「〇月〇日〇曜日。ついに私達知識解放戦線は、例の伝説の本であるルーメンの手掛かりを見つけた。なんと友人である月森ヨミがその在り処を知っているというのだ。月森ヨミとは今やイラスト界隈、いや、絵に関わる者達なら知らぬ者などいない存在である。各所で行われるイラストコンクールを荒らしに荒らし、その圧倒的な画力センスと持ち前の温かみのある演出が子供からご老人までの心を射止め、正に絵描き人にとっての神様とも言える人物。それもそのはず、彼女はなんとあの伝説の書物「ルーメン」の既読者なのだ。私達調査人である姫木メル、秋泉モミジは長年秘匿にされてきた一つの真実の壁を打ち破ろうとしているのである。この先の展開がどうなるのか……それは私達でも予想が出来ない。果たして無事ルーメンを拝む事が出来るのか!? 次回! 魔界迷宮アリウスカタコンベ編! 乞うご期待!」
カタカタっターンっっ!
独り言を並べながら勢いよくキーボードをぱちぱちさせるメルリー。文章も決まった様で、文末の王手は周囲に響く程の乾いた音を鳴らす。
「駄目よメルリー。私の名前が入ってるじゃない。個人情報漏洩してるよ」
「しかも友人って書いてますからね。下手したら私達まで狙われる可能性がありますからせめて伏字にしてください!」
「えー、でもヨミがルーメンを読んでるんじゃないか説は割と噂レベルまで昇華されてるからいいじゃない。もっと過激じゃないと折角のブログなんだし」
「ん、メルリー。もしヨミを襲う人が多くなればその分怪我人も増えてしまう。私は彼女の強さを知ってるけど、普通の人がまともに相対すればトラウマを植え付けかねない」
「ちぇっ」と口元を尖らせ、文章を細かく改善していく。
見つけられなかったけど西海岸はレッドウィンターと違うまた別の寒さがあって結構つらたん。という日記に早変わり。彼女は日頃から創作をしているのだろう。文章を打つのがとても速かった。
「くひひ、もうそろそろお店出ようか。メルリーさんの大きな声でさっきよりも殺気が増幅してる。私は一度お店壊してるからね。これ以上マスターに迷惑は掛けられないし」
そそくさと荷物をまとめ、速やかにお会計を済ませるヨミ。
実はイラストで十分稼いでるからと、私の言葉を聞くまでも無くお会計を済ませ、足早に店の外に出る。
「ん、悪いよ。別の時に返す」
「ごちそうさまです!」
「悪いわね急に絡んだだけなのに」
私の方がお姉さんなのになんだかお世話されて情けない。
「えっとね、それじゃあシロちゃん、あそこの壁にもたれかかってるスケバンを退治してきてよ」
カフェから出た商店街の左側、出入り口にずっと続く長方形の道の横で、にやにやしながら私達を見つめるスケバンが5人。あの制服はゲヘナの制服だ。
明らかに私達に視線を向けて舐めた感じの態度を取っている。
「シロちゃん大丈夫、遠慮しなくていいよ」
「ん、ヨミがそこまで言うなら。因縁を付けられる前に先手を打って帰路を確保するね」
アーケード通りは丁度閑散とした時間帯。ヨミはきっと戦闘が起こると見越して時間を調整して店を出たに違いない。それならば話は早い。求められる勝利条件はただ勝つことだけでなく、迅速に素早く敵を処理する。周りの建物に被害を出さず、それでいて敵の戦意を削ぐ圧倒的な戦闘力を見せつけるのだ。
「ちょっとヨミったら何を言ってるの。皆で銃を抜いた方が戦力的にも良いじゃない」
「そうですよヨミさん! 私だってサポートくらいは出来ますから」
「くひひ、まぁ見てなって二人共」
膝を落とし、体の加速装置を作動させる。
体重は前のめりに落とし、重量の遠心力を体の感覚に同期させ、足先で目標までの角度を調整。
