃっくりの周期が段々と長くなり、飲みかけていたぬるくなった白湯を一気に喉に流し込む。

 そして小皿に振り分けていたクッキーを2枚ほどボリボリ食べると、「ん」と飲み物のおかわりを無言で催促してきた。

 もう寒さも落ち着いただろうから、今度は食事用の冷たいお茶をマグカップに注ぎ、彼女の前に置く。

 クッキーで口元がパサついただろうから、これはきっと喜ばれるはず。と、気の利く友人だろうと自画自賛をしていると、彼女はあろうことか私の小皿のクッキーにも手を出し始めた。

 私が止めようと片手を上げたのも束の間、なんと三枚重ねでクッキーを握り、口を大きく開けてぼりぼりぼりぼりと、とても大きい音を立てながら僅か十秒で感触し、注がれたお茶をまたもや一気に喉に流し込んだ。

 そしてまた、おかわりの「ん」の催促をしてきたので、私も涙目を堪えながら黙ってお茶を注ぐ。

 

「んぐ……んぐ……。良いのです。愛の形をは人それぞれなのですから」

 

 注がれたお茶を今度はゆっくりと口に含み喉を通す。背中を丸め、両手両足をこたつ布団の中に押し込み、顎を天板の上に乗せ、ぽつりと独り言。

 折角私が前にいるのだから、そんな虚ろな目をしないで私に声を掛けて欲しい。クッキーあんなに食べたんだし。

 

「でも言われてみれば、シャーレに行った時からなんかいちゃいちゃしてたよね」

「そんな前から……? ふ、私も鈍感になってしまったのですね……」

 

 天板上に置いてある一つのスマーフォン。その中に映し出されている二人の写真。

 メルがその画面を横にスクロールすると、今度はまた別の角度の写真が出てきた。場所は分からないが、市街地の中央でまたもや二人が手を繋いで歩いている。次の写真はファンシーなぬいぐるみ屋さん。その次はおしゃれな木目調のカフェテリア。そして道路も碌に整備されていないブラックマーケット。

 

「これ、誰が撮ったの?」

 

 口を尖がらせてじっと画像を見つめる彼女。私の声が聞こえなかったのだろうか、返事をしない。というか誰でもいいけど、背後で写真を撮るのもどうかと思う。

 

「ふふふ、今度の誕生日会は私一人での開催かしら。誰も祝ってくれないのかもしれませんわね」

「私がいる!」

「ふふふ、シロは優しいですわね」

 

 そう口に出すが、私の目を見ないでスマーフォンに釘付けだ。それもそのはず、メルとサノとヨミはずっと家族のように過ごしてきた。それがいつの間にか二人が出来てましたってなれば遺された一人の孤独感は半端じゃないだろう。

 

「いいのです。愛の形は……。もし二人が秘密を公にしたら、私は心から祝福致しますわ。ええ、盛大に式も挙げさせて頂きます。それが友人の……いえ、家族として過ごしてきた私の役目でしょう?」

「え? うー……うん? そうだね。私にはよく分からないかな」

 

 きっと彼女の事だからクローバーグループ総出でお祝いするに違いない。って待って、それは怖すぎないかな。だって仮に二人が出来てたとして、今まで隠しているんだから世間には公にしたくないんじゃないだろうか。

 そうは思わないかいメル? と彼女の顔を見るが、そうは思わないのだろう。さっきよりも口を尖らせて正三角形みたいな形になってる。

 

「はぁ、はぁー……」

 

 天を見上げる勢いで背中に体重を傾けると、そのまま床に寝転がり始めた。

 私もいっぱしのこたつむりとして、中に潜り込み彼女の脇元へと歩を進める。

 

「私は一体どうすれば良いのでしょう。どんな風に受け止め、どのように思考すればよいのでしょう。シロ、私に答えをください」

「ん、メル。事は急を要するとは言うけど、今回はその逆でアプローチをするのが良いと思う」

「逆?」

「うん、じっくりコトコトと、まるでお鍋のようにね。明日鍋パーティするって言ってなかったっけ?」

「ええ、明日はその予定ですわ」

「それなら、私とメルでアイコンタクトを取りながら真偽を見定めるの。でも一日じゃ情報は収集出来ないだろうから、そこから数日掛けて見極めるの」

「……確か映画のチケットを渡していましたわよね? 翌日でだめならショッピングモール」

 

 互いに体を向け合い瞳を見つめ、事細かに作戦を立てていく。

 

「で、ここからは想像。メルはヨミとサノはどっちが受けだと思う?」

「……私はサノが受けだと思いますわ。普段はどんな人にも攻めの姿勢を崩しませんが、ヨミに関しては受けでいることも少なくありませんもの」

「ん、素晴らしい。私もそう思う。普段はつんつん尖ってるけど、二人きりになるとヨミは責めに転ずるんだ」

 

 ヨミは基本的に悪戯っ子な特性がある。

 複数でいる時は大人しいが、二人になると急に脇腹をつついてきたりするのだ。まるで狼の皮を被っている獰猛な肉食獣。

 

「サノは受け、ヨミは責め。そして私ははぶられ者ですか。ふふふ……」

 

 両腕を組み、目元を伏せて項垂れる。

 

「ん、ダメだよメル。今は分析の時間。落ち込んでいる暇はない。落ち込む時は確定した後」

「……そうですわね。うん、まだ確定した訳じゃありませんものね!」

 

ーー

ーー

 

 ぶり鍋を食した翌日。

 中央線からお目当てのショッピングモールに来た私達は、映画が始まるまでの時間各お店で暇を潰す事にした。

 今は雑多な小物が沢山所狭しと並べられているお店に来ている。

 

「ヨミ、これなんかどうだ?」

 

 一つのマグカップを持ったサノがヨミに駆け寄ると、彼女は満面の笑みを浮かべながら手に持っている三つのマグカップをサノに見せ、これが可愛いと会話に花を咲かせる。

 二つで一つ。ハートを半分に割り、合体させるとひとつの大きなハートマークが出来上がったり。もう完全に意味深だ。

 

「うう……やっぱり」

 

 私の脇にはしょぼくれた顔をしたメル。

 

「ん、まだあれだけじゃ確定とは言わないよ。まだまだこれから!」

 

 正直自身が無いのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少し書き溜め期間に入ります!
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