ラブを撃破した後の私達は、すぐさま管制室を制圧し、ショッピングモール内の電力を取り戻して起動させた。館内の非常用の薄暗い照明が通路全体を照らす明るい照明に変わると、その展開が予想外だったのか、隠れて待機していたであろうヘルメット団の残党が慌てふためいて撤退をし始めている。
皆そろって頭を抑えているのは何かの合図だろうか。互いの顔を見合わせては、自分はどうしてここにいると相手に問うばかり。
そんな相手の事情など露知らずだ。のっしのっしと主通路を堂々と歩く私達。後ろを振り向けば地面に伏している屍ばかり。
「とぼけても情状酌量の余地はありませんわよ」
メルの銃口が正確に相手の頭を捉えたと思ったら、一発二発と瞬く間に迷いもせず銃声を響かせる。
敵はヘルメットを着用しているはずだが、彼女の一発を受けた者は例外なく地面にひれ伏せる形となっていた。私が放った銃弾ではすぐに倒れない相手でも、何故かメルが放つと糸が切れたようにその場に倒れ込む。
「これ? うーん……訓練ですわね。SRTの訓練は凄まじいものでしたから。特にウルフ小隊は別格だったと思いますわ」
「ん、訓練で銃弾の速度でも上がったりするの?」
「んーんー……ただの角度ですわね。ほら、シロはどっちかというと乱雑。このヘルメットを見てください。ここの側頭部の下辺りから斜めに向かって力を入れると装甲が薄い分ダメージが入りやすいのですわよ」
何を言っているのだろう。
そもそも銃撃戦の最中に跳弾の計算を暗算で行って正確無比に当てるというのがどれだけ神業かも知らないで。
訓練でどうにかなるとは思えない。絶対才能なんだ。そうなんだ。
「ま、知りたいならこの私メル式ヒットトレーニングを教えて差し上げますわ! 今の所クリアしたのはサノとヨミのお二人だけ──」
丁重にお断りしようと両手を上げで手のひらをメルに差し出す最中、遠くから聞きなれた声が聞こえた。
ライフルとシールドの影、つまりそれはサノとヨミだ。
「表のヘルメット団は粗方片づけたぞ。奴ら結構実力は付けたみたいだな」
「くひひ、だけど私達の乱舞の前では紙屑同然だったね!」
「はっはっは! 衝撃で制服がびりびりに敗れたのは想像が捗ったよな! 思わずガッツポーズしてしまったよ!」
「くひひ、サノちゃんいつも激しいもんね」
「乱舞!? びりびり!? サノちゃんえっち!?」
メル、急にはわわわと顔が真っ赤なトマトを連想させる程赤面したと思ったら、今度は深い海の様に目元を前髪で真っ暗にさせまるで海藻みたいなテンションになる。何故その言葉で敏感に反応するのか疑問だが、きっとろくでもない想像に違いない。映画でもエッチなのはダメと台詞であったのだから今日くらいは守って欲しいものだね。そもそもサノちゃんえっちは言ってない。メルの脳内補間だ。
「ん、二人共怪我は無い?」
「大丈夫だ。そっちはどうだった?」
「サノちゃん、電気が戻ったってことはそういうことだよ。メルとシロちゃんのコンビだもの!」
よかった。結構敵の数はいたはずなのに、本当にかすり傷ひとつ負わないなんて一体どんな芸当をしたのやら。
「ヨミ、こんな状況だ。あの箱はまともに目的地には送られないだろう。回収して私達で保管しておくか」
「サノちゃん了解! じゃあ皆で雑貨屋さんに向かおう……っと、それじゃダメなんだよねr。ねぇ、シロちゃんとメルは残りの残党を駆逐しててくれないかな?」
ヨミの提案に私は快く快諾したが、一方のメルは対照的に口を尖がらせて瞳を震わせて「いいですよぉ」とか細い返事を返すだけ。庇護欲を掻き立てられるし、加虐心も同時に搔き立てられるそのいじけっぷりは彼女の魅力の一つだ。
「ん、メル行くよ。まだ避難出来てないお客さんもいるかもしれないし、行動は速くね」
「分かってますよぉ」
ーー
ーー
「シロ、私の話を聞いてください」
「さっきから聞いてるよメル」
「いいえ、シロはクッキーに夢中ですわ」
「クッキーはもう食べ終わった。対象的な塩味のポテチが私の舌を狂わせている最中」
ショッピングモールも事件から数日。
あの後すぐにヴァルキューレが到着し、場を仕切り直し本格的に制圧。見事ヘルメット団は全員お縄にかかる結果となった。
首謀者であろう河駒風ラブは事情聴取に駆り出されるも、何故あそこにいたのか分からないの一点張りだそうで、捜査は難航しているとのことだ。とぼけかたが雑で彼女らしくないなと違和感を覚えたけど、だからといって私が無暗に顔を突っ込んでも解決する問題じゃない。静観が正解。
私達はテロリストの鎮圧に一役買ったということで、謝礼金が出た。
正直一役どころじゃなくて殲滅に近い結果を残したはずだけど、そこら辺の手柄はどうやらヴァルキューレに取られてしまった模様で、ちょっともやもやする。けど、謝礼金が想像以上の金額が出たのでこれまた静観と腕を組み口を紡ぐのだ。
