弾丸が空気を切り裂く音が響く。ラブが放ったショットガンの弾丸が壁を砕き、破片が飛び散る。私は即座に身を低くして、通路脇の柱の陰に隠れた。しかし、ラブの攻撃は止まらない。彼女の連射が柱を打ち抜き、私を追い詰めるように迫ってくる。メルもなんとか反撃に乗り出そうとしているが、メイン火力での差が激しいせいか向かいの柱で息を飲んでいた。
「隠れたって無駄だぜ!」
ラブの叫び声が響く。
私は一瞬の隙をついて、身を翻して反撃の一撃を放つ。ハンドガンの銃口がラブに向けられ、引き金を引く。しかしラブはその動きすらも見逃さず、軽くステップを踏んで弾丸をかわし、冷笑を浮かべた。
「ちっとも当たらねえな。そんなもんか?」
確かに好戦的な性格だったと記憶しているが、弾丸が鼻先をかすめる距離感でここまで冷静にいられる度胸は持っていなかったと記憶している。といってもあくまで私がいた世界での彼女だけど、ここまでの変化に違和感。
「メル、援護を」
言葉を掛けたのち、柱の下の方から掬い上げるように飛び出し、ラブに向かって突撃を掛けた。
低い姿勢から段々と高い姿勢へ。直線ではなくジグザグと、横方向だけでなく縦方向にも体を浮かせたりねじれさせ、弾丸を放ちながら突き進む。
「そうこなくっちゃな!!」
私とラブの距離が一気に縮まった瞬間、互いの呼吸が感じられるほどの至近距離で火花が散った。彼女の目が冷たい輝きを放ち、次の瞬間にはショットガンの銃口が私の額を捉える。ラブは一瞬の迷いもなく引き金を引く。だが、私はその一瞬前に彼女の手首を叩き、軌道を逸らす。
銃声が耳をつんざき、弾丸が私の肩をかすめて壁に突き刺さる。痛みが襲いかかるが、意識を集中させて彼女の腕をひねり、関節を極めにかかる。しかしラブは驚くほどの柔軟さで身体を回転させ、私の動きを切り抜けた。
「甘いね」と、ラブは不敵な笑みを浮かべながら、ショットガンを逆手に持ち替え、そのまま私の側頭部を殴りつけようと振りかぶる。
私は瞬時にその攻撃を見切り、右肘で彼女の腕をブロック。その反動を利用して、自分の左手を彼女の腹部に叩き込んだ。しかし、ラブはまるでそれを読んでいたかのように腹筋を固め、ダメージを最小限に抑える。
が、それだけで終わる私ではない。そのまま左手で襟元を掴み、力強く引き寄せながら、足を軸にして回転しつつ膝蹴りを繰り出す。彼女の肋骨に直撃するその一撃が、息を詰まらせるほどの衝撃を与える。
「くっ…!」
ラブは苦し紛れに後退しつつ、再びショットガンを構え直す。しかし、その隙を突くように彼女の懐に飛び込み、銃口を掴んで無理やり向きを変える。そして額にハンドガンの銃口を突き指し、勢いのまま鉛玉を打ち込もうとしたが、私の指が引き金を引いた瞬間、弾丸はラブの耳元を掠め、彼女の長い赤い髪を揺らすだけだった。
「シロ!!!」
背後でメルの声が聞こえる。
彼女と私とラブは直線状の位置。きっと今のラブにはメルが見えていないはず。
「分かってる」
銃を構えると見せかけて、右の拳を突き出す。
フェイントにまるまる引っかかったラブの顔面に私の拳がめり込むと、上体を反るようにラブの身体が後方に吹き飛んだ。そのまま地面に倒れるかと思ったが、片方の足が体全体を支え、無理やりに視界を開き、私に向かってショットガンを構える。
が、もう遅い。即座に側転で壁側に避けると、ラブは慌てたように銃口の向きを変え発砲。散弾は虚しくも全て壁にのめり込む形となった。
「くそ!!!」
甘い。
とても甘い。
声で悔しがるなんて時間の無駄だ。だって、その間にメルの放った弾丸が君のショットガンの中心部分に着弾して、銃身を折り曲げて使い物にならなくするんだもの。
「なに!?」
パーツ事飛び散ったショットガンを即座に捨て、後方に下がるラブ。
倒れているヘルメット団のハンドガンを拾い上げ、再び私達に向かって構え直すが、先ほどとは打って変わって威圧感は減り、脅威も0に近い。
「ん、降参するなら痛い目には合わさない。それと、首謀者の事をもっと教えて」
