始発点から青春駅へ   作:3ご

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第33話:月光は電子の森から光芒を差す(10)

「月が綺麗だね」

 

 夜。

 帰り道の中、特に何も考えずにロードバイクを漕ぎ続ける途中。そこにはベンチに座ってただ夜空に輝くお月様を眺めているヨミの姿があった。私を待っていたのか、それともただの偶然なのか。確かにここの海道沿いのベンチからの眺めは最高だ。私もふと漕ぐのを止めて空を見上げる時もあるくらいに。

 ヨミは私の姿に気付いたのか、片手を上げるだけで声を出さずに視線だけを送った。何か考え事をしていたのだろうか、いつもみたいに満面の笑顔ではなく、空と月に思いを馳せている様子だ。

 私も空気を読み、ロードバイクを壁に立てかけ、なるべく音を出さずにヨミの隣にへと座り込む。

 

「月が綺麗だね」

 

 数分後、重たい口を開き、ただ一言。

 知ってる。この台詞は愛の言葉でもあると。でも、流石に深読みしすぎだ。ヨミはただシンプルに目の前のお月様が綺麗だと感想を述べたに過ぎない。だってずっと月から視線を外さずいる。

 

「ねぇシロちゃん」

「ん?」

「シロちゃんはさ、誰かから言われた言葉で、忘れられない言葉ってある?」

「ん? んー……そうだね。あるよ、大切な物が」

「そっか。えっとね、私もあるんだ。大切な大切な、ずっと守ろうとしてた言葉がさ」

「……それがルーメンだったり?」

 

 こちらに振り向き、瞳を数秒見開いた後、また視線を月に戻し、そのまま瞳を俯かせる。

 

「うん……えへへ、そうだよ。流石シロちゃん! 私って単純だから分かりやすいのかな~」

「ん、ヨミがいきなりそんな真面目な話を振ってくるから」

「あれ、いつもそんなにふざけまくってるっけ? んー……あ、何も言い返せないかも。とほほ」

「その、ヨミにとって大事なのだったら、無理に言わなくてもいいよ」

「そうだね、そうしたいんだけどさ。もう姉さん達にも発表しますって言っちゃった手前、どうすればいいのかなって。で、じっとしてても仕方ないからとりあえずロードバイクに乗ろうって感じでここまで来ちゃった。もしかしたら仕事終わりのシロちゃんに見つけて貰えるかなって淡い希望を抱きながらさ」

「見つけて欲しかったってことでいい?」

「うぅ……手厳しい。はいそうです。見つけて欲しかったです」

 

 ヨミは、本当に見た目とは裏腹な人物だ。

 大人しそうに見えて逞しくて凛々しく、繊細そうで大胆。

 そんな彼女を見慣れているからだろうか、背中を丸め、視線を下に落とす彼女を見ると、どうしても放って置けなくなる。

 

「寒くない?」

「ふぇ? ううん、大丈夫」

「暖かい飲み物とかいらない?」

「うん? 急に優しいなんて変! シロちゃん何か企んでるでしょ!」

 

 いつもこれくらい優しくしてるはずだけど。

 いや、逆。いつもこれくらい優しくされているんだ。

 だから、ヨミが何かに躓いているなら助けて上げたい。

 

「私はさ、人に言えない事、沢山あるの。ヨミだって今まで生きてきて人に言えない事沢山あるでしょ? で、自分の口から言うとどうしてか憚られる。だから他人に当てて欲しい。そうすれば嫌でも言わなくちゃいけないから」

「……言えない事。そうだね、言えないというよりかは……それはもう美しい思い出になってるから、いくら友人でも干渉して欲しくない部分。変だね、皆家族みたいに育って来たのにさ。私って欲望的なのかも」

「独占してもいいと思う」

「そう? ……そう」

 

 家族というのは良く知らないけど、思い出から思考から、何もかも全て共有するのが家族だなんていうのは間違いだ。けど、それは私の考え。きっとヨミはその間違いが間違いだと思って、でも迷惑を掛けてるから言わなきゃと思って、葛藤して悩んでいる。

 

「私が何を言ったって、ヨミは頑固な所があるから。踏ん切りはヨミが付けないと解決しない。でも、解決しなくてもいい問題。ナミさんや皆にはああ言ってたけど、それでも皆は徹底的な追及はしてこなかった。それが皆がヨミに抱いている答えだと思うの」

「でも、姉さんに迷惑かけちゃった。それに皆にも……」

「ヨミが悪い所なんて一つもない。悪いのは裏で動いている生徒達や大人達。ヨミの描く絵はとても魅力的だから嫉妬しているんだよ。なんて情けない連中なんだろう、ヨミはそう考えないの? きっとヨミは凄く沢山の努力をしたはず。だからその実力がインチキだなんて言われたらもっと怒ってもいい。それか一緒に一つずつ敵の組織を潰していく? ヨミも知ってると思うけど……私、結構強いから」

 

 虚ろな瞳から月の反射光が見えると、今度は口角を思いっきり上げ、勢いよく息を吐きだす。両手で口元を隠し肩を震わせながらくすくすと小さな笑い声を上げると、指で目元を拭いながら再び私の瞳に視界を合わせる。

 

「くひひ。その顔その表情、本気で言っているのね?」

「ん、当然。持っていく装備だって考えている最中。C4は当然使うとして、ロケットランチャーも持っていくべき」

「でも、相手PMCも一筋縄じゃいかないかもよ? プロで生業にしているなら猶更だ」

「ん! 一ミリも問題ない。そもそもあんな奴ら銃を使わずとも制圧出来る。でもそれだと不安だから後方からメルの支援は必要かな。サノと一緒に連携すれば警戒するのは2方向だけ」

「プロに対して銃は必要ないって……。ロケットランチャーはどこで使うの?」

「金庫」

「ただの泥棒さんだ~!」

 

 どうやら冗談として捉えているみたいだ。

 私は、自分の友達が困っているなら絶対助けたい。

 もう……後悔はしたくない。

 今の私は大きな力を身に着けてる。誰だってどんな人だって守れる。

 

「シロちゃん……あのね、少しだけ時間が掛かるかもしれない。メルリーやモミちゃんには黙って置いて欲しいんだけどさ。でも、モミちゃんは別としてメルリーは実はルーメンにかなり近い物を持っているんだ。きっと、あと少し」

「時間なんていくら掛けてもいい。葛藤は解決するのにとても時間が掛かる」

「シロちゃんも? ……そっか、アビドスの」

「ん、私もまだ葛藤がある。その葛藤は傍から見れば些細な事。でも、内側から見たら大きな壁なんだ。だからヨミも沢山悩めばいい。そして話したい時に話してくれればいい」

「……だね」

 

 ベンチから立ち上がり、ヨミの手を引っ張る。

 

「今日は家に泊まっていくんでしょ? 後ろの荷物大きいし」

「くひひ、バレましたか。それではお言葉に甘えて」

「寝る前にイラスト描くの?」

「えっと、ホラー映画持ってきてる。一緒に見てくれる?」

「ん、嫌。コタツに潜って場を凌ぐ。エンドロールになったら起こしてくれればいい」

 

 

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