無名の大魔族リーナ、魔族ライフを謳歌する 作:ヌメロン使いの男
「うわぁぁぁっ!」
「やめて、やめてくれっ!」
逃げ惑う人々を、次々に刺し貫き殺していく“なにか”。
平和な村を襲った人型をしたそれは、人間とは少々異なる点があった。
長く先端の尖った尾。
鋭い爪。
頭部に生えた二本の角。
人間の姿に似た、人間の天敵――魔族である。
「はぁ、やめろって言われてやめると思ってるのかな」
人の言葉を話し、高い知能を持つが、絶対に人類とは相容れない。
魔族に命乞いなど無意味である。
「なんで・・・こんなひどいことができるんだ・・・」
一人の青年が恨めしげに言う。
すると魔族は、喜々として青年に話しかける。
「おっ、命乞いじゃない!遺言なら聞いてあげるよ!さあ、言ってみて!」
そんな魔族の態度に、青年は激昂した。
「お前らは、なんでそんなに人を殺すんだ!人の言葉が喋れるのに、なんで人を食う!なんで、なんでこんなことを!」
魔族はそれを鼻で笑って答えた。
「ふっ、またそれかい。毎回思うんだけどさ、君らって自分達が普段なに食べてるかわかってるの?肉だよ、動物の肉!君らだって自分より弱いものを食べるでしょ?」
「人間は、お前らみたいに楽しんで殺したりしない!」
「えー、本当かなぁー?」
魔族はニヤニヤして続ける。
「本当に楽しんでない?君ら猪とか兎とか狩るでしょ?弓矢が当たったとき『よし、当たった!』って喜ぶじゃん。一人を集団で襲って荷物を奪って笑いながら殺したりするじゃん。楽しんで殺してるよね?」
「そ、それは・・・」
ニヤニヤした表情のまま、魔族は続ける。
「遊びで同族殺すとか、君らの方がよっぽど野蛮じゃん。それでよく僕達のこと『人の言葉を真似た獣』とか煽れたもんだね?聞いて呆れるよ」
表情を一切変えず、魔族は告げる。
「おしゃべりも飽きたし、もうさよならかな?」
「ま、待っ」
言い終えることなく、青年の首は落とされた。
やぁ、一般長生き魔族♀(921)だよ。
まあ人類へ与えた被害的には一般魔族と比べ物にならないんだけどね!
突然だが僕には、人間だった前世の記憶がある。まあ、もうほぼ覚えてないけど。
前世人間だったら人間殺すことに忌避感とか覚えないのかとか思うかもしれないけど、僕にはそんなの全然ない。
なんでかって?
話しかけようとしてるやつに魔法ぶっ放すのはまだわかるよ?
でもさあ、僕に抵抗の意思がないのがわかったからって拷問しようとしたり脱がせようとしたりするのは違うじゃん。
見た目5歳くらいの可愛い女の子にそんなことする?
てかこの世界にもロリコンっているんだね。
とかなんやかんやあった結果、「人は動物を食う。魔族は人間を食う。そこに何の違いもありゃしねえだろうが!」という結論に達したというわけさ。
もちろん、ちゃんと食べるときは残さず食べてる。村ごとね。
何を言ってんだと思うかもしれないけど、これを説明するにはまず魔法について説明しなくちゃいけない。
そう、なんとこの世界、魔法がある。
魔法使いがいる。戦士もいる。なんなら勇者もいる。もういないけど。
あと、人間を食べる僕達魔族もいる。
魔法を使えるのは人間だけじゃない。むしろ魔族のほうが得意。
でも、人間は知識を共有する。だから、
で、魔族への対抗手段を得た人類は、魔族を滅ぼしましたとさ・・・とはならなかった。
魔族の中でも、とんでもない魔法を使う奴らもいる。七崩賢とかそのへんね。
遭遇した奴らをすべて殺してるから結果的に知られてない、無名の大魔族ってのもいる。僕はたぶんこれに分類される。
こんなのは普通の人間が徒党を組んでもまず返り討ちにあう。
だから、魔族はまだまだ人類に脅威をもたらし続けるってわけ。
この世界の魔族は、生涯一つの魔法を極めてその魔法一本で生きていく。
でも僕とか、これから会いに行く僕の友達は、いくつかの魔法を覚えている。一つの魔法だけだと対策されたら詰んじゃうからね。
僕はみんなに他の魔法も覚えた方がいいって言ってるんだけど、魔族の誇りが〜とか言っててなかなか広めるのは難航している。
そろそろ友達の家につく頃だ。
「あら、遅かったじゃない」
彼女は僕の一番の友人、アウラだ。
七崩賢の一人で、“断頭台”なんて言うかっちょいい二つ名を持っている。
「いやー、手頃なサイズの村があったからちょっと食べてきちゃった」
僕がそう答えると、アウラは呆れたように言う。
「リーナ、あなたよくそれで人間に存在がバレないわね?」
あ、リーナっていうのは僕の名前ね。
「ふふん、証拠隠滅には力をいれてるのさ!」
僕の使う魔法の一つを使えば、村なんて簡単に跡形もなく消せるからね!
「ところで、今回は何の用だい?もしかして、また旅行のお誘いかな?」
「いいえ、今回は旅行じゃないわ。今回あなたを呼んだのは・・・グラナト領への侵攻に、協力してほしいからよ」