始発点から青春駅へ   作:3ご

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時の魔術師 3

「お姉ちゃん! お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん!!」

 

 中央広場の噴水。その根元の縁に沿った形のベンチが4つ。近年の生徒数の増加に伴い、各所至る所に木目のテーブルやら椅子が導入されていた。当然噴水下のベンチも要望があり増設されたのだが、広大な敷地の広大な噴水の下にあるベンチは何故か人気が無く、ただぽつんと一人の生徒が座っているのみ。不人気の理由はただ一つ、水が跳ね飛んできて濡れるからだ。年頃の娘にとっては些細な外的要因が身だしなみを崩す事にもなる為、リスクを負ってまでこんな所に座る理由も無い。

 

 トリニティ総合学園はお嬢様校だ。

 

 様々な見栄と虚勢が複雑に入り混じり、その仮面が崩れるとなればあら不思議、校内カースト最下位まっしぐらだ。生徒たちは普通の学園生活を送らなければならないが、その普通とは他校の生徒にとってはとても難易度が高い。当然、編入してきた生徒はその歪な空気に耐えられるはずもなく、ただただぽつんとベンチでサンドイッチを頬張るだけなのである。

 

「おねーちゃん!! おねーちゃん!!」

 

 といっても、上手く溶け込む者もいる。溶け込むだけでなく、周りを巻き込み事件を起こし、沢山喧嘩しても最終的には周りと友情を育む者も。

 黒野ジウ(慈雨)は溶け込めない者の一人であった。彼女は喉に病を持ち、喋る事が出来ない。そのせいか人とコミュニケーションを上手く取る事が出来ず、気が付けばいつも一人で過ごしている。中学生まではまだ声を出して話す事もできたのだが、高校生になってからは完全に喉から声を出すことが出来なくなり、現在も療養中だ。色々病院を駆け巡って治療をしているのだが、まだ治る見込みは無い。

 

 それとは裏腹に、その妹である黒野リア(莉愛)は良くも悪くも目立つ存在だ。

 編入当日、早速クラスを牛耳っている派閥のトップからいびられそうになった。「おほほ、早く購買部でパンを買ってきてくださいまし」と如何にもな台詞を言い放たれ、周りがくすくすと笑う中、話し合いよりも暴力で解決した方が早いと判断した彼女は、早速相手の脳天に銃弾をのめり込ませることとなる。

 

”聞こえてるよリア”

 

 リアが暴れた日は、トリニティ内でちょっとした騒ぎになった。

 銃で撃たれた生徒の手下達がこぞってリアを追いかけ回したのだ。多勢に無勢、普通ならコテンパンにやられるところだが、リアは持ち前の頭の回転と、特殊な神秘の能力でその派閥を壊滅させることになる。

 その後、危険人物だということで正義実現委員会が出動することになったが、これも直接相対するのではなく正面を避けて陰から応戦。何故か委員長である剣先ツルギは静観を決めており、最終的にはティーパーティ所属のごり……聖園ミカに退治される結果となった。

 

「あのね、友達を紹介したくてさ。今時間大丈夫?」

”うん、大丈夫。……友達?”

「そ! 友達! 今日は授業抜け出して近くのカフェにでもいかない? あのレンガ壁のさ。お姉ちゃん好きでしょ?」

 

 いくら授業がBDで殆ど次週だからといって勝手に抜け出すのは良くないが、どうせ誰も自分なんか気にしないだろうからいいかと自己解釈するジウ。それよりも、リアが友達を紹介したいと言うのは結構珍しい事で、ジウもそれを不思議に感じていた。

 

 リアは学内ではそれなりに友達は多いタイプだが、プライベートとなると話は別になる。基本的に彼女は姉のジウにべったりで、若干シスコンの気もある程である。だからこそ、外では程よく仲の良い姉妹という関係性の仮面を被っているのだ。その理由はただ一つ。自分を経由して姉であるジウの魅力を他人に気付かせない為である。姉のジウは一人になると基本的にずっと一人でいるタイプだ。リアはとても崇拝欲が高く、姉が孤高でいる事を強く望んでいた。自分だけの姉であり、自分だけの存在でいて欲しい。そんな欲を持っていたのだが、ジウが声を出せなくなってからは深い悲しみが心を覆い、なんとか孤独から解放したいと日々精を出している。

 

 そんな妹のリアの企みにはすっかり気付いているジウ。そもそも人とのコミュニケーションがそこまで得意じゃなく、一人でいる事が好きな為、互いの需要がマッチしている状況だった。が、声が出せなくなってからはリアの思想が一変し、正直少し困っている状況である。

 が、それでもリアはそう簡単に友達など紹介しないと理解しているジウにとって、今のリアの台詞には驚きを隠す事が出来なかった。

 手に持っているサンドイッチが地面にぽたりと落ちる。そして「勿体ない!お姉ちゃんの食べかけのサンドイッチ!」とすぐさま手に取り口にいれてもぐもぐする狂人のリア。

 

”リアが紹介だなんて珍しいね。先生以来じゃない?”

