やっぱり出来てるんだー!きっとそうなんだー! と、今にも泣きだしそうな瞳で私に視線を送る彼女。二人の視界が入らない所で背中をさすり、ぐじゅぐじゅになりそうな鼻にハンカチを添える。
一昨日、「愛の形は人それぞれ」と言い切ったメル。それでもどうしてこんなにも辛い顔を見せるかと言うと、仲間外れにされる未来が見えて悲しいのだそうだ。
本人には申し訳ないけど……正直ちょっと可愛い。庇護欲を搔き立てられる。
「どーどー。落ち着いて落ち着いて。はいスーハ―スーハ―」
メルは気付いてないかもしれないけど、三人が特殊な絆で結ばれているのは傍から見てても感じるのだ。私もその輪に入らせてくれないかなと一抹の寂しさを感じる程に。
日常の些細な心遣い。例えば、少し距離を置いた際、必ず振り返って居場所を確認する仕草。一緒にご飯を食べてて、美味しい? と視線を移し口角を上げる仕草。
基本、彼女達は友達だから、小さな頃から一緒に過ごしていたから多少の事は無下にして良いだろうとか。我儘を押し通して良いだろうとか。そういった自己表現をしたりしない。むしろ、相手を立て合うとか尊重し合う文化がある。
多少の隠し事はあるかもしれないけど、重要な秘密は共有して共感。
じゃあどうしようか? と最初の一言は特別ではなく、当然の帰結になる。
「スー……スー」
正直自信はないけど、私の目から見てサノとヨミが特別な関係になったとは思えない。自身ないけど。
普段からいちゃいちゃしてるからいつも通り。手を繋いでた事案に関しては何も根拠は持ち合わせてないけど、もしメルの想像通りの関係だったら真っ先に言ってくるはずだし、そもそも三人の関係性を考えたらまずありえない。けど、それは黙っておく。
「ふふふ、サノはヨミと愛を育み、シロは時期に姉さんに捕食されるでしょうから、そうなればいよいよ私は一人になってしまいますね。ふふふ……」
瞳のハイライトが消え、闇落ち間近になるメル。
棚に飾られているイかれ狂った鳥の人形をおもむろに掴み、今日からあなたが私の友達になるのかしら? とぼそぼそ独り言を言い始めた。怖っ。
「ん、メル。もうそろそろ映画の時間じゃないかな」
「人類はいつだって争いを続け、いつしか滅びの道へ──へ? ああ確かにそうですわね」
ここで大人しくしててと彼女を置き、夢中でショッピングをしているサノとヨミを代わりに呼びに行く。
私達もそうだが、二人は二人して最近こそこそと何かをしているのは知っている。一体何を企んでいるのだろう。
「ふふふ!」
「くひひひ!」
雑貨屋の入り口付近の会計カウンターに二人はおり、互いにお財布を出し、幾らになるかと割り勘の計算をしていた。大きな紙袋の中に、5つの梱包された何かが詰め込まれており、今日は持って帰らないからと送料の加算分はどれくらいかと店員さんに詰め寄る。
「送り先はキヴォトスサイクル西海岸支店で。受け取り主はどうする?」
「うーん、シロちゃん宛が一番安全じゃないかな」
「それなら私の家宛が一番いい」
背後にこっそり立っていたから、若干サノの肩が震えびっくりした顔で私に反応を返す。
「おいシロ、絶対内緒だし絶対開けちゃだめだぞ!」
「そんなことしないよ。でも開けたらどうなるの?」
「くひひ、死ぬね!」
なんて物騒な物を送りつけようとしているのか。この雑貨屋さんには銃火器など売っていなかったはずだけど。
「あ、店員さん。その梱包の中にこれも一緒に入れてください!」
ヨミが渡したのは真四角の形状の薄い木箱。恐らく額縁か何かだろうとは思うが、外装は厚めの紙で包まれ、お高そうなシーリングワックスで留められている。よっぽど大事な物らしい。
「よしこれでおーけーだな」
「ん、じゃあ宛先は私の家の住所書くね」
「ふひひ、助かる~! 姉さん無邪気に開けそうだしね!」
お会計を済ませ皆でメルの所に戻ると、彼女はぽつんと哀愁漂う背中を見せながら、ぬいぐるみに対してまだぼそぼそと喋りかけていた。呪物にする気かな?
