始発点から青春駅へ   作:3ご

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第20話:大実メルの場合(6)

 鼻孔を燻るコーヒーの香りと、思わず視線が誘導されてしまう甘いクリームの誘惑。映画を見終わった後に皆で寄ろうと話し合っていたコーヒーショップの奥の席。向かい合うソファの下に身を潜め、手元にある残りの銃弾の数を確認する。

 映画館からこのお店に隠れるまで、何度か戦闘になった。

 ワンワンヘルメット団を名乗る奴らは装備は普通だが、いつも戦っていたヘルメット団よりも数段強い。基礎的な身体能力もそうだが、何より戦いにおいての精神面での扱いが優れていた。

 銃弾の陰に隠れがちな彼女達。そこに億劫することなく、私達がリロードするタイミングを見計らっては特攻して距離を詰めようとしてくる。しかもただ闇雲に突っ込むのではない。自分達の能力では私達に敵わないのを知っても尚、それならば数で押し切れと言わんばかりの突撃だ。

 

 一言で言うと、勝ちに来ている。

 

 が、例え多少能力が上がったくらいでは私達を止める事は出来ない。

 私が机を倒して壁を作る陰で、メルはハンドガンだけで遠くにいる敵に頭を正確に打ち抜く。隠れる場所なんて植木鉢の影。匍匐の状態で腕を伸ばし、まるでライフルを放つような姿勢だ。

 彼女がサポートしてくれている間に、私は前方の敵を排除する。もちろんハンドガンなんて火力が足りないから、必然と肉弾戦。メルの手厚い援護を背に、銃を無造作に打ちながら敵の懐に潜り込み、拳と蹴りで粉砕。抵抗はしてくるが、それこそ私が今まで戦ってきた相手に比べれば造作もない。

 

「ん、メル。怪我は無い?」

「余裕ですわよ」

 

 辺りを見回し、胸に手を当て、息を大きく吸い込み肺を膨らませる。

 二人から聞いた事がある。彼女がこのような動作をする時は、どこか不安を感じているか、緊張しているか。どちらにしろあまり良い状態ではなさそう。

 理由は明白。それはサノとヨミと離れたから。

 二人といる時には決して見せない私だけに見せる顔は、どこかよそよそしい。

 相談事と私の家を訪ねたのは、私以外に相談出来る程の距離感がある人が他にいないからだ。いつも四人で一緒にいる大実メルは社交的だが、私と二人で一緒にいる大実メルはそこまで社交的とは言えない。物理的な距離は近いけど。

 

「従業員ロッカー室は奥かな」

「大体奥ですけど……どうされました?」

「ん、銃弾が足りない」

「従業員のを勝手に取ってはだめですわ!」

「緊急事態だからいい。それに、休むなら安全な場所がいい。奥に行こう。ほら早く」

 

 「そうですが」と乗り気じゃないメルの腕を引っ張り、ずんがずんがと間取りの奥まで足を進め、ドアノブに手を掛ける。が、カギが掛かっていた。いちいち見つけるのは面倒なので、片足を上げて思いっきり突き指し、ドア自体を後方へと蹴り飛ばす。

 

「冷蔵庫にお茶残ってた。とりあえず飲むよ」

 

 静止しようとする彼女を無視し、プルタブの音を鳴らし一気に喉に流し込む。思ったより美味しく感じ、口の中全体に行き渡らせる様に膨らませ胃の中に落とす。私自身も久しぶりの戦闘で緊張していたのか、お茶を飲んだくらいでほっとする自分がいた。

 彼女は両手で持ったまま俯いていただけだったので、無理やりプルタブを開け口に押し当てる。

 

「はい、ごくごく」

「むむむ!? むー!」

 

 私の持つ缶の傾斜が高くなるたびに、彼女の喉の鳴りが早くなる。んふー! んふー!といううねり声が三度鳴ったので一旦止める事にした。

 

「けほっ、こほっ! な、何を……?」

「ん、メルなんだか上の空だったから。戦闘の時はあんなに集中力高いのに」

「そりゃ、私はウルフ小隊のスナイパーですからね。切り替えスイッチは0か1しかないのです」

「……今も休憩中だけど、それでも戦闘状態ではある」

「シロが守ってくれてますから安心でしょ?」

 

 手元にある缶を口元に移し、残りをゆっくりと口に含み、鼻で息を出すと同時に口の中に含んでいるお茶を喉に通す。

 一つ一つの動作が洗練されたお嬢様の様な仕草は、時折機械の様に見えて、彼女自身の殻の中身を見せようとしない。自分はこうあるべきだと自分で選んでいるのか、そう選択させられているのか。それとも、まだ私には見せてくれない顔があるのか。

 

「メル、相手の詳細は本当に分からないの? ここまで用意周到な襲撃、予兆も捉えられないなんてそれこそ不自然」

「……グループ全体の脅迫なんて日常茶飯事ですもの」

「そんなに沢山来るの?」

「ええ、企業同士の戦いと言う訳です。きっとこのヘルメット団もどこかの会社に雇われたのでしょう。こういった時は主に株価に影響が出ますから」

「そこまで分かっていて、それでも相手の正体が掴めないものなんだ」

「調査はしていると思うのですが、相手も馬鹿じゃありません。足が付かない様に策を巡らせているのです」

 

 こういった手合い、ナミさんも相手にしているのだろうか。

 

「でも、シロは相変わらずの身体能力ですわね。流石私達に勝つだけはありますわ」

「ん、こんなものじゃないよ」

「ふふふ、ですわね」

 

 飲み干した缶を机の上に置き、隣にあったロッカーを物色。

 中から出てきたのはサブマシンガン、手榴弾が二つとハンドガンが一つ。

 メルはハンドガンだけで構わないと言い、サブマシンガンを私の手に持たせてきた。後方とは言え、もし背後から敵が迫ってきたら自分の身を守る火力が必要。制圧力の強い武器はメルが持つべきと渡し返そうとしたが、自分はどうにでもなるからと聞き入れては貰えなかった。

 

 優しい彼女の事だ。きっと自分の身よりも私の身を案じたのだろう。

 

「シロの身に何かあってはいけませんからね。姉さんに怒られてしまいます」

 

 正直言うと、私はそこまで信頼して貰えてないんだろうなと思った。

 ホシノ先輩なら逆に私なんか差し出がましくて、ノノミなら私が余計なことなどせずとも上手に解決する。アヤネやセリカなんかも私より賢い。そうやって彼女達を信頼していたからこそ、ピンチの時だって任せる事が出来た。

 

「ん、私は大丈夫なのに」

 

 いつもの二人と一緒に居る時は、戦闘でももっとリラックスしているのに、私と二人の時はどこか張りつめている。

 メルに、私ならどんな状況でもなんとかしてくれるかもしれないって思わせるには、どうすればいいんだろう。

 

「せめて、手榴弾は持ってて。私はあまり使い方が上手じゃないから」

「あらそうですか? では私が持っておきましょう」

 

 もっと、もっと頼って欲しい。

 もっともっと仲良くなりたいし、信頼し合いたい。

 

「メル」

「ん?」

「私、メルの事信頼してるから。だからサノとヨミの問題も解決するし、この襲撃も解決する。そしてメルの不安も消す」

「あらあら、信頼されてしまいましたね」

「ん、きっとメルも私の背中を見ないと安心できない様になる。いや、そうなるべき」

 

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