「もぐもぐ……ごっくん。うん、自分で言うのもなんだけど珍しいよね。でも、なんかお姉ちゃんと気が合うなって思って」

”それだけ……? そんな理由で人を紹介するだなんて、生まれて初めてだね?”

「そこまで言う!? んー私も色々考えが変わってだね。それに私達の最大の目的のティタンの財宝について、全面的に協力するって子がいてね。一緒に居て楽しいし、それになんか落ち着いてるし、いいかなって!」

 

 砂が付着したサンドイッチを食べきったリアは、とにかく待たせているからと、ジウの手を引っ張り大聖堂の方へと歩き出した。

 学校を抜け、大聖堂の先にある橋を渡り切ると、そこにはお目当てのレンガ壁のカフェ。たまに貸し切りになる程の人気店だ。

 

 ジウはたまにこのカフェに来る。間接照明でライトアップされた壁面には珍しい絵画が飾ってあり、月に一回店主の好みでその絵画が変わるのだ。抽象画は時に考察を進ませ、脳内を豊かにする。つまみであるコーヒーを飲みながら手元のスマートフォンで色味の解釈を調べ、ああでもないこうでもないとメモアプリに書き込む。彼女の密かな楽しみである。

 それだけではない。このカフェにはたまにジウにとって見なれない子が来るのだ。SRT特殊学園の制服に身を包み、ひそひそと大事そうな会話をしている生徒が四人。

 一人は大人しそうな、図書委員をやってそうな見た目の子。正義実現委員会でも見た事のある髪型だ。もう一人は知的そうな見た目だが、度々「殴るぞ」と物騒な言葉を吐く。あとたまにドン引きする下ネタも言う。そしてもう一人は「おほほ」という笑い声が特徴の如何にもお嬢様という見た目の子。トリニティに居てもおかしくはない。そして最後の一人。獣耳が特徴的で、腰まで伸びた長い白髪。顔立ちはとても儚く、ぼんやりとした薄目の奥には長いまつ毛が絡まっており、宝石みたいな瞳。全体的に肌が白く、華奢だが一部が突出して大きい。

 そして、リアとジウの目の前に彼女達は居た。

 ジウは今日もまた大事そうな会話をしていると、好奇心を隠せない。

 

「おお、相変わらずいい雰囲気! えっと、待ち合わせの時間までまだ少し……ってえ? もういる?」

 

 ジウが席を取り店員にスマートフォンの文字を見せている間、リアはそのSRTの制服に身を包んだ集団に話しかけていた。

 あまりの展開に驚いたジウは、思わず大きなメニュー表で顔を隠し、端からリアの行動の一部始終を観察する。

 

「あれ!? シロコちゃんってアビドスの生徒さんじゃなかったっけ!? どうしてSRTの制服を着てるの!? というか隣の人達も初めまして!? 私は黒野リアって言います!!」

 

 獣耳が特徴的な子に顔を近づけ、「数日で髪伸びすぎじゃない?」と言葉を発しながら見つめ続けるリア。

 

「あの……私シロコって名前じゃないんだけど、人違いしてない?」

「へ!? 待ってへいへいへーい嘘はいけないよシロコちゃん。これウィッグなんでしょ? 私には解る」

「何を根拠にそんなこと……わひぃ!?」

「そもそも声でバレてるんだよね。今日はひとりで来るって言ってなかったっけ? ってあれ? くんくん……シャンプーいつもと違うんじゃない?」

 

 無遠慮に頭に鼻先を突っ込んで匂いを嗅ぐリアに最初は面食らって周りの人達だが、「殴るぞ」の知的そうな下ネタ喋る人物がリアの腕を掴み、警告を放つ。

 

「お前ミコトの知り合いか? 人違いじゃなかったらだとしてもそこまでそっくりな人物などいる筈もないだろう。つまり……スパイだな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

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