始発点から青春駅へ   作:3ご

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第26話:月光は電子の森から光芒を差す(3)

「ところでメルリーさんの探している本って? またえっちなの?」

「私がいつも脳内ピンクだと思わないで頂戴!」

「概ね正解ですね」

「ん、感覚遮断って何? まだ答えてもらってない」

 

 赤面に染め上がったメルリーさんに質問攻めしまくっていたが、駄目だよシロちゃんそれ以上聞いちゃと、ヨミに片手で静止される。自分から使わせてと言ったのに隣にいるメルリーはほっと胸を撫で下ろした後、ヨミに向かって改めて前のめりの姿勢になり、そんなことよりもと話の展開を変え始めた。

 

「ヨミったら知ってる? イラストを描くものだったら一度は耳にしたことのある伝説の本!」

「伝説の本? ……ああ、知ってる」

「おお! ってヨミさんなら知ってて当然ですね!」

 

 壁の背もたれに傾きコーヒーを一口啜ると、またまた迷信なんか追っちゃってとメルとモミジに顔を向けながら瞳を細めるヨミ。

 

「その本を習得した者は光芒を得ると言われてるわ。もちろんご存知だよね?」

「くひひ、当たり前じゃない」

「ん、光芒? 光が差し込んでくるあれ?」

「大正解ですよ! きっと真夜中でも自分の周りだけ明るくなるんです!」

 

 何を言ってるのよとメルリーに流される。ちょっとした冗談じゃないですかと舌をぴょいっと見せるモミジ。メルリーは肩肘を付き溜息を吐き出すと、いつもと調子が違うじゃないと愚痴っぽく吐息をこぼした。

 

「だってヨミさんと久々に会えたんですよ! メル先輩だってどきどきしてたじゃないですか!?」

「あーあーはいはいそうですね。モミジ、後でヨミの時間奪って沢山お喋り出来るから。まずは情報収集でしょ?」

「ぬー……優先順位を変えますか。私達の調査って……あ、そっか。ヨミさんが何故イラスト業界から離れてたのかって話ですね」

 

 ヨミが業界から離れてたのは、きっとSRTの任務の影響だろう。二人の話ぶりから察するに、ウルフ小隊の事は知らなそうだ。敢えて話す事でもないから黙っとく。

 ヨミも念のためと、こちらに視線を合わせてウインクをぱちりと合図を送って来た。私は獣耳をぱたりと二回折りたたませ、理解したと合図を送る。

 

「ま、まぁそれも気にはなるけど! そうじゃなくて本の話でしょう」

「ん、本の題名は?」

「ザ・ルーメン」

「くひひ、光の単位の一つであるルーメン。プロジェクターのランプの単位だったりするね。もうその単語だけで本の趣旨は察せるかな」

「あらほんと? 読めば読むほど得る光量は多くなり、どんな真っ暗闇でも鮮明に自分を映し出せれる魔法の光。出自は不明だけど、かつでキヴォトスで一世を風靡した絵描きは誰もがルーメンを修得したという逸話が出てるくらいよ。そしてあなた……月森ヨミもその内の一人」

「そうですよ~! だから前々回のイラストコンクールだってヨミさんは各方面から狙われてたじゃないですか! 一部噂では、闇の組織にやられたから前回のイラストコンクールには出場しなかったとかなんとか言われてたんですからね!」

 

 どうやらモミジはヨミの過去が気になるみたいだ。

 メルリーは逆で、あまり触れてはいけないのかと探り探り入れている印象。

 

「くひひ、だから生きてるってブログにも書いたでしょ~? あれだけ名言したのにも関わらず誰も信じて無いなんてさ」

「だってここはキヴォトスよ? ま、生きてるって分かった時はほっとしたけど。だって私達は顔見知りじゃない」

「え? 顔見知り?」

「何よ違うと言いたいの?」

「……友達じゃないの?」

「うぐ……! え、ええ勿論友達よ! んもう! そう面と向かって言われると恥ずかしいだけよ!」

 

 時折出るヨミの甘え上手な所は別の人でも手に負えないみたいだ。

 

「ん、そのルーメンはどこで手に入るの? 算段は?」

「えっと、取り敢えず墓地にあるんじゃないか説が出てましてね」

「墓地?」

「ええ、アリウス地区にあるカタコンベなんかが怪しいんじゃないかとかなんとか」

 

 アリウス地区……は行ったことがないから分からないけど、トリニティ総合学園の近くだった気がする。少なくともここからは結構な距離だ。

 

「そもそもトリニティにカタコンベなんかあるのかしら?」

「メル先輩一緒に見たじゃないですか!? エデン条約の襲撃の時から噂になってますよ!」

「あらそうだったかしら? でも冷静に考えてみてモミジ。そんな所に本なんかあると思う?」

「うぐ……そりゃそうですけど。でしたら先輩は目ぼしい見当は付いてるんですか!?」

「ふん、そりゃー……ねぇヨミ知らない?」

 

 丁度空っぽになったカップを置いたタイミングでメルリーがヨミに視線を傾けると、彼女は俯いたまま口から大きく息を吸い込み、目元だけ私に視線を向けたまま口を開いた。

 

「どんな絵描きでもその本を習得すれば自身に光が差し込み、どんな絵を描いても人々を満足させ、絵描きとしての人生を輝かせてくれる魔法の本。富、名誉、絵描きとして全てを得ることが出来る」

「そうよヨミ。そんな本があれば一度は拝みたいと思わない? そして、あなたはそれを拝んだの?」

「……メルリー、もしかしたらね。知ることが出来るかもしれないよ。今回のイラストコンクールが終わるまで私達と一緒に行動すればね」

 

 メルリーの表情が一変。眉は下がり、口元は三角に尖り、視線はヨミから外さない。

 

「──読んだの?」

「さぁ? でも、私のイラストを見て読んだか読んでないかは判断出来るんじゃない?」

 

 見つめ合うヨミとメルリー。

 ピリピリとした空気が辺りを包み、モミジは緊張しているのかごくりと空気を飲み込む。

 

「ん、ヨミ知ってるの? もったいぶらずに喋るべき」

「んもーシロちゃんがそれ聞いちゃだめ! 答えなきゃいけなくなるでしょー!」

「ふーん、ヨミさんにとってそこのシロちゃんはとっても大事な友人なんだ。そうかそうか」

「おっとメルリーさんや。言っとくけどシロちゃん私よりも戦闘能力は高いからね。まじで」

「そ、そそそそれは無理ですよメル先輩!」

 

 隣に座ってるメルリーが私の肩に腕を回し、さすさすと肩を撫でる。

 

「シロちゃんや、無料とは言わないよ。ヨミを説得してはくれないかい?」

「ん……んー」

「駄目だよシロちゃん篭絡されたら!」

 

 ああ! と慌てふためくヨミの腕をがっしり掴むモミジ。

 

「ヨミ、私はお宝が好き。知ってるよね? ヨミはお宝を知ってるの?」

「ぐー……お宝と言えばお宝だね。でも、人によっては価値が無いかもしれないよ? 私にとっては一生払えない額のお宝だけどね」

 

 一生払えない額のお宝!? 万……いや、億? いやまてまて、ヨミが一生払えないレベルだ。それなら……兆までいくんじゃないか!?

 

「ふっふっふ、ルーメンだのお宝だの、少なくともヨミの画力の謎が解明されるのならなんだっていいわ!」

「なんだっていいです!」

「ぐぬぬ、ついにバレる時が来たか。んもーシロちゃんったら」

「ヨミ、分け前は1/3はあげるから。メルリーさんとりあえず頭金1千万円ね」

「え!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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