始発点から青春駅へ   作:3ご

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第28話:月光は電子の森から光芒を差す(5)

 翌朝。

 冬季は客足が少なくなるせいか、仕事の時間はいつもより早めに行われる。日照時間も短くなるし、何より路面が凍結ばかりするから夜になると帰宅が遅くなるからだ。私はそれでもロードバイクに乗って帰宅するが、他のスタッフさん達はそう上手くバランスは取れない模様。

 

「はいはーい朝礼始めるよ。おら、さっさと集まれ」

 

 毎日恒例の朝礼。ナミさんが先導に立ち、皆の顔を一斉に拝めるように並列に並ばせ、少しでも身だしなみに怠りがあればその場で指導。皆の前で恥を掻かされる羽目になる。それは寵愛を受けている私でも例外はなく、この前は髪の毛ぼさぼさで皆の前で毛づくろいされる展開になった。スタッフはいつも他店の研修生などがやってきてそれなりの人数がいる。だからこそ気が抜けない。

 

「さって、今週は新店が5つ建つ週だね。基本はスタッフを集めて幹部を行かせてるから私は基本ノータッチだけど、あなた達はそれぞれの店に配属されるのよね?」

 

 複数の元気の良い返事が聞こえる。

 今日も人数は沢山だ。20人はいる。私の役目はいつもなら整備の研修担当などだけど、最近はめっきり手つかずだ。ナミさん曰く他の職員達にも教える事を教えないといけないとかで、ずっと私が担当でもダメだそう。今回の研修生だって誰にも教えてないから、彼女達も私の事を見て、一体この人は誰なんだろうと、疑問符を顔に浮かび上がらせる。

 

「はい、返事はおーけー。でもね、まだまだ整備の腕が甘いわ。これだと少しロードバイクに齧った素人と同レベル。もっとメカニックになる必要がある。その手の研修を今日はオンラインで学んでもらうわ」

 

 手元にあるタブレットに電源を入れ、画面をこちらに向けると、そこにはサノの顔があった。

 

「ねえさ……っとと、社長。彼女達が新しい研修生か」

「そうよ。電子工学を叩き込んで欲しいの。出来るわよね?」

「もちろんさ。基礎レベルでいいなら数日程貰えるなら簡単。今度の新店のスタッフ達だろう? 責任を持つ立場ならそれなりにトラブルに見舞うだろうから、そこも教えないとな。……あ、シロじゃないか」

「ん、おはよう」

 

 画面越しで手を振るサノ。なんか可愛い。

 

「ヨミとの作業進んでるのか?」

「ん、ぼちぼち。昨日はゲヘナの不良たちをしばいたよ」

「知ってるぞ、ヨミから聞いた。んでレッドウィンターの生徒とも絡んでるそうじゃないか。いいなぁ。私も忙しくなかったらそっち向かって協力したい所だけど……」

 

 と、朝礼中で申し訳ないから切るねとサノは通信を切る。

 普通ならいきなり何世間話をしているのさ、怒るぞ貴様らとナミさんから厳しい一言を貰う展開なのだが、やはりナミさんはサノや私、他二人にはとてつもなく甘い。むすっとした顔を作るだけで強くは言って来ない。研修生の人達も、あのナミ社長が雑談で怒らないなんてと、ざわめき始め出したくらいだ。

 

「はいはい、朝礼はこんなもんでいいでしょう。各自持ち場に戻りなさい。っと、シロコちゃんはこれからヨミと?」

「ん、約束してる。でも本当に今日もいいの?」

「いいわよ。仕事ってのは最終的にお金を稼げればいいの。あなたとヨミがイベントでトップを取ればそれが自ずと宣伝になって最終的に利益になるのだから。だから不甲斐ない結果だけは出さないで頂戴ね!」

「ん、頑張る。と言っても頑張るのはヨミだけど……」

「ま、どんな内容だったかの報告はイベントが終わってからでいいわよ。寒いから気を付けていってらっしゃい」

 

 さっきもさらっと言ったけど、今の所やったことと言えば不良をしばいたくらいだ。報告書で書くのかな、マガジン一本使い切りましたとか。

 

ーー

 

 海沿いの路面を15分程ロードバイクで走る。その後左に曲がり、市街地の中心部まで伸びている道路をまたまた真っすぐ。車も頻繁に走る道路だが、私の速度は速度制限値まで出るので基本は車両と変わらない感覚だ。路面も整備されている道だから振動も少なく、たまに走ると気持ちよくなれる道。

 5分程走っていると、いつもの脇道に知った顔が二つ並んでいた。昨日ヨミに紹介されたレッドウィンターの生徒。モミジとメルリーだ。メルリーはペンネームらしいが、私の知っているメルと名前が被る為ヨミからは基本メルリーと呼ばれているとのこと。

 速度を落とし、彼女達二人の所まで近づいていく。よく見たら両手を膝に置き、息を大きく吸い込んでいる二人。背中の向こう側のガードレールにはロードバイクが二つと、水筒が二つ置かれていた。

