無名の大魔族リーナ、魔族ライフを謳歌する 作:ヌメロン使いの男
誤字報告感謝!
「フェルン、今日は出かけるよ」
朝、珍しく早起きしていたフリーレン様から出かけると告げられました。
「どこへ行くんですか?」
「知り合いに会いに行く。城の門の前あたりに来るってさ」
そう言うと、フリーレン様は手に持っていた紙をピラピラさせました。
「手紙・・・ですか?」
「うん。今朝返事がきた」
そういえば昨日、手紙と似顔絵を使い魔らしき鳥に持たせてましたね・・・。
「わかりました。すぐに準備をするのでちょっと待っててください」
「ところで、今日会う知り合いとは、一体どんな方なんですか?」
フリーレン様が戦った無名の大魔族――リーナの情報を渡したのは、その情報を大陸全土へ広めるためでしょう。
となると、手紙の相手は情報を大陸に広める手段を持っている方だと思うのですが・・・
「私の師匠の師匠で、ゼーリエっていうんだ」
「あの、大陸魔法協会の創始者の?」
フリーレン様が少し驚いた顔をしました。
「フェルン、ゼーリエのことを知ってるの?」
「知ってるも何も、魔法使いならみんな知っていると思いますが・・・」
「へえー、ゼーリエってそんなに有名なんだ。ところで、大陸魔法協会ってなに?」
「・・・ご存知ないんですか?魔法使いは全員、協会から認定されて資格を持っているはずなんですが・・・」
「・・・持ってないよ」
フリーレン様と話しながら移動しているうちに、城の門の近くまでやってきました。
見たところ、ゼーリエ様らしき方はまだいないようですが・・・
「派手にやられたものだな、フリーレン」
突然、背後に現れた、莫大な魔力を持った気配。
「立ち話もなんだ、座るといい」
いつの間にか近くにおいてあったイスに座り、ゼーリエ様はフリーレン様に話しかけます。
「手紙は読んだ。まさか、これほどの魔族が未だ隠れていたとはな。
魔法を複数使い、魔獣を生む。その上、その知識を他の魔族に共有していると?厄介極まりないな」
「うん。こいつは早く始末しないと不味いよ」
「こいつの情報はすぐに大陸全土で共有する。最優先で討伐するべきだとしてな。・・・お前の手紙にあった蛇のような魔獣についてだが、関係があるかもしれない物がある」
そう言うとゼーリエ様は、真ん中が空洞になっている杖のようなものを取り出しました。
「これは魔族との戦いが激しい地域で、暴動を起こした者たちが使っていたものだ。“魔弾”と呼ばれている」
「変な形の杖だね」
「確かに、見たことのない形です」
「これがおかしいのは、形だけじゃない。これは、魔法使いでもないやつが魔法を撃てるものだ。魔力が多かろうが少なかろうが関係ない」
誰でも魔法が撃てる杖?そんなもの、ありえるのでしょうか。
「それ、どういう仕組みなの?」
と、フリーレン様が私と同じ疑問を口にしました。
「気になるだろう。答えはこれだ」
そう言うとゼーリエ様は、その奇妙な杖を魔法で切断し、中身をこちらに見せてきました。
「これは・・・」
そこには、つい先日見た魔獣を小さくしたものがうごめいていました。
「これを人体に接続することで、強引に魔法を使えるようにする。それがこいつの仕組みだ。しかもご丁寧に、魔獣を検知できないように本体に細工がされている」
「魔獣を体に接続して大丈夫なの?・・・大丈夫じゃないか」
「もちろん体に害があるとも。こいつを使い続ければ、体が変化していき、最後には体を乗っ取られる。同じ人間に、平気で魔法を放つようになる。こんな物を、魔族の危険が大きい場所に広めるとは・・・虫唾が走るな」
フリーレン様は、杖の中の魔獣をじっと見つめています。
「・・・間違いない。これは、リーナの創った魔獣だよ」
「・・・やはりか。こいつは、想像以上に厄介な魔族だな」
ゼーリエ様は“魔弾”を焼き尽くし、懐から取り出したリーナの似顔絵を睨みつけました。
「知識を共有し、魔獣を創り出し、人間の行動を理解して利用し、あまつさえ人同士の争いをも生もうとする。こいつは確実に始末しなくてはならん。他の魔族を皆殺しにしようと、こいつが生きていれば戦いは終わらん。放置すれば、最悪人同士の殺し合いで人類は滅ぶ」
自分で手を下すだけでなく、人間同士の戦いも引き起こす魔族。
こいつはどこかで、今も争いを引き起こしているかもしれないのです。
悍ましい。
絶対に、こんな奴を生かしておいてはいけない。
似顔絵をしまい、ゼーリエ様はこう言い残して姿を消しました。
「『“謀略”のリーナ』。こいつは間違いなく、人類の最大の敵だ」
「いやっふー!スリル満点!」
「ちょっと、ふざけてないでさっさとなんとかしなさいよ!」
現在、僕達は森の中で竜に襲われている。
魔法で吹き飛ばせばいいだろって?
ところがどっこい、そうもいかない。
東の方角、結構近い位置に大きめの村があったから、僕達は今魔力を制限して全力で地べたを走っている。
ここで魔法をぶっ放したりしたら魔族がいるってバレるし、さすがにこのデカさのやつを魔法なしで殺すのは、アウラはもちろん僕でも無理。
「いやー、頑張って逃げ切るしかないよ!」
「無理でしょ!」
とはいえ、そろそろきつくなってきた。
竜は僕らを逃がすつもりはないようで、ずっと追いかけてくる。
これは仕方ない。魔法をぶっ放すしかないね!
