ミッドナイトランナー   作:ばきしむ

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3話[延命]

3話

 

「お前…俺に何をした…」

午前6時、彼は目を覚ました。私の首元には冷たい鋭利に尖った殺傷道具が突き立てられている。傷口が痛むのかその手は震えている。横に少しでも向けば、首筋が切れてしまいそうになる。小さな首が震える。

 

「え……えっと……」

こんな状況でまともに喋れるわけないじゃん……

「この…包帯…」

あ、もしや、察しがいい……?

「お前が…これを?」

「えぇ…とまあ、はい……」

「お前、いつ俺が外に出ろと言った?」

やっぱこうなるよね…やっぱりいけないことしちゃってたなぁ…私。

 

ナイフを突き立て緊張が続く中、男が口を開く。

「今度、許可なく外に出たら殺すからな」

……え、許してくれるんだ。こういうのって殺されるとかそういうのなんじゃ…?

「えぇっと…その…」

「つべこべ言わずにお前は前見て走れ!」

「…ひゃいいい!」

いつ殺されてもおかしくないなぁ……

そんなことをふと考えていると車内から1本の通知が入る。

「ズズズ……ズズ……」

(お、)

本部から無線連絡だ。今来るってことは…何か問題があったのか?

「ズズ…おい緑谷、枯野だ。今期分の集計の時間だ。今すぐ本部まで戻れ。」

うちの会社では一定の周期で「集計」と呼ばれるノルマの報告がある。稼ぎ上位の者は給料が増え、本部からの配給も多くなり優遇される。皆はそれを目指しノルマ達成のために勤しむのだが、私みたいな社会人初心者はいつも下っ端でノルマ達成には届かない……

今回は設定金額より多めに騙し取ったので初めて達成したのだが、その終わりにこんなことに巻き込まれてしまった……

「え、えっと…今はその、迎えない状況でして……」

「ズズ…あぁ?口答えすんじゃねえよ、早く戻ってこい!!」

今普通の職場だとパワハラで勝訴できるよなあ。こういうのって…

まぁ白タクの運転手なんて訴えたらそっちの方を突かれるし、もっと大事になってくるし…

怒られ続けてるけどやっぱ慣れないし疲れるんだよなあ。

「あぁあと、殺人事件の情報が回ってると思うがくれぐれも犯人ぽいやつは乗せんなよ、客として乗っちまったら大問題になるからな、いいか?絶対だぞ!」

無線のノイズと共に上司の罵声が車内に鳴り響く。今もしかしたらその犯人っぽい人を乗せてるんだけど…

「おい!緑谷!聞いてんのか?!あ?」

「その…もし良かったらその犯人の特徴ってお分かりでしょうかね?」

「は?なんでお前に教えなきゃいけねえんだよ!?」

「いや、特徴が分かんないと乗せたかわかんないので…」

「はあ…ったく……そいつのは身長180cmくらいで細め、白髪の20歳くらいの男だ。全身を黒いフード付きのレインコートで包んでいて凶器としてナイフを所持しているらしい。一応教えたがとっとと帰ってこい。てめえのせいで俺が怒られる羽目になったら面倒だからな!」

「は、はい!あの、あと…」

 

「それ以上喋るな」

「え?」

横を見ると男が目と鼻の先でこちらの話を盗み聞きしていた。普通無線がかかっていたとしても客には聞こえないはずなのだが……余程耳がいいらしい。

「おい、そこに誰かいるのか?もう客は乗せちゃいけねえはずだが?」

「いや、枯野さん違うんです少し外の様子が

ズッ

「え?」

無線を切られてしまった。

「話しすぎだ、黙って走らせろ」

「あの…前から思ってましたですけど、どこへ?」

「とにかく遠くだ、とにかく」

「あの、その…聞きたいことがありまして…」

「……」

あー…タイミング悪かったな…目的地がどこなのか分かったら良かったんだけど…分かんないとなるとこの人ともいつまで一緒にいるかわかんないし……

(やっぱ答えないよねえ…)

緊張した空気は一向に軽くならない。ただ進むのは、車の走行距離と時間。それに……

 

“ガソリン”