おかげで、いつもは入る事の無いお店に入る事が出来た。
カイザーグループのスーパーがあるいつもの商店街の端に、目的地のカフェ。艶のある木目の扉を開けるとあら不思議、そこにはまるでファンタジーの世界に入り込んだような外観。
机はまるで大木を切り取ってそのまま置いたみたいな無骨なデザイン。椅子は樽ときた。注がれたブドウのジュースを受け入れる容器は樽ジョッキ。雰囲気も抜群だし、それに味もダイレクトで良い。
「ちょっと、ポテチじゃなくて私を見てくださいよ!」
私はメルと作戦会議を行っていた。作戦会議と言ってもただメルの気持ちの進退を聞くだけだが、今日の彼女は瞳に強い意志を秘めている。
「私は、自分との対話を進めましたの。一体私の心はどこまでサノとヨミを受け入れているのか。そしてその後の展開で私はどのように振る舞えばいいのか」
塩味の効いたポテチをぱりぱり頬張りながらメルの話に耳を傾ける。
「私、きっと孤独が苦手なんですわ。それもこれも幼いころから皆が一緒にいるのが当たり前だからです。同じ学校に行って、同じ情熱を追いかけて、同じように悲しんで……私は私自身を”個”と思っていなかったのかもしれません。多分……この中では一番自立が出来ていないのでしょうね」
樽ジョッキに注がれたブドウジュースをぐびりと喉に通す。唇を逆三角に結び、瞳を手元に傾いて虚ろ。顔を私に向けることなくただ淡々と口を動かし続ける様は、会話というよりも懺悔に近い。
「スナイパーは孤独で寂しいのです。ただ一人、前線で戦っている仲間を後ろからひっそり見守り、危険が迫れば降りかかる前に排除。チームでは動いていますが、距離で一番遠い存在」
またまたブドウジュースをぐびりごくごくと喉に通すと、ひっくひっくと瞳を憂いながらしゃっくりを二回。
「役割は……生き方をも変えてしまうものなのですね」
樽ジョッキの取っ手を握り込んだまま、机に頬を付け、上目遣いで視線を送るメル。まるで飲んだくれだ。
「ねぇシロ、大実メルって一体誰なのですか? 大実メルはどんな存在で、何をしようとしている人なのですか? 私に……私に彼女を教えてください」
むぅ、難しい聞き方をする。
でもね、あなたにいう答えはもう決まっているの。
「大実メルは──ねぇ、私達ってやっぱり狼みたいだと思わない?」
「狼?」
「そ、狼。メルは狼のお母さんだね」
「狼の……お母さん、ですか?」
「狼のお母さんはね、まだ足腰がままならない子供を常に監視しているんだよ。それが少し大きくなって動けるようになっても、狩りをしていてもね。で、一人前になれば狼の子供は親元を離れて孤高の存在になる。だってスナイパーには観察眼や群れを統率する役割があるんだもの。メルが統率してくれているから私達は安全に自由に動けてるの。だから、えっとね……メルはそういう生き方になってるんじゃないかなってこと」
きっと、狼のお母さんも同じ気持ちの筈だ。
愛していた我が子が巣立とうとすると、口を閉じたまま鼻声をならし、眉を下げて涙を流すに違いない。
「ずっと一緒にいると信じて疑わなかった子供達が自分の知らぬ間に飛び立とうとしてる。依存してたのに、急に隙間風が冷たく感じるんだもの。辛いよね」
私は、信じていた日常が急にひび割れて霧散し、取り返しが付かない所まで砕け散った。だから抵抗しようにも反応が出来なかった。メルは、もしかしたら今それをゆっくりと感じているのかもしれない。
「ううううーーー……ぅぅぅぅぅぅ……くすん。ぐしゅん。きっとそうなのかもしれませんわね。私は、私の幸せしか考えていませんでした。でも、シロの言う通りです。例え離れる展開になったとしても、仲間の幸せを願ってこそ真の友情──いえ、愛情ですわね」
うんうん、いい話だ。
といってもサノとヨミが出来てるなんて微塵も感じなかったが、ここは横やりを入れるのも億劫。
メルの物語、最後まで見させて貰うよ。
ぱりぱりポテチ美味しいなー。
「私は、大実メルは……この出来事を持って──自立します! さぁそうと決まれば行動ですわ! そう、蝉が自らの殻を破るように、私も自分で自分の殻を破らなければなりません」
急に立ち上がり、樽ジョッキを片手にして高らかに声を上げるメル。
そしてぐびぐびごくごくとブドウジュースを一気に喉に流し込み、木目の台座にドンっと勢いよくジョッキを叩きつける。
「シロ、明後日式を挙げます。会場は……教会がいいでしょう。参加するのは私とシロと……姉さんも連れて来ますか。サノとヨミには内緒にしておいてくださいね。明後日は私の誕生日ですから、きっとずっと忘れない日になるでしょう。さぁ、そうと決まればすぐに行動です!」
ぱりぱり。
ぱりぱ。
ぱり……ごっくん。
ん、本当に? 本当にやるの?