魔力制限を解除し、振り向きざまに全力で魔法を放つ。
「喰らえ!『
爆炎が竜を包み込み、消し飛ばす。
「よーし、大勝利!」
「撃つんだったら最初からそうしなさいよ!」
「いてっ!叩かないで叩かないで」
パキッ
枝を踏んだ音が、木の陰から聞こえた。
「・・・見られたわね。始末するわよ」
「ちょっとストップ。・・・おーい、そこにいる人。出ておいで」
木の陰から出てきたのは、まだ幼い子供だった。
「きみ、名前はなんて言うのかな?」
「・・・アイン」
「そっか。アイン、こんな森の奥まで来たらダメだよ。魔族に襲われちゃうかもしれないからね。親も心配してると思うよ?」
「・・・心配してくれる人なんていないよ。お父さんもお母さんも、僕を逃がして魔族に殺されちゃったし、村の人たちも『お前も一緒に死ねばよかったのに』とか、『早く死んでくれないかな』なんて言うんだ。ぼくなんかに、誰も生きててほしくなんかないんだ・・・!」
ほう、それはそれは。こいつがいなくなっても、気にするやつはいないってことね。
「そう・・・でも、自分の身は大切にしなきゃダメだ。せっかく君の両親が守ってくれたんだからね。そんなに早く死んじゃったら、二人が悲しむよ」
そう言って、僕はアインの頭をなでる。
「わかった?もう一人で森の奥まで来ちゃだめだよ。僕との、約束だよ?」
「・・・うん、うん!ぼく、お父さんとお母さんの分まで、頑張って生きるよ!」
よかったよかった。
わかってくれたようなので、僕はなでていた手をどけ・・・
たりはせず、そのまま頭を握りつぶす。
自分の身を大切にしなきゃいけない、その理由を理解した瞬間に死ぬ。
守ってくれた両親も無駄死にってわけ。
悔しいでしょうねえ(笑)
「・・・リーナって本当に陰湿よね」
失礼な!
「生きる希望を失ってるやつに、生きる意味を見つけさせて、僕みたいな美少女になでなでしてもらえるという身に余る幸福まで与えたんだよ?代償を命で払うくらい当然じゃない?」
「・・・そういうことにしておいてあげるわ。そんなことより、服大丈夫かしら?」
えっ、服?
「あ、あーっ!?僕のお気に入りの服が、返り血で水玉模様になってるー!」
なんということだ。
たまたま襲った村の家にあった高そうなやつだったのに!
家にいたやつも「それだけはやめてくれ」とか言ってたし良いものだったはずなのに!*1
「これも全部あの村の奴らが悪いんだ!あんなところに村がなければ竜と追いかけっこする必要もなかったんだし!」
「いや、リーナが頭を握りつぶしたからでしょ・・・」
それは・・・そうなんだけど・・・。
「それはそれとしてむかつくから殺しちゃおう!」
理由なんて適当でいいんだよ!
だって僕ら人類の敵だし。
弱いくせに数はいるんだから、一人殺そうが千人殺そうが誤差程度でしょ?
「今回はあれで行こう!『
「あら、アインはどこに行っちゃったのかしら」
「さあ?またいつもの散歩じゃないか?」
あの子、いつも森の奥の方まで歩いていくのよね。
魔族に襲われたりしてないか、心配だわ。*2
あら、空が暗くなってきたわね。
洗濯物取り込まないと。
「おい。なんだ・・・あれ」
なんで皆、空を見上げて・・・
「・・・え?」
雲が、落ちてくる。
だんだん地面に迫ってきている。
「なにあれ・・・どういうこと?」
近づいてくるにつれて、それが雲でないことがわかってくる。
あれは穴だ。大きな大きな空に空いた穴。
穴の縁にあるのは・・・浮いている岩?
「あれ・・・ここに落ちてくるの?」
どんどん穴が近づいてくる。
はっきり穴の様子が見えるようになる。
縁にあるのは、岩なんかじゃない。
「牙・・・?」
誰かがそう呟いた。
牙があるということは、あれは。
「あれは・・・口ってこと・・・?」
そんな馬鹿なことがあるか、と否定したくなる。
でもあれは、確かに口だ。
私達を飲み込もうとする、巨大な巨大な口。*3
「逃げなきゃ・・・」
誰かが言った。
「逃げろ!みんな早く逃げろ!」
みんな逃げようとしている。
でも、足が動かない。
「なんでよ!なんで足が動かないのよ!」
恐怖で震えて動けない訳じゃない。
頭では逃げなきゃいけないとわかっている。
足に力も入っている。
でも、足が地面に縫い付けられたように動けない。*4
「ふふふっ、やっぱりこの光景は何度見ても愉快だね」
「・・・っ、誰!?」
建物の屋根の上。誰かが立っている。
「つよつよ美少女魔族のリーナだよ!・・・まあ名前を言ってもわからないと思うけどね」
血に塗れた服を着た少女。
彼女は、こちらに向かって何かを放り投げてきた。
「・・・え?」
飛んできたものは、頭のない子どもの死体。
それが着ている服には見覚えがあった。
「アイン・・・?」
「あっ、そいつの知り合い?」
少女がこちらを見る。
「そいつのせいで服が汚れちゃったから、この村の人たちも連帯責任で死んでもらうことにしたんだ」
「何を・・・言ってるの・・・?」
少女はニヤニヤ笑って言う。
「じゃ、僕はもう行くから。最期の時を楽しんで!」
そう言うと、少女は立ち去った。
数分後、巨大な口が私達を飲み込んだ。
リーナの陰謀、一瞬でバレる。
リーナは戦争の当事者双方に“魔弾”を提供するなどして、戦争を激化させています。
どちらか一方が優位に立たないように。
戦いができるだけ長引くように。
「人間同士で殺し合ってくれるなんてラッキー!」と思っています。