「で、今日はどこにいくの?」
「おはようございます二人共! メル先輩、朝はまずはご挨拶から始まるのですよ。ご存知ですか?」
「ああはいはいおはようおはよう。ったく、私は足回り筋肉痛で痛いのに、モミジはどうしてぴんぴんしてるのよ」
「レッドウィンターの雪道でだいぶ鍛えられてると思いますけど? メル先輩は部屋にこもりすぎなんですよ」
「原稿があるんだから仕方ないじゃない」
集合場所の海辺の道路の端。
朝からテンション高めな二人とは裏腹に、私とヨミは若干寝不足だ。
昨日の夜、究極お化け映画祭を開こうとしていたヨミを全力で羽交い絞めにしていたのだが、最終的に体力負けして床に突っ伏す。その隙にテレビにスマホを繋いで映画見放題アプリに接続すると、なんとそこにはとてもおっかないグロテスクな顔をした女性が映り込み始めたのだ。全力でこたつ内部に避難する私。だが流石にヨミを一人にさせてはいけないと、こたつに入り込んだ彼女の太ももを枕にし、片目だけで映画を視界に入れる。
後悔。
この二文字が私の中を駆け巡った。寝る時トイレには行けないし、隣に寝ているヨミに引っ付いてないと安心して眠れない。
そんな私の様子が面白かったのか、変な声を上げては脅かそうとするヨミ。私はたまらず彼女に抱き着くと、くすぐったいよと笑い声を上げる。
友達と一緒に寝ると、何となくの行為で笑ってしまうのは何故だろう? 寝不足になったけど、面白かったからいいかと納得する。
「また二次創作ですか?」
「それもあるけど、まだイラコンの構図すら決めれてない状況じゃない」
「もしかしてあの創作童話の続きですか!? あれ面白かったんですよねー」
「そうよ。だから部屋から出ないんじゃなくて出れないが正解ね。エッチ売りの少女程のインパクトは出せないかもだけど、なんとなくイズムは継承出来てるわ」
はいはい注目と手を叩き、私達の視線を独占するヨミ。
「くひひ、今日はね、なんとなんと……! メルリーさん目的のルーメンの在り処まで行きたいと思います!!」
「ふぇ?」
「へ?」
「ん?」
拳を天に掲げ、いきなりとんでもないことを言い出すヨミ。
ルーメンは物質だった? でも昨日は「大切な言葉」だと言っていた。それに、ヨミにとってルーメンは葛藤だったはずだ。
「昨日ね、シロちゃんに言われたんだ。まぁ内容は省くとして……。それでね、まぁメルリーやモミちゃんならいいかなって思って。それに、ルーメンの習得にはかなり時間が掛かるし」
「ふぇぇぇ!? メル先輩! 遂に……遂にキヴォトス中の絵師が憧れたルーメンに辿り着くことが出来ますよ!! これは快挙です!!」
両手を広げて喜んでいるモミジとは裏腹に、メルリーはジト目でヨミに視線を送り続ける。
「ヨミ、理由は?」
「くひひ、メルリーさんは流石だね。今、プライドが傷ついたでしょ?」
「ええまぁ。私も絵師の端くれだもの。自分の力で掴み取りたい願いがあったの。でもその願いを踏みにじる様に、あざ笑うようにヨミはルーメンを授けると言い放った。結果が見えてるからよね? 私では到底その領域に近づけないと踏んでの発言よね?」
「くひひ、どうかな? メルリーさんなら近づけると思ってはいるけど」
「それが気に食わないわ。私はね……創作にプライドを持っているの。そのプライドはね、今まで夢中になって努力してきた私の創作達。線の一本、ペンなんて何本潰したことか。一番のファンであるモミジの為に最高の結末を描く事だって。それが出来るのは、私が今まで努力をしてきたから。超常的な技術を得るだけなんて、それじゃあ魂はどこに籠るのよ!」
メルリーが腰から拳銃を抜き、ヨミに銃口を向ける。
「絵じゃヨミには勝てないわ。それに、キヴォトスの話し合いはこれが一番よね?」
