「ス……ス……スパイだってーー!?」
そう叫ぶ彼女に対し、カフェと言う場所は大声を出したらいけない場所なんだぞとツッコミを入れたいジウだったが、それよりも、まさかたまに観察している人達がまさかの本当に特殊部隊だったことに驚きを隠せないでいた。SRT特徴学園はまさに機密の塊とは聞いていたが、ただ話しかけただけでスパイ容疑をかましてくるとは。ジウの好奇心はさらに高まり、メニュー表で隠していた顔をさらに横にずらして、リアが展開する始まりの物語を傍観者として見守る行動に移る。
「ちょっと、そんな大声を出してはいけませんよ。サノもただ絡んでくる人にスパイだなんだと容疑を掛けてはいけません」
「でもなメル。こいつはミコトの頭皮に直接鼻を突っ込んで嗅ぎ始めたんだぞ? これがスパイじゃなきゃ一体なんだんだ? 説明出来るのか?」
「くひひ、私は説明出来るよ」
奥に居た大人しそうな女の子が手を上げ、その隣にいるミコトの頭皮に手を被せ、獣耳の根元を親指と人差し指でゆっくりと撫で始める。受け手のミコトはというと、眉をしかめ、目元を直角に鋭く構え、いかにも不機嫌だぞと言いたげな顔をする。が、それとは裏腹に頬を染め上げ、鼻から息を吸い込み数秒止めると、今度は肩を落としながらゆっくりと口元から息を吐き出した。両手は内太ももの間に差し込んだまま動かない。
「なんだヨミ。お前なら説明出来るって言うのか?」
「くひひ、見て見なよこのミコトちゃんの恍惚とした顔! これがミコトちゃん唯一の弱点とも言える。そしてその弱点を知っているという事は、どこかで密接に関わっているということ。つまり──!!! ミコトちゃん正直に言いなさい。私達に内緒でそういうお店行ったでしょ?」
なるほどこれは名推理だと、サノとメルの目が真ん丸に開かれミコトと呼ばれる少女を見つめる。
あられもない疑いを掛けられた彼女は必死に抵抗の声を上げるが、その度にヨミが彼女の獣耳の弱点という弱点を刺激し、声にならない声を上げさせ続けるのだ。
「あっ、ちが……そんな、──やっ、んん……行ってな──い」
そんなやり取りの一部始終を見ていたリア。彼女自身もどうも待ち合わせの人物ではないのかと疑いの心は晴れないままもやもやとしていたが、以前友人の獣耳をこれでもかと触りまくった際、次やったらほっぺぎゅーぎゅーの刑という宣告を受けていたため、ここまで受け入れている彼女はもしかしたら本当に人違いかもと脳内に混乱が生まれている最中だった。埒が明かないのでいちゃいちゃしている彼女達に無言で背を向け、ジウが座っているテーブルまで移動し、席に座る。
「ごめんねお姉ちゃん。なんかもう瓜二つのそっくりさんが居たんだけど人違いだったみたい。ドッペルゲンガーって存在するんだなぁ」
”キヴォトスは広いからね。似ている人の一人や二人いるもんだよ。っていうか、まさか本当に特殊部隊系の人だったなんてびっくりしちゃった。私が抱えている謎がまた一つ溶けたよ」
「え、気になってたんだ!」
”うん、でもどんな特殊部隊なんだろうね! ヘリで降下とかしたりするのかな”
「おお! 確かにそれは気になるね! 私も今思えばSRTの人と会話するの初めてかも。でも今の時間って学校で訓練してるんじゃないの? さぼりかな?」
”……案外落ちこぼれかもしれない。お前たちはもう好きにしろって言われてるのかも”
「だはは!! それ一票入れる!! 確かに落ちこぼれの可能性もあるね!! お前達に任務を言い渡す。今日はカフェでお茶でもしてくるがいい。抹茶を克服してきなさいとかね!」
そう会話をしている彼女達二人の背後に一人の影。
リアもジウも互いに同じタイミングで背中に悪寒が走り、恐る恐る後ろを振り返ると、そこにはさっきまで獣耳を触られて恍惚とした顔をしていたミコトが見下すようににらみを効かせていた。