「あはは皆さん……映画の時間に遅れましてよ……」
おでこ周辺に暗い影を落としていると錯覚する程テンションが低い彼女に二人はやっと気付いたみたいで、ふらふらとエスカレーターに向かって歩くメルの背中を見て「なんかテンション低くないか?」とか、「くひ……重たい日なのかな」とノンデリカシーな推敲を言葉で漏らす。
「シロ、何か知ってるか?」
「んー……ううん、何も知らない」
「まさかメルちゃんに限って拾い食いとかは無いはずだから、きっと別の要因だね」
「そうだな、ヨミじゃあるまいし」
「あー! サノちゃんまたいじわる言った! 言っとくけど今まで生きてきて拾い食いしてお腹壊したのって一回しか無いんだからね! というか三日三晩飲まず食わずの訓練が悪いんだよ!」
「そうだな、あれは傑作だったぞ。私も笑い過ぎて腹筋崩壊したくらいだからな。もう一回やってみるか?」
「ふん! こんな綺麗な所に落ちてる物に私の胃袋は負けないんだからね!」
原因は君達だよと口に出したかったが、彼女も彼女達の事情があるだろうから、私は静観を決め込む。
向こうではうらめしそうに横目で視線を送るメルの姿。自分だけ先頭を歩いて誰も付いて来てくれてないからか、どこか荒んだ表情になる。
ーー
ーー
「これがクローバーグループが威信をかけた超大作ですわ! 私も制作に関わってましてよ」
しょぼくれた顔のメルのご機嫌を取る為、私とサノとヨミは一丸となって彼女自慢の今日の映画の事を聞きまくった。
構ってくれるのが嬉しかったのか、少しだけ瞳に光を取り戻したメルは胸に手を当て鼻を鳴らし、この作品が如何に傑作かを説く。
「見どころ……という派手な映像ではなく、その背景にある監督の意図を読み取る作品ですの。文学的と言いますか、行間を読み解く作品ですわ! ほら、先に上映終わりの観客を見てくださいまし。皆パンフレットを握りしめ頬に涙の跡があるでしょう?」
「ん、感動系? まぁヨミが持ってくるホラー映画じゃなければ」
「私も泣いちゃうよ!?」
確かに、どことなくお客さんの雰囲気が違う。
ある者は頭部にクエスチョンマークを浮かばせる程顎に指先を置き、ある者は無邪気に「分かんなかったけど面白かったね!」と満足した顔つきだ。
つまり、色々な解釈が必要な作品であるということ。
はいじゃあいきますよー! エッチなのはダメ―?
シケ―!!
鑑賞後の学生が入り口で今回出てくる主人公の等身大パネルの前で写真を撮っている。
こちらもまた無邪気に笑い合い、青春の一ページを刻んでいる。が、なんとも物騒な言葉だ。
エッチなのがダメならサノなんてどうするのだろう。彼女も一人の制作者、火炙りとかにされちゃうのかな。
「あれ、私達もしようか」
「ん、サノにとって天敵になるんじゃないの?」
「私はエッチじゃないぞ!」
「おほほ、それは鑑賞後が良いでしょう。その前にポップコーンと飲み物を買わなくてはですわ!」
現場で作品で盛り上がってる人達を見て気分が高揚したのか、メルはいつも通りのお嬢様に戻り、両腕を振って元気にフードカウンターに走っていく。ヨミはホットドック派だそうで、メルを止めにいかんと後を追うように走り出した。
「なぁシロ」
二人が去ったタイミングを計っていたのか、サノが私の耳元まで口を近づけ、ささやき声で喋ろうとする。
きっとメルの事だろうと思ったら、予想外の一言が放たれ、脳の別の部分が刺激される。
「あそこにいるのってヘルメット団だよな? あいつらがどうしてここに?」