 

「ぜはー、ぜはー……う、運動不足を認識するわね」

「はぁはぁ……文化部には辛い所ですね。雪道で足腰は鍛えられているはずなのですが」

 

 二人に近づき、そっと声を掛ける。「わわわっ」とモミジの可愛らしい返事が一つと、「あ、昨日の」と自分の息を整えるだけで精一杯の返事が一つ。

 

「シロちゃんだったわね。ヨミの友達で、キヴォトスサイクルに勤めてるって言う。ヨミの一個上って聞いたから年齢で言うと18歳。ってあれ私敬語使った方がいい!?」

「メル先輩気付くの遅いですよ……」

「ん、そんなに畏まらなくていい。敬語でもため口でも、好きな方を選んで」

 

 私の言葉に少々戸惑いを見せたのか、二人は顔を見合わせてこちらの聴力などお構いなしに大きな声で密談をし始める。

 

「モミジ、あなたもため口でいきなさいよ! 私だけなんか馴れ馴れしい女みたいじゃないの」

「ぇぇぇえええっ。私はほらあれですよ。見た目的にも可憐な後輩じゃないですか! キャラにあってるんですよ!」

「なによそれ。私は馴れ馴れしいキャラだって言いたいの」

「直接言うとそうなりますが、遠回しに言えばまた違った言い方になりますね」

「結果同じで笑えるんだけど」

 

 どーどー二人共と肩に手を置き、言い争いをなだめる。

 とりあえずお茶にしなさいと水筒を指さすも、もう飲み終わって空っぽになって途方に暮れているとのことであった。「だから多めに買っときましょうって言ったのに」とモミジが頬を膨らませる。対してメルリーは「荷物多くなったら持つの私じゃない」とそこはかとなく心優しい先輩のように振る舞う。なんだか二人のやり取りはほっこりしてて良い。

 

「ん、私のお茶上げる。まだ飲んでないから開封もしてない。お店で貰った茶葉で淹れたの。リンゴ風味で美味しいよ」

 

 二人は早速自前の水筒の蓋を開け、こちらに差し出す。

 トクトクとゆっくりと茶を注ぎ込むと、風に揺られた液体は辺りに高貴な香りを広がらせる。その香りで二人の表情は一変。また顔を見合わせると、同じタイミングでそっとお茶に口を近づけた。

 

「おおお……おおおおー! なにこれ美味しい! 普通に家で飲みたい!」

「シンプルですけど普段は飲まない味ですね……! そっか、水筒にはこんな感じのも入れていいんだ」

「図書館でお湯沸かして入れようよ。大丈夫、どうせ冷気で乾燥してるから本まで広がらないって」

「ですね! なんとなんと……これがシロちゃんですか。私達から見たら謎多き高貴そうで凛とした強い女性。懐から颯爽と紅茶入りの水筒を取り出し、白骨化しそうな私達に生命の恵みを与える……と。ふふふ、やはり直接この地まで出向いた甲斐がありましたね」

「だな! 今回の旅はルーメンの正体を暴くのと、ヨミが懇意にしている謎に満ちた人。記事の冒頭も絢爛で華やかな文章になりそうだな!」

 

 〇月〇日。

 私達知識解放戦線は先日、二人の人物と相対した。一人はかの有名な神絵師を生み出す魔法の書「ルーメン」の既読者、月森ヨミ。そしてもう一人はその友人であるシロちゃん。月森ヨミと言えば知る人ぞ知る神の領域まで至ったと言われる絵師。本来なら彼女の謎を解くはずの任務だが、思わぬ所で大きな宝箱を発見する。急に喧嘩を売って来たゲヘナのチンピラ共。ヨミと私、モミジが逃げる準備を整えるが、シロちゃんだけは顔つきが違ったのだ。ばいんばいんと胸部を揺らしながら乳ビンタをかますと弾かれたチンピラは壁に顔を埋め込み。恐ろしい程の美脚から繰り出される堅牢な膝蹴りはパンツを見せることなく敵を空まで浮かび上がらせ、落ちてきた所をさらに蹴りで追撃する残酷さ。まるでサッカーボールのように何度も蹴り飛ばすと、いつの間にか絡んで来たチンピラ共はもれなく床に伏せていたのだ。しかも数秒で。私もそれなりの猛者は見てきたつもりだが、ここまでの桁違いを見るのは初めてだ。そして、そんなシロちゃんよりも上の存在がいると言う……もしかしたら私達は、とんでもない事に首を突っ込んでしまったのかもしれない。このキヴォトスを揺るがす、大きな事件に──。次回!「ゲヘナ壊滅!? 泣き崩れる生徒会長と高笑いするカウベル野郎!」絶対読んでくれよな!

 

「ふぅ、こんな感じかな」

「ん、全然ダメ」

 

 

 

 

 

 

 

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