「シロちゃんシロちゃんシロちゃん!!!」
「ラジオ壊れてるわよ」と嫌味ったらしく愚痴を溢すナミさんをよそに、ヨミは仕事中だというのに今日も私の元へと訪れていた。
もちろん、ラジオというのはヨミのことだ。そんなこと言ってもし彼女に危害が加われば鬼の形相で加害者を詰めに詰めまくる癖に、普段はツンケンしているのはツンデレだからだろうか。この前のクレーム対応も震え上がる。ヨミのバイト先の同じチェーン店に大層理不尽なクレームが入ったのだが、ナミさんが言った言葉は一つだけ、「お前はもう二度と来るな」だ。
同じ店の従業員に聞いたのだが、他の店舗ではナミさんはこうも感情的にはならないらしい。原因と真因を追求し、双方に平等に応対。もしこちらが悪ければ相応の謝罪も行うのだそう。
が、サノ、メル、そしてヨミのいる店舗だけはあからさまに対応が異なるのだそうだ。端的に言えば全部客側が悪いと断言し、購入した商品全額返金して二度と敷地内に足を踏ませない。
「あ、姉さんおはよう。くひひ、今日もお店暇そうだね! それならシロちゃん少しだけ貸してくれない? ほんの少しだけでいいからさ!」
もし私が同じセリフを言えば鉄拳制裁どころではない。
目をカッと開き、まず息を大きく吸い込んでから私の手を掴み、事務室の奥へと連れ込み、頭からガブガブと噛みつかれなかねない。
──あのねぇー! 仕事というのはだねー!
──あーあ、そんなこと言ったらもしかしたらボーナス出ないかもねぇ!? 100時間残業プラスしようかしらぁ!?
きっと、中世もびっくりな過重労働を強いられるに違いないのだ。
だから、先日ヨミから同じセリフを聞いた時は背中がぞくりと寒気を帯び、一滴の大きな汗が首からお尻まで指で剃るような感触で流れた。
ん……ヨミ、御愁傷様。屍は拾ってあげるよ。と心の中でお祈りしたのだが、ナミさんの反応は私の予想とは正反対で「うむむ……まぁ少しだけなら」と、はちみつも顔負けの甘さを披露したのだ。
「シロちゃんシロちゃんシロちゃん!!!」
両手をバタバタさせ、私の名前を連呼する壊れたラジオのヨミ。
流石に二回目は無いだろうと恐る恐るナミさんの顔を覗き見る。
「うーん……ふんっ、仕方ないわね」
今日も砂糖の存在意義とはと思考させるほどの甘さを出すナミさん。
「やったー! さすが姉さんイケてるぅっ! かっこいい! 今度またマッサージしてあげるね!」
片手を大きく天に突き上げビクトリーと叫ぶ勝者。
「ふんっ! 絶対だからね! っと、その、えーっと……創作? はあとどれくらいで終わりそうなの?」
「くひひ、まとまった時間があればそこまで時間は掛からないよ! でもねー、今回はイベントがイベントだからきちんと書き込まないといけないし、ブラッシュアップもしないといけない。それにみんなにアンケートもとって最後は多数決で決めたり。沢山時間が必要なの!」
イベント。
そう、イベントなのだそうだ。
ここら辺の地域、西海岸区域の青春イベント。その名は「キヴォトスイラストコンクール」。
今回その参加者としてヨミも出場するそうだ。
「ねぇそれってさ、私達キヴォトスサイクルの宣伝にもなり得る?」
「くっひひー勿論だよ! だから多めに時間貰えないかな?」
「そっかー……むぅ、宣伝になるのなら」
不服そうな顔をしているが、どうせ当に心は決まってる。
ナミさんはヨミの好きな通りにさせてあげたいのだ。だからなんとか名目というのを欲しがっているのだ。
「シロコちゃん。宣伝になるのならそれは業務に当たるわね。ヨミのイラストは以前のポスターの時も評判良かったし、ただの無謀なチャレンジと言う訳じゃないでしょ。協力してあげなさい」
「ん……了解」
「やったねシロちゃんじゃあ早速脱ごっか!!」
服を引っ張るヨミの頭をペシっと躾けた後、エプロンを脱いで畳み、ロッカーの中からコートを羽織る。
「すぐ戻るね」
「いいわよどうせ暇だし。終わったら直帰しなさい」
「いいの? ……なんだか申し訳ない」
「遠慮したら許さないわよ!」
「くひひ、じゃあ早く行こっか!」
すみません。。。次回の更新は11月の半ばになります。
忙しくて身動きが取れないですが、11月の半ばからまた多めに執筆更新出来そうです!
できるだけ書き溜めは進めておきます。