いつも腰に装着してあるハンドガンの残弾数とマガジンを体の感触で認識。一人一発脳天に打ち込む事を考えると、威嚇射撃を交えてもマガジン一本を使い切るかどうかの瀬戸際だ。いや、最悪銃で仕留めなくても接近しての打撃で仕留めればいいだけ。銃は脅しでも良い。
「ん、行ってくる」
「ふひひ、いってらっしゃい」
体の前方を重力に任せて倒し、それと連動して膝を曲げて加速装置をチャージ。
水泳の壁際で踏ん張る足の様に、限界ギリギリまで角度を極めた後、まずは思いっきり片足を蹴り飛ばす。そして二歩三歩目と歩を進める度に身体中を加速させ、限界まで速度を上げた瞬間。
「ふっ!!!」
両膝を地面ギリギリのラインまで折り込み、慣性の法則を利用して一気に相手に麓まで滑り込む。
スケバンたちは慌てふためくばかりで銃の安全装置を解除するので手一杯。その間に両手でしっかりとハンドガンを握り込み、照準を脳天に合わせる。
「まずは一人目、次に二人目、そして三人目」
一発、二発三発と確実に脳天に打ち込むと、そのまま仰向けに倒れるスケバン達。4人目になるとなんとか銃を構えるのに間に合ったのか、今まさに引き金を引こうとしている瞬間だ。
だが、もう遅い。私の四発目は4人目と5人目のスケバンの銃を撃ち弾き、そして膝下に6発目7発目9発目と相手の姿勢を崩すための布石をばらまいているのだ。当然、頭は下がり、足の自由は効かない。
「丁度蹴りやすい位置にあるね」
滑り込んだ勢いを利用して前転し、逆立ち状態のまま遠心力を利用して体を回転。
一発目の左蹴り、そして二発目の左蹴りと回転したままスケバンの頭を吹き飛ばすと、そのまま地面に倒れ動かなくなった。
「う、うわぁ」
「ひ、ひぇえ」
地面を蹴り込んでから約3秒。生意気そうなにやけ顔をしたスケバン達は地面に倒れ、私は見下ろす。このままだと風邪を引きそうだから壁際のシャッターまで5人を引きずり、隣にたまたま落ちていた毛布を被せて上げた。これでアフターフォローも完璧。
「ちょ、ちょっとあなた桁違い過ぎるんじゃない!?」
「あんなの見た事ないですよ!?」
メルリーとモミジが駆け寄り、輝いた瞳で私を包む。
これくらいなんてことない。と咄嗟にツンケンしてしまったが、なんだか久しぶりの反応で照れる。頬を両手で隠したい。
「ふひひ、シロちゃんはとんでもないからね」
「とんでもないという次元を通り越してると思うけど……」
「ぜ、是非とも知識解放戦線にご協力を願いたいですね!」
「ん、私はとても忙しい身。別の仕事を引き受けたら私の上に怒られる」
そう、掛け持ちなんてしたら一体どんな事を言われるか分からない。
下手したら時給下げられる可能性もあるのだ。あとお菓子とか買ってきてくれなくなる。由々しき問題。
「し、シロちゃんの上!? 化け物しか想像できないわ」
「シロちゃんさんが恐れおののくなんて……腕4本とか生えてるのかな」
「ん、さんはいらないよ。好きに呼んで」
「くひひ、私達の真のトップだね。私でも敵わないし、シロちゃんでも敵わない。そして私とシロちゃんが束になっても敵わないのが私達のトップ。メルリーさんやモミちゃんなんて会った瞬間失禁して泡吹いて倒れるかもね。ね、シロちゃん!」
「ん……私なんてそれこそ3秒持たないから」
ひええええと恐怖に顔をゆがませるメルリーとモミジ。モミちゃんっていいななんか。
「恐ろしいわ……キヴォトスは広いわね」
「それこそレッドウィンターに来てもらいましょうよ。下手したらクーデター無くなるかもしれないですよ」
「嫌よ! 今でもただえさえ面倒なのに、恐怖政治だなんてもっと嫌! 怖い物には蓋をするべきよ」
「ん……私達の上は、お掃除が30秒遅れただけでも眉間に皺を寄せる。でも、私が一心に彼女の注意を引き付けてるから、安心して。表には出さない。私達だけの上の人だから」