「ぜはーぜはー……や、やいやいやい! つ、月森ヨミ! きょ、きょうこそはるーめんを……」
「ん、水」
「さ、さんきゅー。ごくごくぷはぁ! ヨミ! 今日こそはルーメンの秘密を教えてもらうわよ! ただ、勿論無料とは言わないわ。とりあえずそこのモミジは一旦好きにしていい」
「ちょちょちょメル先輩!? 後輩売っちゃダメなんですよ!? あれ!? レッドウィンターって道徳の授業ってありましたよね!? 無い!? そう……」
「ん、水」
「うう……ごくごく……ふわぁ、生き返りますね」
「そもそも一人だけ独占してずるいんじゃないの? こう、パブリックに公開とまではいかないからさ、せめて私達だけでも教えてくれてもいいんじゃないかしら。そう思わないモミジ」
「うう……。ヨミさんがルーメン見せてくれないと私売られてしまうんです。売られたくないです。うぅ……」
「ん、水」
今日の目的地は、以前ロードバイク大会でも使ったクリップピンのある坂道の上にある道の駅。
どうしてこんな辺鄙な場所になったかというと、この大会期間中はヨミが狙われやすくなるからある程度見渡しの良い環境の方が対処がしやすくて安全だということと、シンプルにヨミが高い所で太陽を描きたいという理由。
ヨミはルーメンを知っている。ずっと否定してないし、それに含みのある言い方と反応をするからだ。
──メルリー、もしかしたらね。知ることが出来るかもしれないよ。今回のイラストコンクールが終わるまで私達と一緒に行動すればね。
──私のイラストを見て読んだか読んでないかは判断出来るんじゃない?
明言はしてないけど、こんなの読んだと言っているようなもの。
私はお宝には目が無い所があるので、こういった秘密に関しては知りたがりな所がる。昔からの習性だ。
どうにかこうにかして自分だけネタバレしてくれないかとヨミにモモトークでお願いをしたのだけど。
ーん、お疲れ様。今日は大変だったね。
ーお疲れ様! ほんとだよも~。こんな可憐な女の子を集団でどうにかしようだなんてさ。
ーヨミがその気になれば私と大差ない時間で処理出来たと思うけど、どうしてしないの? 一度大きな痛い目に会えば次からは手を出してこなくなるのに。
ーだって私力の加減苦手で……。後遺症とか負わせたら嫌だし。
ー確かに。あの時のシールドでの突進は痛かったな。
ーんも~! またいじわる言ってる!
ーん、それでさ、ルーメンって何?
ー想像以上に単刀直入に聞いてきたね!
ー気になって……。
ーあれは絵師の中で有名な噂話なだけだよ。
ーでも、ヨミはそれを読んだんでしょ?
ーふふーん、どうかな~? 読んだのかな~?
ー気になる。教えてくれないの?
ーううーん、まだ教える事は出来ないかな。これはね、とっぷしーくれっとなの。機密事項なの!
ーそう……。
ーでもね、言った通り、このイラストコンクールでその正体を教えてあげる。これはとても大事なことなんだ! 私の描く理由でもあるし。心の支柱。だから私に時間をくださいな!
ー理由? ……ん、分かった。ありがと。
「くひひ、メルリーもモミちゃんもこれくらいでへばってちゃ光を帯びることなんて出来ないかもよ? ルーメンはね、あの太陽の向こう側にあるんだ!」
冬の大気から降り注ぐ日光の下。小さなベレー帽を被った画伯の様なヨミの姿。
右手のペンを持ち、太陽に向けて親指を立てる。
「ん、ヨミ、そのペンって昨日のカフェにいた人達が持ってたペンと一緒だね」
「へ? ああ! あのね、このイラコンでは一つ条件があって、スポンサーが支給するペンで描くって言うのが条件なの。線画と下書きはこのペンで行って、色付けは自由。このペン以外で描いたり無くしたりしたら失格」
「つまり、ペンを折るっていうのは事実上相手を失格にする行為なんだね」
「そうだよ。チップも入ってるから管理されてるの。不正防止だね」
見方を変えればなんて物騒な大会なのだろうか。これでは右手にはペンよりも銃を持った方が有利。徒党を組んで襲うのもそれなりに理にかなっているのかも。だってペンを折るだけでいいから。
「くひひ、ダメだよシロちゃん。暴力は何も解決しないよ」
「ん! まだ何も言ってない!」
「耳がぴーんと立ってるよ」
「み、耳くらい立つもん」
ヨミだけじゃない。サノもメルも私の心を読むのが上手い。もしかして胸の所にディスプレイでも付いているのかと疑いたくなるほど。
「可愛らしい獣耳だこと。触ってもいいかしら?」
「駄目ですよメル先輩! 見てくださいあの背中、隙を感じさせません。きっと半径1Mに入ったら蹴られますよ!」
「くひひ、ダメだよ二人共。シロちゃんの獣耳に触れるのは選ばれし者じゃないと命を取られるからね」
む、確かに誰もかれも触れる公共的なものではない。許しているのはあの4人だけだ。
「って今は獣耳はいいのよ。ところでヨミ、今回の集合場所をここにした理由は何?」
「理由? ほら、あの太陽を描くんだよ」
空に首を傾けると、そこには直視が困難な眩しい太陽。雲はかさばることなく太陽の周りを浮遊しており、影ひとつもない。
「太陽~? はぁ、まぁそれがきっとルーメンに繋がるのね。ここは一旦素直に聞いておくわ」
「メル先輩、どうせなら場面の一部を切り取る形はいかがですか? ほた、あそこの縁石にシロちゃんを座ってもらってですね」
「お! いいアイデアね! 映えるのも大事だし。シロちゃんお願いしてもいいかしら?」
ただ座って風を感じるだけでいいのだそう。
逆立ちよりましか。
「ん、了解。足は伸ばしてもいい?」
寒いけど、ロードバイクに乗って来たから体温は高め。仄かに熱気をかすめ取る冷気の風はほのかに気分を高揚させ、まるで春の訪れの様な穏やかさ。
車も無いし、夏によく見るバイカーたちもいない。私達だけの空間。
「くひひ、いい感じだね」
一番背後でスケッチブックに何かを描き込んでるヨミ。
彼女が描く姿を見るのは初めてだけど、こんなラフな感じに描くものなのだろうか。なんだかヨミからは別の目的を感じる。