舞台背景は冬。クリスマス前夜での出来事だ。
一人の少女は薄い布生地を握りしめ、待ちゆく人々から怪訝な目で見られながらも、必死に前を向いて生きようとしていた。
時には変なおじさんから声を掛けられ、時には変な成人男性から道程と歩みを諭され、少女は自分が果たすべき使命を思い出す。けど、その使命をどうやって果たしたら良いのか、彼女の中で答えは出なかった。
「君は理解してない。それ自体に価値は無いんだ。誰かの手に渡った時、真価を発揮する」
そんな時、手を差し伸べてくれるのが友人達だ。
狂い咲きした鳥の人形を体の一部の様に肌身離さず持ち続けるへんてこりんな女の子と、ガスマスクをした女の子。
二人は少女に知恵を授けるだけではなく、共に使命を果たすお手伝いをしてくれた。
──だって、友達が困っているんだ。助けるに決まってるさ。
そんな台詞はこの映画には出てこなかったけど、きっと映像の中の世界ではそんな言葉が吐かれているに違いない。
場面が変わり、少女は憧れの先輩に一つのプレゼントを渡す。
その中身は居たってシンプル、洋服だ。けど、少女は自分が渡したい物じゃなくて、相手がきっと困っているのではないかと普段から観察し、その中で一番良い選択を絞り出した。
深い尊敬と憧れが、彼女に中に愛情に近い物を産ませた。そしてその情は、彼女にとって一番大切な物とはと自問自答を産み、結果的に他の人にも向けている事に気が付く。その他の人とは、言うまでもなく友人達だ。
誰かに贈る事で得る気付き。数奇な運命で出会った友人達との奇跡の様な日常。相手に好意を形にして贈った事によって、自分自身では知覚しなかった感情に気付いた彼女は思いっきり走り出した。
この物語の結末。
そして流れるエンドロール。
ある者は頭にはてなマークを出し、ある者は笑い、ある者は瞳に涙を浮かべていた。
それでいい、きっとこの物語は色々な解釈をして良い物語なんだ。自分にとって一番都合の良い解釈を引き出し、その解釈に自信を向き合わせる。
──私にとって、今一番大切な物はなんだろう?
新しく出来た仲間達? それとも……未だ顔を見せていないこの世界のアビドスの皆?
それとも先生? それとも──過去の世界?
私もこの少女の様に気付いて走り出していれば、何か変わったのかな。
ーー
ーー
「……どうでしたか?」
劇場から出て、食べ終わったポップコーンの容器を捨て終わった後、開口一番にメルが感想を求めてきた。
確かにエンドロールに大実メルという名前があった。主に演出面のお手伝いをしていたのだそう。でもどれもあまりにも自然で、音楽に至っては弦楽器の奏でる感情の曲線がどっぷりと物語に浸透させ、どこが演出かと考える余裕さえなかった。
「私はどちらかといえばコメディに感じたな。だって売ってるの下着だぞ?」
「くひひ、私は友情のお話だったと思うな!」
「ん、私は自分を見つめる物語かなと感じた」
それぞれ解釈が違うのが私達らしいなと笑いあう。
個人的にはヨミの解釈とサノの解釈が真逆同士で驚きを覚えたのは内緒だ。こうやって友達の新たな一面を垣間見ることが出来たのもひとつの解釈。まだ見えてない、深い深い彼女達の心理。こうやって日々を一緒に生きていけばもっと知ることが出来るのかな。
「あらあらサノったら。人間切羽詰まってたら下着くらい売るでしょう?」
「売る訳ないだろ」
やれやれ、思慮が甘い甘ちゃんですこと。
瞳を細め片方の眉毛だけおでこ側に押し上げ、口を尖らせて嘲笑する表情にサノがぴくりと血管を浮き上がらせると、早歩きで彼女達二人の鬼ごっこが始まった。私を中心にぐるぐるとメルとサノが周り始める中、面白そうだとヨミがサノの後ろに付き、同じ速度で彼女の背中を追いかける。
おほほ。
くっ!
ふひひ。
目の前を通過する度にぽっぷする効果音は、私の三半規管を壊すのに時間は掛からなかった。思わず地面にしゃがみこみ、両手で両耳を塞ぎ地面に顔を俯かせ事が終わるのを待つ。
「こらシロっ! それくらいでへばるなんて情けないぞ!」
「こらサノちゃん! ペースを落とすと私に衝突するよ!」
「こらヨミっ! サノに衝突したら私の鼻があなたの後頭部に直撃するのですよ! けつをひっぱたいてあげてくださいまし!」
よく分からない会話を繰り広げてる彼女達の遊戯はいつ終わるのだろうか、このままここでうずくまりすぎてシロコマイマイになってしまうのだろうか。先が見えない展開に頭を──
─────どっっっかーーーーーん!!!!!!
急な爆発音は身を震わせ、真っ暗になった視界は天井の照明が切れた影響だと知覚する。
同じく状況にいち早く頭を回転させているサノが私達の方向に向かって「伏せて」と声を出すと、両耳からヨミとメルの「了解」という声がステレオに私の脳内に入り、咄嗟に同じ行動を取った。
目線から左、スマートフォンの光だろうか。一瞬私の視界に光源を差し込んだ後、今度は地面を映し出し、その反射光で全員の位置を確認する。視界にはサノとヨミの姿。ということは明かりを灯しているのはメルだ。
「皆大丈夫か? 怪我はないか?」
「ええ、問題ないですわ」
「これ、機材のトラブルって感じでもなさそうだね」
「ん、明らかに爆発音だった」
時間が数秒と経つにつれ、濃くなる硝煙の匂い。
火薬の混じったような空気が息苦しさが助長させる。
「ヨミ、何の爆弾だったか分かるか? C4?」
「ううん、そんな軍事的な物じゃないと思う。音が全然違ったし。低音よりも高音気味だったから、どちらかといえばパイプ爆弾系。きっとお金が無いテロリストだね」
「テロリスト!? ……私達のグループを狙っているのかしら。それとも別の目的が……」
すると、サノもポケットからスマートフォンを取り出し、ライトを付ける。
辺りは見回すと金属の破片の様な物が散らばっており、下手に手を突いたりしたら怪我をしてしまいそうな程だ。
「ヨミはメルの手を掴んで、シロは私の手を掴んでくれ。明かりがあるとは言え装備も無い暗闇だ、絶対に離さない事。まずはこの空間から脱出する」
私達が居たのは広いロビーの中心地。
背中側にはポップコーン売り場と劇場への入り口。視線の先には広い空間。
もちろん観客は私達だけではない。他の人達は気が動転しているのか、段々と周囲を取り巻く声の数が大きくなり、私達の方向感覚を鈍らせる。
「電波もジャックされてるわね。爆発からずっと圏外ですわ」
「そうか、それなら突発的な犯行じゃないな。計画を立てているのなら厄介だ。その中で観客の行動もある程度アルゴリズムを立てて予測している可能性がある」
「でもサノちゃん、そんな予算はさっきの爆発では感じなかったよ」
「ん、突発的ではない以上、使うところには使って他を削っているのかもね」
「配電盤を破壊するのなら極論花火でもいいからな。メル、スタッフルームはどこにある」
─────どっっっかーーーーーん!!!!!!