「えーっと、えっとえっと! メル先輩落ち着いて」
止めに入ろうとするモミジの首根っこを掴み、私の懐へと引き寄せる。
ただのつまんない冗談なんかじゃない。メルの瞳は本気だ。それに……メルの本気を感じたヨミから、とてつもない殺気が放たれている。これは……あのカイザーの基地で見せたヨミの姿。ウルフ小隊のヨミの姿だ。
「くひひ、流石メルリー。でもね、少し違うの。私はあなたを見込んだからルーメンを見せるんだよ? きっと、自分なりに解釈して、昇華して、そして長い年月を掛けて吸収する。いや、吸収出来ないかもしれない。でも、ルーメンをきちんと解釈した者はそんな失態は犯さない」
「ふん! 結局私の日常と変わらないじゃないの! ええい、むかつくわね! むかつくのよ!!」
「何にムカついているの?」
「全部よ全部!! 私はね、悔しかった。ヨミのイラストを見て、涙を流して感動して、私もこれを描きたいと願った。覚えているでしょ? あの友達と団欒してるイラスト。どうしてあんな温かみが出るんだろう。どうしてあそこの線だけ色が違って、暖色の恍惚さが浮き出てて。でもスクリーントーンは物悲しい青色で、まるで青春とは間反対。それが……ルーメンっていう糞みたいな技術を使ったというのなら、私の感動はどうなるのよ!!! 私の情熱は? 私の涙は? そんなものが全部嘘だったなんて、見たくもないし信じたくもない!!!」
一気に言葉を並べ、息を上げるメルリー。
裏腹に、ヨミは真顔で、ゆっくりと背負った荷物を下ろし、ハンドガン一つを取り出し、スライドを引き臨戦態勢を整える。
「……ヨミ、私と決闘しなさい。それで私はルーメンを掴み取る」
「くひひ、別に構わないけど。……いいのメルリー、私かなり強いよ?」
「知ってるわよそんな事。でも、私はあなたを通じて、自分が何者で、何をしたいのか理解が出来た。そしてそれを実行するには、月森ヨミって人物に勝たないといけないの。私のファンの為に、そして私の為に」
マガジンを腰に巻いたヨミと、じりじりと後方に下がるメルリー。
盾は使わないみたいだ。
「ねぇヨミ。私ね、一度だけある人物と出逢ったの。本当に偶然。以前ニュースで見て、たまに動画サイトで見てその戦闘能力の高さに驚いた」
「へぇ、ちなみに誰?」
「SRT特殊学園の精鋭中の精鋭、FOX小隊。任務を遂行する光の無い眼差し。自分の正義を信じて実行するまっすぐな瞳。市街地で起きたテロに巻き込まれて、その時本当に偶然居合わせたわ。……本題を言うわね、私はヨミからその気配を感じる。あなた、その強さの秘密はSRTに居たからとかじゃないわよね?」
「くひひ、どうかな? でも……うん、FOX小隊ね、なんだか懐かしい名前。ユキちゃんにクルちゃん、ニーちゃんにオトちゃん、元気にしてるかな」
姿勢を低く、にらみつけるようにメルリーを視界に入れるヨミ。
「改めて自己紹介するね。私の名前は月森ヨミ、元SRT特殊学園の生徒で、部隊名は内緒。実績は色々あるけど……うーん、今のメルリーさんに伝わりやすい内容で言うと、私が居た部隊は全員一人でFOX小隊を制圧出来る力を持っている部隊だったってことだけ。それで充分でしょ?」
メルリーのピンを抜く音、それが戦闘の始まりの合図だ。
辺り一帯に充満するスモーク、そして遠ざかる足音。メルリーは一旦距離を取って戦おうとしてるみたい……いや、きっとヨミの圧力に圧倒されて距離を置くしか選択肢が無かったのだろう。
「狼はね、嗅覚が凄いの。どこに行ったのかも匂いの痕跡を辿れば一発で分かる。それに、速いし正確。群れで行動するのは家族を思いやってるから。だから……自分の領域に入られたら、手加減は出来ないかもしれないね」