「はぁ? んなもんうちが知る訳ねーだろ」
「あらあら、そのようなお口を聞いてもよいのかしら?」
背後からメルが顔を見せ、私の横に並ぶ。
いつにない彼女の真剣な表情。この顔はどの顔だろう? 日常ではないし、かといって戦ったあの時みたいな冷徹さも感じない。私が知らない大実メルが、今ここにいる。
「け、後ろで隠れているだけの奴が偉そうに。そもそもお前が黙って攫われてればうちらはここまで被害が及ばなかったのによ」
なんて勝手な言い分。腹が立つ。
って、なんだろう。ラブの言い方だと疑問が浮かぶ。
「あなた達、日頃から私の事を狙っていましたものね。様々なヘルメット団が立ちふさがりましたが、肩慣らしにもなりませんでしたわ」
「ん……? 日頃から?」
「ええそうですわ。あれ? 言ってませんでしたっけ? シロの家に行く途中とかでたまに襲撃されてましたのよ?」
「……聞いてない、聞いてないよそんなこと。駄目じゃない、きちんと相談してよ」
「あまりにも弱すぎて脳内に入らなかったのですわ。決して隠していた訳じゃなくてでして」
「だからってもしものことがある!!! そうなったら私は悲しい!!!」
しまった、ついつい大きな声を出してしまった。
メルの瞳は驚きを帯びていてまんまるだ。小さな口を片手で隠し「あらまぁ」と声を漏らす。
「あらあら、こちらも困りものですわね。ふふふ」
「困らない。私の反応が正しい」
「ですわね」
メルはどこか嬉しそうな表情だが、当の私の心は複雑。
もし彼女が傷つくようなことが……想像もしたくない。
「ええっと、あなた、私と一対一で勝負しません?」
「なに? ……上等だ。やってやるよ」
「ちょっとメル」
「シロは下がってなさい。私も随分と低く見られてますから、ここら辺でプライドを見せなくてはなりませんのよ」
ハンドガンのマガジンを装着し、腰のホルスターに装着。
ラブも同じようにマガジンの弾数を確認し、ホルスターに装着。
「どちらかが戦闘不能になれば勝負はそこでおしまい。よろしいですね?」
「ああ。覚悟しろよ」
メルが空っぽのマガジンを天井付近まで宙に浮かすと、緊張感が増し、鼻から吸い込む息の音が脳内を駆け巡る。
ラブはマガジンが落ち始めたと同時にホルスターからハンドガンを抜き始め、床に接触したと同時に発砲するつもりだ。対してメルは棒立ちで動こうとせず、じっと虚空を見つめている。
「メル?」
当然、私の声に反応を示さない。
3、2、1。
刻々とマガジンは地面に近づき、床との接触はもうコンマの世界だ。ラブはハンドガンを抜き切り、指にトリガーを添えて準備万端。卑怯だが、ルールを明確に決めてない以上、責められない。
「貰った!!」
マガジンが床と接触し、金属音が鳴ると同時にラブの持つ銃口がメルに向けられ、発砲。
間髪入れずに、まるでマシンガンの様に打ちまくるラブ。
薬莢が宙を舞い、ラブの頬をかすり、地面に落ちた段階でラブの顔はまるで鳩に豆鉄砲を食らわせたように呆気に取られていた。
当然だ。正直私も何が起こったのか理解は出来てないが、至近距離だったのにも関わらずラブの放った弾丸は一発もメルに当たっていない。
「そういえばお伝えし忘れていましたわ。私、銃弾くらいでしたら避けれますの。最も、条件が揃えばの話ですが」
何糞と今度はメルに向かって拳を突き出すラブだが、彼女の身体はいつの間にか宙を舞い、地面との接触音が鈍い音を鳴らす。
速い。とにかく速い。
拳を潜り抜けて膝を腹に入れ、その反動を利用して今度は背中から叩きのめす様に絡み立った両手を頭部に打ち込む。
「あと、実は接近戦は得意ですのよ? サノに鍛えられましたからね」
糸が切れたように床に倒れ込むラブ。
きっと、メルの実力を見誤っていたのだろう。
かくいう私も、ここまでとは思わなかった。けど、だとしても関係ない。
「ほら、私はこの通りそれなりに戦えますのよ。だから心配なさらずに」
「駄目なものは駄目。絶対ダメ。ダメ、絶対!!」
もっと書く時間欲しいなぁ