これが減ってくる。特に社内で配給されたこの車に至っては旧式で燃費が悪い。余計にすぐ減ってしまう。

もう既に無くなりそうなのだが言っていいのだろうか…

重々しい空気が立ちこめる。

(でも…最初よりはマシになったかな…)

彼のオーラが少し薄れてきている。少しだけ、丸くなっている。ほんの少しだけ。

(今なら言ってもいいかな……)

少しだけ勇気が湧いた。久しぶりに。

「あの…その…少し休憩してもいいですか?」

「駄目だ。」

「……じゃあ…ガソリンが切れそうなんですけど……ガソリンスタンドに寄っても良いですかね?……」

「……まあ…それなら仕方ないな」

 

ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック

 

かっこよく言うがそう難しくは無い。まず大きい要求を相手にする。相手はもちろんそれを拒否するが次に小さい要求をする。すると相手は要求を飲みやすくなるという心理学の一種だ。よく営業マンや会社員はこの用法を使う。もちろん、私たちも例外では無い。上司やお客に対してはいつも謙遜な態度を取らなければならない。そんな状況においてこれはとても便利。就活のときに学んだ知識をここで使うとは……案外勉強も損はしないんだな。

というか、案外普通に承諾してくれるんだな。てっきり断られるものかと…

 

時は、午前7時。

朝日は完全に顔を出し、通勤客がどんどんと増えてくる。朝日が照り、目を炙る。朝は嫌いだ。夜とは違い、人々の輪郭がクッキリと見え、見られていないはずなのに視線が痛い。特に私みたいに夜の社会に潜む犯罪者は。

長時間運転していたせいか、少し疲れてきた。普段明るい場所で運転しないせいか、慣れないことをしている。

彼がガーゼと包帯を交換しているのを見計らって様子を見る。これで何回目かは忘れたが徐々に流れる血の量も減ってきている。

そして顔色も良くなり前みたいな死人の色で無くなっていた。

「まだか」

「うぇ!…」

「早くしろ」

「は、はい…」

よくもあんな端正な顔でこう淡々とした怒声が出てくるのか…人とは見かけによらないな。黙っていれば俳優やアイドルと大差は無い。多少汚れてはいるが紛れもなくイケメンの部類だ。

にしても何でこんなに焦っているんだろうな。(顔はいいからホスト絡みか?)

ホストの事案。ありえない話では無い。この街、「鳴家」ではホスト絡みで女とトラブルで殺した、なんて珍しい話でもない。ちょっと前にも女と口論になり突き飛ばして殺したってホストがいたな…

なるほど……女ときたか…さぞかしモテるだろうなあ。羨ましいよほんとに。

「おい!そこのガソスタに寄れ」

「!!はいぃ!」

いかん。つい思い巡って考えてしまっていた。

慌ててハンドルをきる。いつものように車を横に停車させる。

やっとシートベルトが外せる。長時間運転していたせいで足腰が辛かったんだよな。あと、背中が蒸れて仕方がない…

「5分以内に帰ってこい」

行くことは許されたがまだその緊張は解けてはいない。見える位置にナイフが添えられる。

重いドアを開け当たりを確認しながらノズルを持つ。

目が合うと嫌なので平然を装いながら給油する。

「ふう…」

ようやく1人で休憩することの出来る場ができた。ちょうど給油が始まり満タンまで少し時間がかかる。軽く冷や汗を拭うとき、ひとつ閃く。

今こそ助けを求める場面なのではないか?

周りにはランニングをしている人や散歩をしている人などで結構な人数がいる。この距離ならば全力で走ればあの人はついてはこれない。今しかないチャンスだ。ただ、今走って「助けて」と声を掛けたら助けてくれるのだろうか。それが問題になってくる。今、「鳴家」にそんな人が居るのだろうか。

 

給油が終わり満タンの合図が鳴る。

給油ノズルを戻し、車とは逆方向に足を向ける。そして1歩を踏み出す。

 

ところだった。

「済んだか?」

慌てて振り返ると車から降りフラフラとしながら、車体にもたれている彼がいた。

朝日が当たっているはずなのに、彼の目にハイライトは無かった。

 




ばきしむです。小説って書くの意外と難しいんですね。書きにくい…
更新遅くなるかもだけど、応援してくれると嬉しいです。
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