ーー
ーー
リンゴーン。
リンゴーン!
リンゴ―ーン!!
白が基調の絨毯。木造の長椅子、名前はピューと言うらしい。そこの最前線から3列目にの右側に私とナミさんは座り、主役の二人が来るのをそわそわしながら待ち構えている。
奥の祭壇にはメルがぽつんと一人。当然制服ではなく礼装姿。一般的なスーツだが、胸ポケットにはまるで百鬼夜行連合学院にありそうな紋様のバッジが取り付けられている。
「ねぇねぇシロコちゃん。一体何が始まるの?」
「ん、んー……友情式?」
ナミさんとそんな会話していると、背後で扉が開く音が聞こえた。
振り向くと、そこにはサノとヨミの姿。手元には大きな額縁が彼女達の手元にそれぞれ一枚ずつ。
人数は私達だけだ。当然音楽なんてならないし、礼装姿の彼女達は身軽で、ドレスを調整する役目を持つ人もいなければ誘導する人もいない。
「前へ」
震えた声でメルが二人に呼びかけると、二人は口を綻ばせながら真っ直ぐにバージンロードを歩いた。
手を組む訳でも、瞳を見つめ合わせる訳でもない。ただメルを見つめ、彼女の元へと歩む。
「ねぇねぇシロコちゃん! なんでこんなことになってるの!?」
「ん、ナミさん静かに」
そして祭壇で顔を向かい合わせる三人。
メルはすぐに瞳を伏せ、手元にあったボードの中身を淡々と読み上げる。
「親愛なるあなた達へ、本日は神の御前において、この二人が結ばれることを祝福するために集まりました。私たち一同がこの愛の証人となり、二人がこれからの人生を共に歩むことを、神のご加護のもとで支えていけるよう、祈りを捧げましょう。どうかこの二人に、愛と喜び、そして平和が常に溢れますように。神が二人の道を導き、その絆がより強固なものとなるよう、祝福します」
耐えられなくなったのか、ポケットにあるハンカチを取り出し、目元を抑えるメル。
「何言ってんじゃいあいつ」とぼそりと言葉を漏らすナミさんの口元を無理やり抑え、物語の続きを見つめる。
「末子サノ、月森ヨミ。これからの人生を共に歩む相手として、愛し、支え合い、人生のすべてを共有することを誓いますか?」
「誓いません」
「くひひ、誓いません」
「……へ?」
リンゴ―ンと鐘の鳴る音が響いたら、それに応じて鳥の羽ばたく音が耳に入って来た。
「まったく……メルは昔からそうだ。想像と思い込みが激しい」
「確かに手を繋いて歩いてたけど、あれは全然別の目的なのに」
「へ? ……で、でも」
二人が抱えていた額縁。さっき中身を見せて貰った。
サノが手を差し出し、繋いでいるように見せている絵。もう片方は同じようにヨミが手を差し出し、繋いでいるように見せている絵。製作者はきっとヨミだろう。
「メルちゃん。これからの人生を共に歩む相手として、愛し支え合い、人生の全てを共有することを誓いますか? 私とサノちゃん、そして姉さんとシロちゃんに」
「親愛なる皆様へ。本日は大実メルの誕生日をお祝いする為に集まりました。私達一同がこの愛の証人となり、皆がこれからの人生を共に歩むことを、神のご加護のもとで支えていけるよう、祈りを捧げましょう」
サノとヨミの言葉に心打たれたのか、唇を震わせ、ぽたりぽたりと祭壇に水滴を垂らすメル。
光芒がステンドガラスから差し込み、神々しく三人を照らす。片方は笑い、もう片方は眉を下げやれやれと言葉を漏らす。
これにて友情式は閉幕。と思いきや、ここはクローバーグループの敷地だ。きっと豪勢な食事が待ってる事だろう。私のご褒美はそれで十分だ。
「ううう、シロ。もしかして私は壮大な勘違いを……!」
祭壇からダッシュで足早に私の足元に近づき、憂いた瞳で問いかける物語の主人公がここに一人。
「うん。実は昨日二人には全部話しておいたんだ。で、今日を迎えたって訳」
「それならそうと早く言ってくれれば──」
違う、違うよ。
大実メルの場合、気持ちは形にして残しておくのが最善だと思ったんだ。
だって狼のお母さんは寂しがり屋。いつか離れ離れになっても、形となった思い出は子供をずっと信じれる材料になるんだもの。
「でも……嬉しいですわ。私の場合、こうでもしてくださらないと寂しくて死んじゃいますから。スナイパーは寂しくて孤独なのですから」
大実メルのメモリアルロビーはこれにて完了です。
さて、最近は少し更新の間隔が空いてしまいましたが、ちょっとこれからも空きそうです。
なので、書き方を変えます。今までは文字数が平均して3000字でしたが、次からはもっと多めにして展開する形にします。