これは只者ではないと瞬時に悟ったリアとジウ。きっと銃の腕前も運動神経も自分達ではきっと敵わないだろうと判断した彼女達は、 これまた瞬時にへりくだりモードへと突入するのであった。
「ふーん……私達が落ちこぼれねぇ」
「へ、へへへ。あっしは何も言ってないでゲスよ。全てはこちらにおわす姉が始まりっス先輩」
”スマホ音声で聞きにくくてごめんね。でも、私の思考はリアの思考と一緒だから、私が言わなくてもきっとリアなら言い始めてたはずなの。あと秒で裏切ったねリア。今日はご飯抜き”
「醜い姉妹喧嘩は辞めなさい。ねぇメル、ヨミ、サノ。私達が落ちこぼれだってよ。どう思う?」
ミコトのその言葉に呼応したのか、彼女の席に座っていた三人が不敵な笑みを浮かべ、ニヒルな笑い声を上げ始めた。
サノは指を顎に添え「そうかそうか」とコーヒーを口に含み。メルは「舐められたものですわ」と紅茶の香りを嗅ぎ。ヨミは「きひゃひゃ」と甲高い鳴き声を漏らしながらポケットからジャーキーを取り出し歯で引きちぎり口の中でもぐもぐする。
「私達は落ちこぼれだからね、ここに来る客の情報は常に収集している。黒野ジウはたまにここにやって来てはいつもぼーっとしているのは確認済み。けど、まさか妹を連れて来るなんて予想外。しかもトリニティで問題を起こした妹だとわね」
「問題? お姉ちゃん、私って何か問題起こしたっけ? 偉そうにしてくる奴の脳天に銃弾をぶち込んだだけなのにね」
”それは問題だよリア”
「まーちょーっと暴れちゃっただけなのにさ。ふっ、まさか特殊部隊に私の情報が行ってるなんてついてないね。まさかあなた達がここにいるのって私達を監視する為?」
”酷い言い掛かりだよリア。でも、私達の情報を調べるってそこまでする理由が無いよね”
「ん! お姉ちゃんの言う通り! まさか本当に特殊部隊だっていうの? SRTは機密の塊って言うけど、こんなに早くボロが出る?」
そんな彼女達の単純な疑問に動揺するミコト。
その様子に先程とは打って変わってテーブルに体をを傾けてリラックスし始めるリアとジウ。
へりくだる姿は変わり片手に顎を乗せ口元を尖らせ、絡んで来た輩を面倒臭そうにつまんでは投げるように値踏みする。
”この人本当にSRTの人なのかな? ほら、憧れでコスプレする人っているでしょ? その手合いなのかも。だってなんかあまりにも露骨……わなわなして涙目になってるし”
「流石お姉ちゃん! 確かに特殊部隊の人がこんなちんけな会話で動揺する訳ないもんね! それにそもそもこんな時間にカフェでくつろぐなんてどうかしてるよ。だって確かSRTって日常生活でも規律を重んじてる訳でしょ?」
”そうだよね。はぁ、なーんだ。それっぽいコスプレをした人だったってオチか。折角本当に秘密の特殊部隊だろうって考察をしてたのに、種明かしされたらなんかがっかり”
「で、どうなのミコトさん? ずっと突っ立ってるけど。何か言い返せることないの?」
「うう……ぅぅぅぅぅ……違うもん。違うもん違うもん。私達は特殊部隊で……うわぁぁぁぁぁぁあああん!」
ミコトは振り返り素早く仲間の元に擦り寄ると、三人が彼女を囲みどうどうと落ち着かせようとしていた。
サノがキッとリアとジウを睨み、彼女は繊細なんだぞと威嚇。が、化けの皮が剥がれたと認識したリアとジウにはもう威圧は効きもしないのであった。
「はぁ、シロコちゃん早く来ないかなー。ふふふ、自分のそっくりさんがいるなんてびっくりするよね。唯一違うのは髪の長さと……胸か。胸は言ったら怒るかもしれないから黙っとこう」
”そんな事言ってリアは絶対言うよね。でも、今回は駄目だよ。胸は気にする人多いから。言ったら私が怒るからね!」
もうそろそろ感想とか来ると嬉しい飛び跳ねるやる気がでますね。